3-5 縁国〜ニルヴァーナ・アーカーシャ〜
☕️
燃えるように熱い。
激しい痛みと同時に皮膚が焼けていく。
煉獄のマグマに飛び込んだから数秒して、徐々に意識が遠のいていくのがわかった。
もう駄目だと思ったとき、耳元で声が聞こえた。
「縁国で待ってる」
はじめて聞く声ではない。どこかで聞いたことのある声。懐かしさも感じるが意識が朦朧としていて誰かはわからない。
これは臨死体験か何かだろうか?
縁国で待っているってどういう意味だ?
くそっ、頭が回らない。
数秒後、意識を失った。
**
ここはどこだ?
俺はたしかにマグマに飛び込んだ。
変な白髪の爺さんと話して自らの意志で飛び込んだ。
あんなに熱くて皮膚が焼けていったはずなのに何ともない。
足元を見ると雲海の上に立っていた。
驚いて片足を上げたが下の景色は見えず白一色だった。
しかし体は軽い。
重力とは無関係の世界なのだろうか?
トマムの雲海か、それとも長野のソラテラス?
もしくは長い夢でも見ているのだろうか?
ただ、ここから見える景色はとても綺麗だということはわかった。
身体を包み込むかのように絶え間なく広がる空と雲。
無数に浮かぶ青い光。
遠くに見える巨大な樹。
まさかメタバース?
もしくは新しいアミューズメントパークか何かかも。
最近地元の近くでも再開発が進んでいて、新しいエンターテインメントがどんどん増えているし、何らかの拍子にやってきたのだろう。
まぁそのうちわかるっしょ。
恐怖心を消すために言い聞かせたわけではないし、一切の
ひとまずあの大きな樹を目指すことにした。
徐々に近づいていくとそれはヒノキだということがわかった。
その幹は想像よりもはるかに大きく、両手を広げても幹の半分にも届かないほど太かった。
「これはハイペリオンっていうの」
声のする方を向くと、白いワンピースを着た赤く長い髪の女性が立っていた。
小麦色に焼けた肌や手首に刻まれている謎の刻印が主張してくる。
首元に見えるタトゥーとちょっとギャル風の見た目に驚きつつも、他人のことを言えない自分の見た目に1人心の中でツッコミを入れる。
「ハイペリオン?」
「えぇ。この世界のはじまりの樹とも言われているの」
まるで雲の上から生えてきたかのようなこの樹はゴールの見えない道のようにどこまでも高く
それにしてもこの子大丈夫か?
はじまりの樹ってゲームの世界じゃあるまいし。
アニヲタか?
中二病か?
「きみ、病院行く?」
「失礼ね、本当のことを言っているの」
やはりヤバイ子だ。
これは関わらないでおこう。
「私は
頭の上にクエスチョンマークがたくさん浮かぶ。
目の前に現れたギャル風の子が涅槃師だの担当だの訳のわからないことを言っている。
俺の名前を知っていることも怖かったが、それよりもここがどこなのかが気になった。
「えっと、アキレアさんでしたっけ?ここはどういうイベントがあるの?」
「あなた何を言ってるの?アタオカなの?」
誰がアタマがオカシイんだよ。
「言っとくけど、これは夢でもなければ異世界でもなく、死後の世界だからね」
死後の世界?
なるほど、そういう設定なのか。
面白い。乗っかってやる。
「死後の世界ってことは俺は死んでしまったわけか?」
「えぇ、残念だけど」
でもちゃんと意識があるし、身体も異常はない。
やっぱり嘘だ。
もしこれが現実だったとしてもこの状況を理解するには時間がかかりそうな気がした。
人は頭の中で想像したものをベースに行動している。
だから未知なるものに対してひどく警戒し恐怖するもの。
パンデミックや幽霊などのように。
しかし、
だから俺は自分の見たものや感じたものを信じるようにしている。
「最初はみんなそういう顔をするよね。1つずつ説明するから」
「お、おう」
心の中を読まれたような気がしてキレの悪い返事をしてしまった。
「ここは、死ぬ直前に何かしらの未練を残して亡くなってしまった死者の魂を浄化させて天国へと送るためのニルヴァーナという世界で、別名『縁国』って言われているわ。死者の魂を浄化させることを『涅槃』と言って、私たち涅槃師が死者の魂の浄化を手伝ってるの」
なんだ、このアニメの第1話みたいな展開は。
ふと頭の中であるものが浮かぶ。
これって以前読んだ本の世界じゃ?
「あなたも煉獄の炎を浴びてきたのよね?」
「あぁ、死ぬほど熱かった」
「あの炎で未練や邪念は消えた?」
完全に消えたかどうかは正直わからない。
そもそも熱すぎてそれどころじゃなかったし。
未練や邪念は心の奥底に潜んでいる可能性もあるし、それに完全に消えるものではないと思っている。
「誰だって生前の未練や邪念はあるだろ?」
「えぇ、完全に消えることはないわ。だけど、天国に行くにはその思いは消さないと行けない。かと言って煉獄の炎だけじゃ消えない。だからそういった魂をこの縁国で浄化するってわけ」
「だったら何のためにあの炎がある?」
「あの炎はね、生前の穢れを消すためにあるんだけど、あくまで形式めいたものでしかなくて、魂が浄化されるわけではないの」
あんなに熱い思いをしたのに。
死んだら天国か地獄しかないと思われているのが一般的だが、この子の話が本当ならここは天国への階段ってことか?
でもまだ信じがたい。
それもそのはず。
死んだ後のことなんて誰にもわからないからだ。
「じゃあここは新しいアミューズメントパークじゃないの?」
「ここには死者しかいないわ」
でも身体は動く。
これは一体どういうことだ?
ちゃんと意識もあるし会話もできている。
「じゃあこの肉体は?」
「本当の身体は火葬されていてもう存在しない。その身体は天国へ送り出すまでの間に宿る仮初の姿。肉体がないと魂の浄化に支障をきたす可能性があるから、こっち側で忠実に再現させてもらったの」
「俺、本当に死んだのか?」
「信じられないのも無理はないわ。最初はみんなそうだし、死後の世界があるなんてみんな空想の話だと思ってるしね」
死んだということを理解している時点で死んでいるとは認識しがたいが、ここが悪趣味なエンターテインメントの世界ではないことを願う。
それに俺の身体。眼鏡も顎髭もあるし、深爪までも生前のままだ。
せっかくなら二重の爽やかイケメンにしてほしかったとも思うが。
ただ、このスマートウォッチだけがわからない。
こんなの持っていたっけ?
思い出そうとすると頭痛がする。
左手に刻まれた謎の数字も気になる。
こらは何を意味するのだろうか。
わからないことが多すぎる。
「素朴な疑問なんだけど、死んだら感覚もなくなるし、考えることすらできなくなるよな?だったら浄化も何もないんじゃないか?」
「人はね、死んだら終わりじゃないの。肉体が失くなっても魂は残り続ける。その魂が消えるときにどんな状態かが重要なの。白か黒か赤か青か」
空想というか幻想というか、魂に色があると言われてもいまいちピンとこなかった。
「天国へ行くときは白、地獄は黒、煉獄は赤、そして
魂にも意志のようなものがあるということだろうか?
だとしたら心霊現象などはどういう原理なのだろうか?
死んでいるからいまさら気にしても仕方ないのだが。
「ちなみに雪落くんのいまの色は透けそうなくらい薄い青よ」
あれ?いま見えないって言ってませんでしたっけ?
しかも透けそうなくらい薄い青って何?
「テキトーに言っただろ?」
「私ね、出会って間ない状態の魂の色が一瞬だけ見えるの」
なんだその特殊能力は?
こんな摩訶不思議な世界じゃ何でもありな気もするが、死後の世界というより異世界に来た感覚だった。
「煉獄からやってくるときってだいたい紫っぽい色をしていてそこから徐々に変わっていくんだけど、あなたはとくに『生きる』ってことに対しての執着心が強くて欲深かったみたいだから透明に近い青だったみたい。そんな人は怨念として地上に残ってしまうことがあるから、そういう魂を少しでも浄化して天国へ送るために私たちがいるの」
じゃあもしこの世界に送られていなかったら、
想像したらちょっとゾッとした。
限りなく透明な青ということは、現世の生き霊たちはきっと透明な魂なのだろう。
「きみたちも塩爺と同じように誰かに作られた存在なのか?」
「いえ、私たち涅槃師は全員元人間よ。訳あって涅槃師になっているの」
訳あって?
他人の事情をいちいち気にしていたら神経が持たないし、この疑問符ベルトコンベアをすべて処理しようとしたらキリがない。
怪訝な表情を浮かべていると、
「詳しくはこの世界を案内しながら説明するわ」
アキレアは俺を
「そうそう。確認だけど、雪落くんの浄化の条件だけど」
条件?
「私がもらっていたデータでは『ご両親に再会すること』ってなってるけど合ってる?」
嘘ではないが合ってもいない。
俺には恋人がいた。
結婚を考えていた人がいた。
それなのに顔も名前も声も思い出せない。
思い出そうとするとなぜか激しい頭痛がする。
感覚的なことだが、その人は会わない方が良い気がする。
会ったら後悔しそうな気がするから。
「そうだよ、死んだ両親に再会することだよ」
俺の両親は若いころに亡くなっている。
それからはずっと孤独と闘ってきた。
押し潰されて生きることに疲れてしまいそうな日もたくさんあったけれど、友達や職場の人に支えられてなんとかやってこられた。
「で、どうすれば両親に会える?」
「まず質問させて」
アキレアは左手に刻まれていたを
すると、その刻印からプロジェクションマッピングのようなものが現れ、それを見ながら質問してくる。
「お父様の名前は
少し疑問を抱きながらも軽く頷く。
「俺のことどこまで知ってんの?」
「ほとんど知ってる」
口角を上げながらそう言うアキレアに少しの恐怖心を覚えた。
「雪落 慶永さん。東京都出身。2月生まれのA型。身長175cm、体重65kgの胃下垂会社員。お兄様がいるけど行方不明で音信不通。元野球部でちょっと中二病。趣味は読書と音楽鑑賞。カナヅチの中二病。コーヒーが好きで牡蠣が苦手。可愛い子より美人が好き」
胃下垂会社員って何だよ。それに中二病だけ2回出てきた気がするんだが。
この世界に個人情報保護法はないのか?
「浄化には例外があるの」
「例外?」
「自分自身が亡くなったことを理解しきれずに魂だけがここにやってくるパターンがあるの」
「でも本当に死んだのなら五感のほとんどが機能してないはずだよな?」
「そこは人によって差があるわ。生前と変わらずに敏感な人もいればそうでない人もいる。とくに小さな子供やシニアの人たちは自分が亡くなったってことを受け入れられてない人が多いから、五感に意識が向けられていないことがよくあるの」
日本の1日の平均死者数は約3000人と言われている。
そのうちの約8割がこの世界に送られてくるらしい。
「もちろんこの世界には死人しかいないから世には存在すら知られていないわ」
「でもほとんどの人が未練を残して亡くなっていくんじゃ?」
「案外そうでもないの。死んだことを受け入れた瞬間に消えて無くなる人もいるし」
死という感覚は生きている間はわからない。
しかし、いずれ死にゆく命。
終わりが見えた時点で割り切れる人もいるのだろう。
「ちなみに魂がこの世界に滞在していられるのは7日間だけだから」
7日間だけ?
それは長いのか短いのかわからなかった。
「7日間を過ぎても浄化されなかった場合はどうなるんだ?」
「こうなるわ」
アキレアが見ている場所と同じ方を
「この霊魂たちは感覚や意思、概念すらなくなり、天国にも行けずに永遠にこの世界を漂い続けるの」
「全員が
「そうね、理想は全員そうしてあげたいんだけど、死者ごとに魂の浄化の条件が違うからね」
規則的に動く無数の青い霊魂たちたちは何か
「左手を見てみて」
唐突に言われたが反射的に自分の左手を見た。
手の甲には数字の“7”が刻まれていた。
煉獄にいたときはたしかになかった。
「これは?」
「あなたがここで肉体を宿せられる日数よ。この数字が“0”になったらもう浄化できる可能性はなくなるからね」
そうなれば俺もこの霊魂たちのようにただただ漂い続けるだけになる。
地獄に行くよりはマシだが、どうせなら天国へ行きたいと思うのが普通だろう。
「ちなみにきみはいつからここに?」
「いつからだろうね、よく覚えてない」
涅槃師になれば寿命とかそう言った概念はなくなるのだろうか?
一度死んでいるとはいえ、もう一度死ぬのは正直怖い。
もし涅槃師になれれば意志を持ったまま、肉体を持ったままでいられるはず。
「涅槃師になるにはどうすれば良い?」
「あなたは無理」
「なんで?」
「いい人すぎるもの」
褒められている?
それとも
いい人すぎるとはどういう意味だろう。
「浄化させるにはときに非情さも必要よ。中途半端な対応じゃみんな報われずに終わってしまう。それに、私たちには生きているときに一度『死んで』いる。あなたのように人のために生きられる人は向いていないわ」
生きている間に死ぬということの意味が理解できないまま立ちすくんでしまった。
「あなたはここでちゃんと報われるべき人だから」
報われるべき?俺が?
「ご家族以外に会わなきゃいけない人がいるんでしょ?大丈夫。私が全力で手伝うから」
家族以外に会わなきゃいけない人。
お世話になった会社の先輩や親友には別れの挨拶ができなかった。
腕にしていたスマートウォッチに目をやると激しい頭痛がした。
まただ。
大脳皮質も海馬もフル回転しているが何も思い出せないままその場に蹲る。
「ちょっと、大丈夫?」
「あ、あぁ」
死んでいるはずなのに頭痛がするって一体どうなってんだ。
しばらくすると痛みは和らぎ、ゆっくりと立ち上がる。
もう大丈夫と言って歩き出す。
程なくしてアキレアが唐突な質問をしてきた。
「雪落くんさ、何歳まで生きるつもりだった?」
そんなことわかるわけない。みんな誰だって死ぬのが怖いから長生きしたいと思って生きている。センテナリアンなんてほんの
死んでから気づく人生の儚さと呆気なさ。そしてメメント・モリだったということを。
両親の居場所を探しにアキレアと一緒にこの広大な空間を歩くことにした。
雲道を歩き続け、しばらくすると、
「ちょっと見せたいものがあるからこっち来て」
言われるがままアキレアについていくと、遠くの方から明るい声が聞こえてくる。
「あそこ」
アキレアが指を差した先には、何故か雲の中からいつくも水が噴き出てきている広場のような場所があり、そこで小さな子供たちが水浴びやボールなどで楽しそうに遊んでいる。
周囲に大人の姿はない。
少し離れたところで1人の女の子が隅っこでしゃがみながら泣いている。
「どうしたの?」
気になって話しかけてみると、
「ママがいないの」
この世界で逸れてしまったのだろうか。
「お母さんとはどこで逸れたの?」
「わかんない」
「お母さんの名前わかる?」
「ママ」
いや、そうなんだが。
この子にとってお母さんはママで、ママはお母さん。
「きみ、お名前は?」
「わたしの名前はみずたに なずなです。4歳です」
「なづなちゃんだね。俺は雪落 慶永」
読みにくいし言いづらい俺の名前は大人でも何度か聞き返される。
小さなこの子にはアラビア語並みに難しいのかもしれない。
「ゆきおち、よしひさ」
とりあえずゆっくり名乗ってみた。
すると、なづなちゃんは泪を拭い、
「ゆっくん」
元気な声でそう言った。
ゆ、ゆっくんって。まぁいいか。
生まれてはじめて、いや、死んではじめて呼ばれたあだ名に一瞬驚いたが、なんだか妹ができたような感覚だった。
「よし、お兄ちゃんと一緒にママを捜そう」
手を差し伸べながら言うと、
「ダメよ!」
後ろにいたアキレアが強く否定した。
「なんで?」
「ダメなの」
今度は少し細い声で言ってきた。
「だからなんで?」
アキレアはなづなちゃんに聞こえないように俺の耳元で囁いた。
「ここにいる子たちは自分が亡くなったことをまだ理解できずにいるの。この子たちの親はみんなまだ生きてるから会わせることはできない」
「はぁ?」
思わず感情的になってしまった。
言いたいことはわかるけれど納得はできなかった。
それを見たなづなちゃんが
俺はなづなちゃんの目線まで身体を
「驚かせてごめんね。ちょっとだけこのお姉ちゃんとお話しするから待っててくれる?」
「うん」
「ありがとう」
頭を撫でながら礼を言って再びアキレアに問いただす。
「死者の肉体を具現化できるなら地上に降りて会わせることくらい簡単だろ?」
「この世界はあくまで魂を天国へと浄化させるための場所。死者を蘇らせることはできないの」
「なんだよ、それ」
地面を蹴り飛ばす勢いで下唇を噛む。
「ここに集まっている子たちはみんな不慮の事故で亡くなってしまったんだけど、本人たちにはまだその自覚がなく、死ぬ直前の記憶から
ここにいる子供たちのほとんどが未就学児なのはそのせいか。
「だったらより会わせてやるべきじゃないのか?」
「それができたら苦労しないわよ」
怒りともどかしさを孕んだアキレアに返す言葉が浮かばなかった。
「まさか、この子の浄化の条件って」
「そう。なづなちゃんが
そんな、残酷すぎる。
お母さんの名前もまだ言えないのに、どうやって伝えれば良いんだろう?
「何日も話したけど理解してもらえなかった」
まだ4歳の子にもう死んじゃったなんてストレートに言っても理解してくれないだろうし、何よりなづなちゃん本人がお母さんに会いたがっている。
なづなちゃんの手には数字の“2”が刻まれていた。
この子はあと2日間で消えてしまう。
なんとかもう一度だけお母さんと会わせることはできないだろうか?
「この子をどうしてもお母さんに会わせてあげたい。何か方法はないか?」
アキレアはしばらく黙った後、
「おすすめはしないけど、1つだけあるわ」
その代償は大きかった。
「あなたの1日分を差し出すこと」
涅槃師に刻まれた曼荼羅の刻印の力を使うことで浄化に強制力をかけることができるらしいが、それには死者1人の1日分の力を分け与えないといけない。
だから涅槃師から促すことは基本しないらしい。
「じゃあ頼んだ」
「ずいぶんとあっさりしているのね」
「だって死んでるし」
「あなたがこの世界で肉体を宿っていられるのは7日間だけなのよ?日にちを延ばすことはできないし、下手したらあなたの浄化にも影響が……」
「後悔したくないんだ」
後悔とは行動しないことから生まれる感情。行動すればそれは何かしらの経験となり次につながる。
何より俺と同じ思いをしてほしくない。
当たり前にいたはずの家族という存在が急に目の前からいなくなることがどれだけ辛く苦しいことなのか。
「そう、わかったわ。目を閉じて心を無にして」
左手を俺に向けてきたので、言われた通り目を閉じて
その直後、
「……終わったわ。目を開けていいわよ」
一瞬のことで何が起きたのかさっぱりわからないが、目の前にあった大きな石が水晶へと変化していた。
「もう終わり?」
「えぇ。いまのでなづなちゃんとお母さんをつなぐことができるわ」
水晶を持ってなづなちゃんを静かな場所へと連れていく。
アキレアが左手で水晶を翳すと、ある人が映し出された。
この人はおそらくなづなちゃんの母親だろう。
目元がそっくりだ。
リモートのように画面に越しに対面した2人からはそれぞれ違う表情が伺える。
「あっ、ママだー!」
母親に気づいて水晶に顔を近づける。
「ママ、どこにいるの?」
顔が見えるのに触れることができないことに疑問を抱いている様子のなづなちゃん。
母親は涙目になりながら、
「なっちゃんなの?本当になっちゃんなの?」
まだ状況をつかめていないのか、驚きを隠しきれずにいる。
それもそのはず。
死んだはずの娘がいきなり現れたのだから。
「そんなはずないわ。だってあの日なづなは……」
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