第4話いざだるま山

 お彼岸も過ぎた九月下旬の木曜日、よく晴れた日だった。 

 授業を終え、僕達はだるま山へと向かった。

 秋めいた風はさわやかで心地よく、快調な滑り出しだった。

 やがて道は上りに変わり、緩やかな傾斜で多少息は切れたがぐいぐいと自転車は坂を登って行った。

 しかし、2、3kmも進むと、坂の傾斜はどんどん増し、やがて激坂と化した。「ハァハァ」と自分の息の音しか聞こえない。やがて太腿がプルプルと痙攣を始めた。そして脚は硬直して激痛と共に言う事を聞かなくなり、バタンと横にコケた。

「お〜い、大丈夫か」

 少し後を走っていたサエキが声を掛けてくれたが、脚が痛くて声が出ない。

 しばらく悶えた後、

「あ、脚攣った〜」

 やっと声が出た。仕方が無いのでその場でしばらく休憩する事にした。20分くらい経ったであろうか、脚の痛みも落ち着いて、自転車を押して歩けるくらいには回復した。まだまだ先には長い坂が続いている。

 僕達は自転車を押して、ひたすら現場を目指した。

 計算違いだった。僕達は平面の地図しか見ていなかったので、傾斜に対する認識が甘かった。と言うか舐めていた。

 現場まであと半分くらいの地点でもう1時間以上経っていた。

「どうする、戻る?」

 とサエキが聞いてきたが、

「いや、頑張ろう」

 と先を目指した。

 意地を張ったわけでは無い。ここまでもう半分来てしまっている。ここで現場に到達せずに引き返すのが勿体なかったのだ。後日出直す手もあるが、その時はまたこの坂を最初から登らなくてはならない。そんなの辛くて嫌なのだ。とは言えこのペースだと現場に着く頃には辺りが薄暗くなってしまうかもしれない。出来るだけ明るいうちに現場に到達しなければ。

 目撃証言は夕方から日暮なので、絶好のタイミングと言えるのだが、正直言うと僕達だって怖かった。故にまだ明るい四時くらいに着いて現場を検分した後、日暮前には街へと戻る予定だった。

 微妙なタイムスケジュールの中、ただひたすら自転車を押した。

 恐れていた通り、太陽の光が弱まって来た頃、更に傾斜を増した坂の上にカーブミラーの頭だけが見えて来た。

 カーブミラーが現場の目印だった。

 後100mくらいだが、それが長い、自転車を押しても押してもカーブミラーが大きくならない。少しずつ少しずつミラーの支柱が見えて来た。

 もう僕達は息が切れて、前を見る事が出来ず、路面のアスファルトを見つめながら登っていた。

「フ〜着いた〜」

 坂を登り切ったカーブのところは僅かに平地になっている。二人で顔を上げて前を見た。

「ん、人がいる」

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