第2話心霊ヲタク

 きっかけは・・・

 高校二年の二学期始業式の日だ。

 友人のサエキヒロシが、夏休み明けの挨拶も無しにいきなり話しかけてきた。

「オイオイ聞いたか?だるま山の話」

 高二の夏休み、僕はそのほとんどをアルバイトに費やしていた為、友人達と会う事も無く、だるま山の話など知る由も無い。

「何それ?知らないよ」

 サエキヒロシは僕がその話を知らないと判ると、途端に嬉々として続きを始めた。

「だるま山に幽霊が出るらしいんよ」

 だるま山は修善寺から戸田へ抜ける途中にある山だ。この学校からなら自転車でも行ける。

「それもさ、セーラー服の女子高生だってさ」

 更に畳み掛ける様に続けるサエキヒロシは満面の笑みで僕の顔を見つめたまま静止した。

 反応を待っているのだろう。

「ドッヒャ〜そいつはスゲェな、セーラー服ってマヂかよ」

 とか言って目を白黒させたら、サエキヒロシもさぞ満足しただろうが、生憎そうはいかない。女子高生って言われてもクラスに半分はいるし、セーラー服と言っても、確かにうちの学校はセーラーでは無いが、だからと言って珍しい物でも無い。

 大事なのは幽霊ってトコだけだ。 

「それって誰から聞いたんだよ?」

 と、おそらく相当冷めた目で僕は聞き返した。

 みるみるサエキヒロシのパンパンに膨らんだ感情が、シューシュー音を立てて萎むのが視てとれたが、僕は冷え切った視線を変えなかった。空気の抜け切ったサエキは気を取り直して、

「A組のシイナミカコがバイト先の先輩から聞いたんだってさ、で、その先輩の彼氏が見たらしいよ」

 と言った。 

 う〜ん、何だか信憑性は低そうだ。

 だが興味は深い。

 地元の心霊スポットの情報は貴重である。

 当時の僕は心霊(オカルト)マニアで、サエキヒロシとはそんなオカルト仲間だった。

 サエキとは、二年のクラス替で初めて知り合ったが、最初はそれほど話をする仲では無かった。

 TVの特番で心霊番組が放映された次の日、クラスでその特番が話題になっていた。その時何やら番組の内容について熱く語っていたのがサエキで、僕はそれを端から見ながら、「こいつ相当オカルト好きだな」と思った。

 その後でサエキに話しかけた。

「君さあ、つのだじろうの漫画が好きだろう?」

「何だ、お前もか」

 直ぐに意気投合した。

 ネットが無い時代、僕らは本や雑誌や TVでしか情報を得る事が出来なかった。情報に飢えていたのだ。

 僕達はつのだじろう先生が描く心霊コミックが好きだった。(もちろん一般にも人気は高かった)

 少ない情報なのでお互い同じ本を読み、同じTV番組を観ていた。

 ユリ・ゲラーについて意見が割れたが(未だに割れたままだ)同好の士として、友人として、サエキとは現在いまでも付き合いが続いている。

 そんなサエキの口から出た話、信憑性はともかく、だるま山なら自転車で行ける。地元で幽霊の目撃情報があるなら行ってみるしかあるまい。


 「だるま山心霊スポット巡り」の計画が練られる事に相なった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る