第15話 聖さんはサンタクロース 2*聖*

*聖*


 優の元から戻れば、玄関先で白猫のシロとたわむれる小鳥がいた。


「おかえり」


「ただいま」


 彼女はシロを抱いて立ち上がった。


「奮発したねぇ。珍しい」


 奮発?


 あぁ。


 球体人形のことね。


「頬を膨らませないの」


 小鳥ったら。


 小学生相手に嫉妬するなんて、幼稚ね。


 そんなところも可愛くて好きなのだけれど。


「あの子を守るにはあぁするのが一番。それはわかっているでしょう?」


「まぁね」


「あら、素直」


 もっとごねるかと思ってた。


「だってさぁ……あの子の状況考えたら」


 その先は言葉にしなくたってわかるわ。


 音葉の姉、琴葉ことはが優のことを詳しく調べてくれた。


 四月一日わたぬき幸恵、四月一日優。


 現在、村での立場は大変よろしくない。


 村八分状態。


 母親は不在の時間の方が長い。


 いつ何時村人たちに殺されてもおかしくない。


 だからこそ、人形を渡したのよ。


 あの人形の髪は、小鳥が保存していた私の毛を使用。


 服は、これまた小鳥が保存していた血で染めた。


 私の力をありったけ込めたつもり。


 どこまで守れるか、やったことがないからわからないのだけれど。


 やらないよりマシでしょ。


「それに、あの村の村長ってさ」


「えぇ」


 私の養父母は分家。


 村長一家が本家。


「キモいよね、シンプルに」


「えぇ。だから縁を切ったんだと思うわ」


 本家の人間は分家の娘としか結婚しない。


 近親婚を繰り返している。


「あとさ、あの村ヤバイよね」


「全てがヤバイのだけれど?」


「あの蔵と池だよ」


「そうね」


 私たちが住んでいる家の近くには川が流れており、村の池へと繋がっている。


 その池はしめ縄で周囲をぐるっと囲われている。


 普段近づくことは禁止されているが、月に一度、池の水を飲む儀式がある。


 一方蔵は、お札がびっしりと貼られている。


 村で犯罪を行った者を閉じ込める場所。


 こちらも普段は近づくことが禁止されている、らしい。


「聖から視てどうなの?」


「そうねえ……非常によろしくないわ」


 怨念が渦巻きすぎている。


「悪霊がうようよいるわ」


「うげぇ」


 露骨に顔をしかめちゃって。


「あのねぇ、私も似たようなものよ」


「聖は違うじゃん」


「……」


 否定されたところで、神様と呼ばれたところで、私の存在は神聖さの欠片もない。


 後日。


 優の母親から赤ワインと牛肉をいただいた。


 正確には、優が預かって


「ごめんなさい、高いものは用意できなくって」


 申し訳なさそうに言われたわ。


 そんなの気にしなくていいのに。


「有難くいただくわ」


 私がいただくのは血と心臓、人肉。


 牛肉は琴葉と音葉にあげたわ。


 ワインは小鳥が喜んで飲んでいたわ。


 あの子にとってアルコールは、酔えればいいのよ。


 高いワインなんてあげるだけ無駄だわ。


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