第32話 選択
「え?」
どういうことや。
ゆーちゃんが私らと一緒に?
わからんわからん。
誰か説明してーや。
「あのな、優。私、音葉ちゃんを引き取ろうと思うねん」
流石ママ。
言わんでも説明してくれ……、
「はい!?」
ゆーちゃんがうちの子になるんか。
はい、そうですか。
ってすんなり理解できるかいっ。
「おーちゃん」
俯いとる。
表情がわからん。
「おーちゃんはどないしたいん」
どういう話の流れでそうなったんかはわからん。
取り敢えず、おーちゃんの気持ちを知りたい。
「私は……」
迷うとる。
そりゃ迷うよな。
琴葉さん以外と血は繋がってへん、って聞いとるけど。
みんな大切な家族やもんな。
離れるってなったら、すぐには決められへんよな。
「音葉」
琴葉さんが真剣な表情で口を開いた。
「音葉はちゃんと勉強した方がいい。学校に通った方がいい。せめて義務教育を受けて、自分の道を選んで」
「お姉ちゃんは?」
目が、声が潤んどる。
「私はもう、こっちの道で生きていくって決めたから」
キッパリ言うた。
決意は固い、ってこういうことを言うんやな、って感じ。
「そっか……そうなんだ」
おーちゃんは迷い中。
当然よな。
「なぁ、ママ」
「ん?」
「こんなときにこんなこと聞くのって性格悪いかもしれんのやけど……おーちゃんがうちの子になったとして、あの村でまた暮らすん? お金はどないするん? ママ、仕事増やすん?」
一気に聞いてごめん。
気になってしゃーないねん。
大事なことやろ、全部。
「その質問には私が答えるわ」
「え」
聖さん絡んでるんか。
いや、そりゃそうか。
一応おーちゃんの保護者やもんな。
「まずあの村は、わかりやすく言えばもう安全よ。というか、村人は全員出ていったわ」
「え、なんで」
「そこはどうでもいいのよ。だからね、もう二度と村で危害を加えられることはないわ」
「そっ、そうなんや」
もしかしてやけど、村の人、出ていったんじゃのうて出ていかされたんとちゃうん。
なんとなくそんな気がするだけやけど。
「ただ、もうあの村から出ていった方がいいわ。いい思い出はないでしょうし」
「うん」
ええ思い出なんてない。
小石投げられて無視されて。
嫌なことばっかりやった。
誰も住んどらへんねやったら、住み続けてもええと思うけど。
毎日嫌なこと思い出しそうやから拒否します。
「次にお金ね」
関西人やからやろうか。
めっちゃ気になんねん。
子どもが一人増えるってことは、ママがもっと働かなアカンくなるってことやし。
「小鳥」
「ほーい」
小鳥さんはソファの後ろからボストンバッグを取り出し、
「ごめんな、今日はこれだけしか用意できんかった」
どーんとローテブルに置いた。
「え、これ本物?」
「本物よ」
冷静な聖さんの声を聞いても、頭の中はパニックパニック。
閉められへんほど諭吉さんが詰められとる。
やっば。
「お金の件は幸恵さんと話がついているわ。養育費、引っ越し費用、家賃、進学費用等、全て私たちが用意します」
「マジですか」
「マジよ」
私の口調を真似した聖さん。
真剣な表情で言われたら、笑ってええんかわからへん。
「だから、幸恵さんは仕事を増やさなくていい。なんなら、働かなくたって生きていけるから安心しなさい」
「おーん」
ごめん、聖さん。
丁寧に説明してくれてありがたいんやけど、もう頭に入ってこーへん。
兎に角、生活は大丈夫ってことよな?
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