第8話 仲良くなるのに時間は無関係
「あっ、お互い自己紹介がまだだったね!」
飛び跳ねるのをやめた彼女は、
「私、音楽の『音』に葉っぱの『葉』で
「ええ名前やな」
理由、わかりやすいから。
人の名前覚えるん苦手やねん。
ホンマ申し訳ないねんけどな。
「あなたは?」
首を傾け、顔を覗き込んできた。
アレやろ。
知ってんで。
あざとい、って言うんやろ。
可愛い子だけの特権や。
クラスメイトがたまーにやってるのはムカつくけど、音葉ちゃんは顔がええからな。
全くムカつかん。
むしろもっとやってくれ。
癒される。
「どうしたの?」
「あっ、ごめんごめん。私は優しいの『優』」
「よろしくね!」
自転車を押している片手を無理やりとられ、握手されながらブンブンされた。
振られすぎて腕千切れるかと思うたわ。
元気やなあ。
カーカーカー。
カラスの鳴く声につられて空を見上げる。
「そろそろ帰らんと」
日が暮れたら終わりや。
足元照らすもんもってきないし。
早う山を下りんと。
「そっか。遊びたかったけど、仕方ないね」
残念そうに笑う。
ちょっと心が痛むわ。
そりゃ私やって遊びたいねんもん。
「帰り道案内するね」
「ありがとう、助かるわ」
ホッとした。
道覚えとらんし。
案内してもろたら、お喋りしながら帰れるし。
ところで、
「なぁなぁ、白い猫って音葉ちゃんの猫なん?」
「そうだけどそうじゃないんだよね。てか、「ちゃん」づけは距離感じる」
前を歩いていた音葉ちゃんが振り返り、頬を膨らませた。
え、可愛い。
リスが頬っぺたに餌詰め込んでるみたいや。
「えーじゃあ……」
うーん。
音葉。
音っち。
おとーちゃん。
それは父親みたいやろ。
却下や。
うーん。
せや!
「『おーちゃん』は?」
悩みに悩んだ結果です。
語彙力ないねん。
許してや。
「いいね!」
気に入ってもらえたわ。
滅茶苦茶笑顔や。
「じゃあ私は、『ゆーちゃん』って呼ぶね!」
ふむふむ。
「了解」
距離感の詰め方えぐいな。
いや、まず私が呼び方を決めたんやから、私のせいか。
「おーちゃん」
「どうしたん」
「呼んでみただけ」
わーお。
まさか、ドラマやアニメでしか聞いたことがないセリフを聞いたこと言われるとは。
悪い気も気持ち悪くもない。
純粋に嬉しいねん。
やからな、
「明日暇?」
「うん、暇だよ」
「せやったら明日遊ぼうや。日曜日なんてすることないし」
向日葵みたいな笑顔って彼女みたいな子の笑顔を言うんやろな。
パーッとキラキラが見える。
嘘やけど。
「やった! 山の入り口のところで待ち合わせしよ」
「オッケー」
約束を交わし、私たちは別れた。
うん。
楽しい一日やった。
引っ越してきて初めて、嫌な気持ちに全然ならんかった。
早うママに報告したいわ。
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