第33話 大事なこと

「なぁ、ママ」


「ん?」


「こんなときにこんなこと聞くのって性格悪いかもしれんのやけど……おーちゃんがうちの子になったとして、あの村でまた暮らすん? お金はどないするん? ママ、仕事増やすん?」


 一気に聞いてごめん。


 気になってしゃーないねん。


 大事なことやろ、全部。


「その質問には私が答えるわ」


「え」


 聖さん絡んでるんか。


 いや、そりゃそうか。


 一応おーちゃんの保護者やもんな。


「まずあの村は、わかりやすく言えばもう安全よ。というか、村人は全員出ていったわ」


「え、なんで」


「そこはどうでもいいのよ。だからね、もう二度と村で危害を加えられることはないわ」


「そっ、そうなんや」


 もしかしてやけど、村の人、出ていったんじゃのうて出ていかされたんとちゃうん。


 なんとなくそんな気がするだけやけど。


「ただ、もうあの村から出ていった方がいいわ。いい思い出はないでしょうし」


「うん」


 ええ思い出なんてない。


 小石投げられて無視されて。


 嫌なことばっかりやった。


 誰も住んどらへんねやったら、住み続けてもええと思うけど。


 毎日嫌なこと思い出しそうやから拒否します。


「次にお金ね」


 関西人やからやろうか。


 めっちゃ気になんねん。


 子どもが一人増えるってことは、ママがもっと働かなアカンくなるってことやし。


「小鳥」


「ほーい」


 小鳥さんはソファの後ろからボストンバッグを取り出し、


「ごめんな、今日はこれだけしか用意できんかった」


 どーんとローテブルに置いた。


「え、これ本物?」


「本物よ」


 冷静な聖さんの声を聞いても、頭の中はパニックパニック。


 閉められへんほど諭吉さんが詰められとる。


 やっば。


「お金の件は幸恵さんと話がついているわ。養育費、引っ越し費用、家賃、進学費用等、全て私たちが用意します」


「マジですか」


「マジよ」


 私の口調を真似した聖さん。


 真剣な表情で言われたら、笑ってええんかわからへん。


「だから、幸恵さんは仕事を増やさなくていい。なんなら、働かなくたって生きていけるから安心しなさい」


「おーん」


 ごめん、聖さん。


 丁寧に説明してくれてありがたいんやけど、もう頭に入ってこーへん。


 兎に角、生活は大丈夫ってことよな?

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