第7話 元気いっぱい

 女の子の大きな声と共にガサガサ草木をかき分ける音が聞こえた。


「え、なに、なんなん」


 鬼ほどビビり散らかしとったら、


「おっ? こんなところで女の子発見」


「いや、それこっちのセリフな」


 同い年ぐらいの三つ編みおさげ。


 ちょっと身長は低めやろうか。


 可愛らしい女の子が現れた。


 目がバチっと合ったと思うたら、


「こんなところでなにしてるの?」


「だから、それもこっちのセリフな」


 どこの子やろ。


 少なくともうちの学校では見たことない。


 可愛い子やし、おったら目立つと思うんやけど。


 新しい転校生か?


「私はねぇ、お散歩してたの」


「ん?」


 散歩?


 あぁ、質問に対する答えか。


 変なタイミングで言うなよ。


 わけわからんくなるやろ。


「そっちは?」


 首を傾けて聞かれた。


 うん、答えてもろたんやし。


 礼儀として、私も質問に答えな失礼よな。


「探検やで」


「探検! いいね!」


 目をキラキラさせて言われた。


「私も好きだよ!」


「え、ホンマに」


「うん!」


 なんか語尾全部にビックリマークついてそうな勢いで答えるな。


 嫌いじゃない。


 むしろ、好き。


 子どもは元気な方がええんやろ。


 先生が言ってました。


「ねぇねぇ」


「ん?」


「どっから来たの?」


「……わからん」


「へ?」


 そりゃそういう反応になるわな。


「来た道わからんねん。信じてもらわれへんかもしれへんけど」


 初対面の人に言うたって、


「白い猫がな、案内して――」


「あぁ、シロね! そっかそっか」


 信じてもらえたわ。


 マジか。


「大体の方角はわかる?」


「うーん」


 わからん。


「目印になるような木はあった?」


「うーん」


 わからん。


 申し訳なくなってくるわ。


 一生懸命考えてくれてるのにな。


「あっ、じゃあねぇ。どこに住んでるの?」


「村」


「わかった! この道を通って真っすぐ行けば、帰れるよ!」


「えっ、ホンマに?」


 なんでわかったんや。


「シロが教えてくれたから大丈夫。前に手当してくれたんでしょう? ありがとうね」


「……? おん」


 この子、俗に言う不思議ちゃんなんか。


 猫が教えてくれたって?


 んなわけ……有り得るな。


 あの猫、人間の言葉理解しとるっぽかったし。


「最近引っ越して来たんでしょ?」


「せやで」


「どこから?」


「関西」


 私、誰がどう聞いても関西弁やねんけど。


 あんまり方言知らんのやろか。


「そっかそっかー。ねぇねぇ」


「なに」


「私、友だちいないんだ」


「え?」


 なんでや。


 こんなかわいい子、世の男子女子が放っておかんやろ。


 あれか。


 可愛すぎて女子からイジメられてんのか。


「だからさ、友だちになってよ!」


「え?」


 おんなじ反応になってもた。


 関西人としてこれはどうなんやろ。


 バリエーション増やさな。


 いやいやいやいや。


 今大事なことはそれちゃう。


「友だち?」


 初対面やのに?


 マジか、正気か。


 と思う自分がおるけど、なんやろ。


 不思議と仲良くなれそうな予感がすんねん。


 なんて言うんやっけ、こういう気持ち。


 えーっと……親近感や!


 せやせや。


 はぁ、スッキリした。


「ねぇねぇ」


 顔をグイっと近づけられた。


 あ、ごめん。


 一瞬存在を忘れとった。


「ええで」


 ちょうど私も友だちほしかったねん。


 マジで。


 返事をしたら、パッと顔を輝かせた三つ編み少女。


「やったぁ!」


 ウサギみたいにぴょんぴょん飛び跳ねとる。


 おもろい子やな。


 元気いっぱいで、可愛くて、おもしろうて。


 最高や。

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