第3話 安らかに

「おばあちゃん」


 なんて言葉をかけたらええんかわからへん。


 どうしたらええんかわからへん。


「優」


 部屋の入り口で突っ立ったままの私の手をママが引き、


「お話ししてあげて」


 話すって、何を……。


「おばあ、ちゃん」


 結局出た言葉はおんなじ。


「おばあちゃん、おばあちゃん、おばあちゃん、おばあちゃん――」


 最後の方は涙でよう見えとらんかった。


 鼻水をたらして汚い顔やったと思う。


 でもな、おばあちゃんはママを見た後私を見て笑ったんや。


 誰がなんと言おうと笑ろうた。


 最後の最後にわらってくれた。


 嬉しくって悲しくって、涙が濁流のように流れ出した途端、


幸恵さちえ


 おばあちゃんが薄っすら目を開いて弱々しくママを呼んだ。


「なに、母さん」


 泣いとった、ママも。


 私みたいに汚い泣き方ちゃうけど。


「絶対に、絶対に、絶対に」


「うん、うん」


「蔵に近づくんじゃないよ」


 それが最後の言葉やった。


 なんで近づいたらアカンのか。


 教えてくれへんまま、おばあちゃんはあの世へ逝ってしもうた。


 安らかな顔で。


 おばあちゃん。


 ちゃんと守るからな。


 絶対に蔵には近づかへん。


 約束する。


 翌日のお通夜、次の日のお葬式。


 村の人は誰も来んかった。


 ママは「いくら村八分でも、葬式には来てくれるはずやのに」って言っとった。


 どんだけ私ら嫌われてんの。


 村の教えを破ったのがそんなにアカンこと?


 取返しのつかんことなん?


 百歩譲って私らが悪いって認めたら、おばあちゃんのお葬式には来てくれたんか?


 今更考えたってしゃーない。


 どうしようもない。


 私にできることはなんもない。


 ただ、ママを支えるだけ。


 おばあちゃんの遺言を守るだけ。



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