第1幕 村八分

第1話 歓迎されてへん

「おかえり」


 玄関で出迎えてくれたおばあちゃんは、ちょっぴり困り顔。


 でも嬉しそうに歓迎してくれた。


「久しぶり、おばあちゃん。体調はどない?」


「まぁまぁよ」


 んなわけない。


 ほぼ寝たっきりってママから聞いとったもん。


 家事は村の人が手伝ってくれとるんやって。


「母さん、私たちは荷ほどきするから。もう横になりなよ」


「そうね。終わったら声をかけてちょうだい。一緒にご飯を食べましょう」


 笑ってるけどしんどそうや。


 おばあちゃんはゆっくりとした足取りで廊下を曲がってった。


「ほな荷物部屋に運ぼか。ゆうの部屋は居間の横やで」


 案内してもらった部屋は広かった。


 基準知らんけど。


 お父さんと暮らしとったときは、自分の部屋なんてなかったもん。


 ガラガラガラ。


 玄関が開いた音がした。


 田舎やから鍵かけへんのは知っとったよ。


 無言で開けられるんは知らんかった。


「えっと……」


 立っていたのは中年女性。


「初めまして」


「……」


 無言かい。


 返事せい。


「あっ、田中さん」


 遅れて玄関に現れたママが挨拶をする。


「帰ってきたんね」


「はい」


 この人『田中』っていうんか。


 覚えとこ。


 にしても、


「最初に言っておきます」


 私らを見る視線が厳しい気がするのは気のせい?


「貴女は村の教えに反した。ここの人たちを頼れる、なんて思わないで」


 気のせいちゃうかったわ。


 厳しいどころか敵視しとる感じ。


「……はい」


 ママの返事を聞いた田中さんは、玄関を閉めずに帰った。


 閉め―や。


「ねぇ、ママ。どういうことなん?」


「それはな」


 振り返ったママは困り顔。


「荷物整理してから話すわ」


「うん」


 しゃーない。


 さっさと荷物整理しよ。


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