第5話 白い猫

 ママは隣町のスーパーでパートを始めた。


 同時に、夜はまた隣町で、今度は工場で夜勤。


 忙しすぎて倒れてまうんとちゃうか。


 心配やわ。


「私は大丈夫や。優の方こそ大丈夫なん?」


 大丈夫って言うしかないやん。


 これ以上ママを困らせとうないし。


 因みに、無視されとることはバレてもうたけど、小石を投げられとることはバレてない。


 私が我慢すれば済むことやもん。


「あれ」


 あれ以降小石をガン無視してなんとか帰宅したら、


「猫や」


 この村に似つかわしくない真っ白な猫がおった。


 他の猫は大体汚れとるし、なんか気づいたらすぐに姿を消しとる。


 でも白猫は玄関横の隅でじーっと私を見つめてきとる。


「なんや。どないしたん」


 近づいたら、


「怪我しとるやん」


 前足から血を流しとった。


 なんでそんなとこを。


 って考えるまでもない。


 村の人間にやられたんやろ。


 アイツら、猫とか犬とかすぐに殺すもん。


 もしかしたらそういう教えがあるんかもしれんけど、誰に聞いたって教えてくれんからわからん。


「しゃーないな」


 周りを見渡す。


 運よく村人はいない。


うちにおいで。手当したるわ」


 人間の言葉なんか通じひんはずやのに、白猫は


「ニャー」


 って鳴いた。


 タイミングよく鳴いただけやな。


 多分。


「ちょっと待っといて」


 玄関まず開けな。


 ランドセルから鍵を取り出し、鍵を開けた。


「じっとしとってや」


 あれ、ホンマに人間の言葉わかっとるんやろか。


 白猫は大人しく私に抱きかかえられた。


 アレやな。


 怪我して弱っとるだけやな。


 普段話し相手がママとクラスメイトしかおらんから、ついつい自分の都合のええように考えてしまう。


「まっ、ええか。誰に聞かれとるわけでもないし」


 一応抱きかかえたまま、もう一度辺りを見まわたしたけど誰もおらん。


「ほな入ろか」


「ニャー」


 家に入って傷を確認してみたら、意外と軽傷。


「包帯巻いたら邪魔かな……でも、それぐらいしかしてあげられへんし」


 消毒は流石に暴れられそうやからパス。


 傷口を綺麗にして、包帯を巻いてあげた。


「ニャー」


「これで大丈夫やで。みんなにバレへんように逃げや」


 その後白猫はちょっとの間背中を撫でさせてくれた。


 外で物音がして気を取られとるうちに消えてもうたけどな。


 どうか、無事に逃げられますように。

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