第4話 取れない
あまりにも取れなくて、こんなにも取れないものか……!? と戦々恐々とした話。
なにが取れなかったって、バナナを房からポキっと折って、さぁ剥くぞ、という時に持つ、バナナの頭の部分。その一番上は茶色い(すべてではないかもしれない)。その茶色をうっかりがっしり掴んで、皮を剥いた日でした。人差し指の第二関節くらいのところについた茶色いのが、取れない……!
ティッシュで軽く拭いた。取れない。
強めに拭いた。取れない。
こんなに取れないもん? そう思い(言い)ながら、親指の爪でカリカリしてティッシュに押し付けたら取れた。いや、もっとあっさり取れるもんだと思ってたんですよ。ちょっと拭けば取れるようなものだと思うでしょうよ誰でも。
それどころか、今度は親指の爪に入り、さらに指紋の隙間にも埋まってしまった茶色いのが取れない。
こんなに取れないもん!?!? なんでこんなに執拗にしがみついてくんの!? 軽くパニックを起こした。
親指についたものを今度は人差し指でカリカリ。お察しの通り、今度は人差し指の爪に入る。親指の爪を人差し指の爪にぐいっと入れて、器用に動かして、取れたと思ったらまた親指の爪に貼り付く。白目を剥いた。
結局爪ごと爪切りで断末した。ああすっきり。もう一生付いてくれるなよ……!バナナの皮の一番上の茶色いところにこんなに殺意を芽生える日が来るとは夢にも思いませんでしたよ。
取れないで言うと、もう一つある。
子供用の剥がせるネイルだ。お察しの通り、これがなかなか剥がれない(ものによるかもしれないけれど)。
ちょっと長い休みに入る前、おしゃれ好きのお子は前日の夜からふんふんと鼻歌を歌いながらネイルをする。これがまた結構上手で、小さな小さな爪に塗られていくパステルカラーを見るのはこちらも楽しい。
はじめてそれを塗ったのはゴールデンウィークの初日で、お子はネイルを塗った爪でゴールデンウィークを楽しんだ。
明日からまた日常が始まる。幼稚園に赤い爪で行くわけにはいかないので、風呂の前に「そろそろ剥がそうか」と声をかけた。我が家は子供であろうともほとんど全てセルフサービスでやらせてもろてるので、「剥がせたら声かけてください」と親指を立てた。そもそもこういうものは、子供が塗って子供が剥がせますよ〜ということで売っているのだとも思っていた。しかし。
「剥がれないよ……」
眉を八の字にしたお子がとぼとぼと寄ってきた。なぬ? 剥がれぬと? 「剥がれるネイル」と大々的に謳っているのに?
どれどれと見せてもらうと、確かに全然取れてなかった。剥がすのは親の役目か……と少し肩を落としながら小さな爪や柔い皮膚を傷つけないように慎重に剥がしどころを探す。甘皮に被さっていた部分が少しぴらぴらしていたので、そこからぺろりといってみることにした。
……!?!?
あまりの抵抗力に危機を察し、一旦止まった。これ、爪まで剥がれてしまうんでない!?!?
恐る恐る、少しだけ剥がれたネイルの下を見ると、爪の表面は白く、段ボールからテープを剥がした時のように毛羽立っていた。これはいかんでしょ……!!
「い、痛い!?」
「痛くないけど、こわい……」
そらそうだ……(あれ、これ、使える……?)
言い換えます。さもありなん。さもありなん!!!(歓喜)
私は瞬時に立ち上がり、ベビーオイルと綿棒を掻っ攫ってお子と膝を突き合わせ座った。綿棒にベビーオイルをたっぷり含ませ、白くなってしまったところにぽんぽんと潤いを与える。爪は次第に元の色になり、固くなっていたネイルも少し柔らかくなって取りやすくなった。よしよし。
「こうやって少しづつ取ってみようか」
「うん!」
風呂自動の残り時間がどんどん過ぎゆく中、私はその筋の職人のように、剥がしにくい「剥がれるネイル」を剥がし続けた。すこぶる神経を使うし細かくて見にくいしで、小説を一万字書くくらい疲れた。
お子は綿棒にオイルを含ませるという作業が気に入ったらしく、オイル付き綿棒を量産した。そんなに使うかな、と思ったが結局全部使った。そのぐらい、本当に取れなかった。
この手のものは、「(塗って乾いたらすぐ剥がすと)剥がれるネイル」と思っておいた方がいいと心得た。長くてもその日の夜には剥がすことにしている。また塗りたかったら翌日塗って、また剥がす。剥がす部分だけはセルフサービスとは行かないので、今後も職人が手を施してやろうと寄りすぎて疲れた目頭をギュッと押さえながらも思うのであった。
補足
水に浸けながら剥がすらしい。風呂入りながらとか!
それを知ってから二日ぐらい放置したものを剥がしてみたが、やっぱりベビーオイルの世話になったので、一日で剥がすのがいいと改めて心得た。
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