異世界転移少年A

@nekogami-r

第1話

「ん〜…」

「起きて下さーい」

「あと5分…」

「起きなきゃダメですよ〜」

「んあ?」

「おぉ。やっと起きましたか」


目が覚めて最初に見えたのは白い衣装を纏った美しい女性だった


「…え?」

「とても混乱しているでしょうが私も忙しいので端的に説明させて貰いますね」


は?なんだこれ。ドッキリ?

てかここどこ?森?なんで俺はこんなところで寝てるんだ?


「貴方は選ばれました!」

「は?」

「貴方にはこれからこの世界で強くなってもらいます」

「ちょ…」

「まぁ理由は死んでなかったら後々教えてあげるので頑張って下さいね」

「待てって!」


俺の静止を完全に無視し突然目の前から姿を消す謎の美女

一体なんなんだ…?

……

これは俗に言う異世界転移というものなのか?

少なくとも今の一瞬で目の前から人が消えた時点でドッキリやテレビの番組、YouTubeの企画なんてことは100無いだろうが…

強くなれっていうのもよくわからん


(ギフトがあるよ!受け取ってね!)


突然頭の中に直接響くような少女の声がした

驚きつつ周りを見渡すが人はいない

意味がわからない…


「ギフト…?」


ギフトってなんだ?よく分からないが貰えるなら貰いたいけど


「どうやって受け取るんだ…?」

(ギフトを受け取ったよ!ランダム能力ガチャ券1枚!これを使うとランダムで能力が1つ貰えるよ!)


また同じような声が頭の中に響く

口で言えば貰えるのか?まぁいいか。そんな事より

…まさか異世界ファンタジーあるあるチート能力が貰えるのか?


「能力ガチャ引かせてくれよ」

(ガチャ券を使用しますか?)

「引くだろ」

(ロード中だよ!ちょっと待ってね!)


一体どんな能力が貰えるんだ?

こんなワクワクそうそうないぞ…

ゲームは友達とやったりするがこれはそこらのガチャとは訳が違う

今後が決まる大切なガチャだ


(ロード完了!獲得した能力は…)


一体どんな能力だ?!


(能力名「剣神」!この能力を持っている人間は剣の扱いと剣を交えた戦闘スキルがとても大きく上昇するよ!)

「おぉ!」


まじか!

めっちゃ強そうな能力じゃないか!これで俺も異世界無双が出来るってことか!

強くなれとか言ってたけどこれだけあれば十分強いんじゃないか?

アイツ(さっきの美女)もめんどくさいことをするもんだな


「よし…じゃあずっと森にいる訳にもいかないだろし、街でも探すか」


とりあえず歩いていこう




……

……

……




一体どのくらい歩いたのだろう。

少なくとも一日は経っている

ここまで飲まず食わず

ただの学生をしていた現代人にはかなり答える…

一日中動いてた訳でもないが水だけでも飲みたい…


「はぁ…はぁ…どんだけ歩くんだよ…」


そんな独り言を言っていたら不意にどこからか水の音が聞こえてきた

……川か!

極限状態とまではいかなくてもかなり辛い状況

五感がかなり敏感に動いている気がする

聞こえてきたであろう場所に早歩きで向かっていくとそこには大きめの湖があった


「あぁ…神様がいるなら感謝してもしきれないな…」


久しぶりの水だ。

沢山飲んだ

生き返る思いだ

幸い水も綺麗でちゃんと飲める


これでもう少し歩けるな…




……

……

……





……完全にやらかした

昨日の自分を殺してやりたい

普通に考えれば分かることなんだ

森にあるあんな湖の水をあんなにがぶ飲みしたら一体どうなるのか…

腹を下した

腹痛と疲労と空腹と吐き気の4連パンチで蹲ってる

マジで動けない…


あっ……


最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪

ありえない…

この歳になってまさか漏らすなんて思わなかった…

クソクソクソクソ

あの女絶対許さない次見つけたらぶち犯してやる…

クソ…

ここにいても埒が明かない

どうにか力を振り絞って歩いていく

頼む一生に一回の願いだ…

村でもなんでもいいから何かあってくれ…


そこから数時間体の不調に耐えながら進み続けると数百メートル先に建物が見える


「あ、あぁ…た、助かった…」


これで…助かる…良かった…良かった…

道中拾った木の棒をつきながら少し早足で建物の近くに向かう






神様はなんと理不尽でクソッタレなんだろう

もし目の前に神とやらを名乗るゴミ野郎が居たのなら俺はきっとそいつを食い殺すだろう

急ぎ足で向かった先の建物があった場所は廃村だった

もう歩けない

これ以上は頑張れない

どうすればいいんだ…


「クソが…クソが…」


涙が溢れてきた

あの幸せだった少し前に戻りたい

学校は嫌いだったし将来は不安だったが、友達もいたし美味しいご飯を作ってくれる親に少し面倒な姉もいたあの家庭に

あの女はなんで俺を選んだんだ?

意味がわからない

確かにこんな世界クソだなんて毎日思ってたさ

でも、そんなの俺以外だってそうだろ?

普通のことのはずだ

なのに…

俺ばっかり…

なんなんだよ…

うぅ……


「グルルルルルル」

「っ…!」


嫌な音が聞こえた

振り返ると数匹の動物が遠くからこちらを睨みつけている

あぁ嘘だ

こんなところで死んでたまるか

本当の最後の力で棒のようになってしまった足に力を入れ、もう誰も住んでいない家の中に入って鍵を閉め、入ってこられないようにする

外で見たことも無い動物が扉に向かって体当たりをして俺を喰らおうと必死になっている

なんなんだよ…なんなんだって言うんだよ

俺は…俺は…

能力だって試せてないじゃないか…

剣がなくちゃ俺の能力はゴミみたいに役に立たない

いや、この状況ならゴミの方がまだ使い道があるだろう

扉がミシミシと音を立てて完全に破壊された

それと同時に入ってきた恐ろしい形相の動物がこっちに向かって歩いてくる


「嫌だ…」

「嫌だ来るな…」

「頼む来ないでくれ…」

「やめろやめろ来るな来るな来るな」

「来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな」


そう言っていたら本当に止まった

動かなくなった

どうしたんだ…?

良い奴なのか…?



そんな呑気なアホみたいな考えを巡らせてた次の瞬間、その動物の牙が俺の首を抉っていた

抉り取られた部分がとても熱い

手をやると見たこともないほどの血が手についた


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


抉り取られた痛みで俺は出したことも無いような大声で声を上げて助けを求めた

だが、誰も来ない。来るわけが無い

来たのは精々血の香りと叫び声に誘われてきた動物達

俺の事を囲んでいる

もがき苦しみ暴れ回っている俺をゴミでも見るかのように見つめている…

クソ…このままじゃ本当に死ぬっ…

どうにか…どうにかしなくちゃ…

だが、現実とは少しも上手くいかないものだ

いくら妄想では身軽に動け敵をバッタバッタと薙ぎ払えても現実では、そんなことは出来ない

どうにか出来る、なんて思う事すらおこがましい

次に瞬きをして見えた最後の光景は、動物の口だった


「やめろ!やめて!あああああぁぁ!!?!!」


太ももに動物の爪と牙が刺さり筋肉の筋一本一本がミシミシ、ぐちゃぐちゃという音を立てながら抉り取られる

腹も貪られて内蔵が出てきてしまっているかもしれない…身体中が痛い

目は既に潰れていた。鼻も耳ももうまともにはついていないだろう。

昔インターネットでクマに襲われた人間の死体を見たことがあった

もう見えはしないがきっとその時の画像と同じような酷い光景なのは間違いない

痛みは薄れどんどん意識が沈んでいく


「あ……あっ……ぁ……」


何故だろう…こんなにも絶望的な状況だと言うのになんで俺はここまで冷静なんだろう

声にならない声を出し最後の最後まで生というものに見苦しくもしがみつこうとする

だが、もう抵抗できるほどの力も残っちゃいない

走馬灯が見える

この世界に来た瞬間のことが

驚きはしたがワクワクしていた

能力を駆使して魔王を打ち倒し仲間と友情を育み幸せに暮らす事を妄想した

だが、状況は最悪

俺は1人で能力も使えないまま動物に食い殺される

なんて最悪な最後だろう

あぁ…

もう…

せめて…

誰かに…

俺って人間がいた事を…

知って貰いたい…

そう思いながら意識は暗闇に沈んで行った





----------------





「あーあなんで俺らが廃村にわざわざ行くんだよ」

「仕方ないだろ。あそこは領主様の土地なんだし、村があるのに誰も住んでないなんて勿体ないから住めるか見て来いって言われたんだから」


そう話す和服とも洋服ともとれないような不思議の服を着ている黒い髪の少年と青黒い髪をした少女


「でもさ〜俺らじゃなくたっていいじゃーん」

「気を使ってくれたんでしょ」

「気を使うってなにを?」

「ほら…私たち付き合って半年くらい経ったじゃん?」


少し決まりの悪そうに話す少女


「だな」

「でも、特に進展がないから何かあればって…」

「……そーゆー事ね」


何かを悟ったような顔をする


「……」

「……」

「…いいのか?」

「な、何が?」

「襲っても」

「はぁ?!ば、馬鹿じゃないの!」


赤くなるが満更でもなさそうな少女

それを見て、いやらしいにやけづらで笑う少年


「せっかく便宜を図って貰ったんだからさ。少しくらい進展した方がいいだろ?」

「……村の探索が終わったら考える…」

「はははっ、可愛いなお前」

「うるさい!ほら!村に着いたわよ!」

「さっさと探索してイチャコラしなくちゃ……」


突然会話が途切れた


「…」

「気づいたか?腐敗臭だ」

「だね。気をつけてよ」

「当たり前だろ。これでも剣なら天下無敵さ」

「冗談言う空気でもないでしょ」


2人は匂いのする家を見つけあて中を見る


「うわぁ…」

「なんて可哀想な…」


そこにはほとんどの骨が砕かれ、ウジが湧き、ほぼ原型を留めていない人間だった異臭の原因があった


「…燃やしてやろう」

「だね…火弾ファイヤーボール


2人は燃やされるものをただ見つめていた


「…帰るか」

「調査も終わったしね…」




……

……

……




「はぁ…嫌なもん見ちまったなぁ」

「ホントに可哀想に…」


少しの間2人とも話さなくなる

気まずい空気が流れとても長く感じる


「……そう言えば、村の調査終わったし答えを聞かせておくれよ」

「えっ?!えっと…そのぉ…」

「早く早く〜」

「帰ったら…あの……シよ…」

「っ……お前本当に可愛いな!」


少女の頭を撫で回す少年


「やめて!もうっ」


少し嬉しそうな少女

先程までの暗い空気は、そこにはなかった

このあとのことを考えればあの村に身元不明の死体があったことなどすぐに忘れてしまうだろう

哀れな一つの死体程度この世界にはゴロゴロと転がっているのだから

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