第2話 理不尽 1/2

 夕食を一緒に食べよう、と言ってくれとったおばあちゃん。


 体調がようなくてママがお粥を食べさせてあげとった。


 私らは来るときに買ってきとったコンビニ弁当を食べた。


 その後、


「田中さんが言っとったことやけど」


 ママが暗い表情で口を開いた。


「ここの村にはいくつも『教え』があるんよ」


「教え?」


「うん。もうママも全然覚えてないんやけどな、田中さんが言っとったんは、『学業のために村を出た若者は、卒業後に必ず戻ってこなければならない』、『離婚してはならない』っていう決まりを破ったからなんよ」


「なんやそれ」


 必ず、って。


 戻って来るんもこうへんも自由やろ。


「意味わからん」


「そうやね。まだ優には早いわよね」


 ちゃうちゃうちゃう。


 小三やろうが大人やろうが、多分この『教え』は意味不。


 ママは眉をハの字にして、


「明日からはママだけじゃなく、優にも迷惑かけると思う。ごめんな」


 謝られた。


 このときは全く言葉の意味を理解しとらんかった。


 その言葉の意味を、重さを痛感させられたんは翌日。


 ママが言った通りやった。


 村の人たちに挨拶しても返事をしてくれへん。


 歩いとるだけで睨みつけてくる。


 シンプルに無視。


 まるで私らが存在していないように接してくる。


 学校のイジメみたいや。


 まぁそれだけやったら可愛いもんやったんやけど。


 玄関先に大量の虫の死骸を置かれたり。


 家に落書きをされたり。


 物置小屋を燃やされたり。


 最後のんに関しては、すぐに異臭に気づいてボヤ程度で済んだ。


 なんなんこの村。


 人間性終わってるやろ。


 教えに背いたからって、火つけるか?


 ヤバイ。


 頭おかしい。


 落書きを消しながらそんなことを考えとったら、


「優」


 おばあちゃんが出てきた。


「どないしたん。寝とかなアカンで」


 因みにママは、隣町のスーパーに面接受けに行っとる。


「ホンマはママに言うことなんだけど……お金が貯まったらここを出て行きなさい。ここにいても、なんにもいいことはないから」


 ホンマそれな。


 出かかった言葉を呑み込み、


「私ら出て行ったらおばあちゃんどないなるん」


「私はもうすぐ……ね。あと、ママが帰って来たら村の教えを全部教えるから」


 苦笑しておばあちゃんは戻っていった。


 もうすぐ、の後は言わんかったけどわかるよ。


 小三やもん。


 みんなが思とるより幼くないんよ。


「もうすぐ死ぬ」


 って言おうとしたんやろ。


 そんなん嫌や。


 折角久しぶりに会えたんに。


 思わず落書きを消す手に力がこもった。


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