第26話 先輩とお泊まり(2)

「せ、先輩と同室かって……!?」


 涼子の問いにどきりと心臓が跳ね上がる。


 涼子はまさか俺と先輩が同じ部屋に泊まるのではと疑っているのだ。


 答えはそのまさかだ。女将さんに何気なく案内されて従ったが、ナチュラルに同室にされてしまった。


 ラブホテルを回避したと思ったのも束の間、結局同じ部屋で寝ることになった。


『ちょっと、金吾、聞いてる? どうなのよ?』


「おう、聞いてるぞ!? 同じ部屋じゃないかって? そんなわけないだろ! 女性の先輩と同室だなんて――」


「小早川君、お風呂お次どうぞ」


 否定しようとした矢先、風呂から上がった先輩が背後から声をかけた。

 やばい、これはやばい!


『ちょっと、金吾!? 今先輩の声が聞こえた気がするけど?』


「お、おう! 先輩がそこにいるからな! ちょうどこれからのことを話し合うつもりだったんだ! とにかく涼子が心配するようなことは一つもないから安心してくれ! それじゃあ明日の件、空李さんにもよろしく!」


『あ、待ちなさ――!』


 ツーツー……。


 俺は強引に通話を終えるとスマホをサイレントモードにし、カバンの奥にしまった。これ以上会話してるとボロが出そうだ。


「今の電話、涼子さんですか?」


「えぇ、明日の練習は休むと伝えました」


「ありがとうございます。あの二人には迷惑をかけてしまいましたね。これはますます作詞で報いるほかありませんね」


 先輩は純真無垢な微笑みを浮かべて張り切っている。民宿から借りた部屋着の作務衣の下でぽよんとたわわなお胸が弾んだ。


 我慢だ……我慢だぞ、俺!


「それでは俺もお風呂に入ってきます」


 あんまり一緒にいると変に意識してしまう。身体も冷えてきたしさっさと風呂に入ろう。


「お客さん、濡れた服ですけど脱衣所のカゴに入れておいてください。夜のうちに洗濯して乾かしておきますよ」


 脱衣所に向かう途中、女将さんが親切に申し出てくれた。本当にいい人だらけだ!


「このカゴに入れればいいんだな」


 お風呂は大浴場だが一箇所だけ。男女で時間帯を分けて使うことになっているらしい。


 住人の生活空間を間借りする。それが民宿だ。


 ズボンのポケットからスマホを取り出し、洗面台に置こうとした。が、うっかり手が滑ってしまい洗濯籠の中に落っこちた。


「おっとっと、手が滑った。スマホスマホ……」


 ヒョイっと中からスマホを取り出す。が、ここで予想外の事態が。俺の手とスマホの、ちょうどになった谷目のところに別の洗濯物が引っかかって一緒に出てきてしまった。


「こ、これは……」


 ……黒いブラジャーだった。


 一体誰の? 決まってる、美墨先輩だ。籠の中には先輩のブラウスやスカートもあり、他に考えられない。可能性として女将さんという線もありえるが、それは即座に否定された。

 なぜならカップがすごく大きいからだ。女将さんは痩せ型で、(下品な推測だが)Dカップもないだろう。きっと涼子より小さい。

 一方でこの黒いブラジャーのカップはとてつもなく大きく、かぼちゃやメロンが入りそうだ。


 そしてうっかり目に入ってしまった。タグに書いてあるカップサイズのアルファベットが。


『K cup』


「け、K!?」


 そんなサイズってある!? グラドルにもそうそういないぞ!?


 先輩の胸の大きさは男子学生の間じゃ専ら関心の的だ。

 そりゃそうだ、男子学生なんて性欲が服を着てあるてるようなもので、常に女子のことを考えている。加えて高校と違って自由があるから女の子とイチャイチャしたくて仕方がない。ありきたりに言えばセックスしたいのだ。

 俺も男だからつい先輩のお胸に視線を奪われることがある。彼女の感情に配慮して慎んでいるつもりだが、無関心じゃいられない。


 そんな潜在的欲求のせいで見えてしまったのだ。これは不可抗力なのだ。


 これ以上見てはいけない。これ以上見てると妙な気持ちを抑えられない。俺はブラをカゴに戻し、自分の服で蓋をして風呂場に入った。


「Angel……Beautiful……Cute……」


 だが忘れようにもKカップの衝撃は脳に強く残っている。

 Kってアルファベット何番目だっけ?


「Infinity……Justice……K……K……。Kって何か単語あったっけ? Kindness?」


 なんでKカップがKindness親切なんだ? 親切にナニしてくれるんだ?


 ぐぬぬ……どうしよう。Kカップの妄想が頭から離れない。おかげで俺の下半身がIの字になってしまっている。この悶々とした気持ちを朝まで持ち越すなんて無理だ。タガが外れて先輩においたしかねない。


 仕方ない……処理するしかない。

 そういえば以前もこんなことあったな……。あれは涼子とラブホテルに逗留した時だっけ。


 ボディソープを拝借して……擦る。……ふぅ、これで夜を越せるぞ。


「あれ、ちょっと待てよ。先輩のブラがあそこにあるということはノーブラなんだよな?」


 風呂に入る時、女将さんがご主人のトランクスを貸してくれた。だからきっと先輩も女将さんのショーツを借りたことだろう。

 だがブラジャーはどうだろう? 細身な女将さんのブラが会うはずないし、ご近所にKカップの奥様がいるとも思えない。

 作務衣の下にはTシャツを着ていた。そのTシャツの下はつまり……。


「あう……また……」


 結局俺は二回目の処理もするハメになった。


†――――――――――――――†

 年内最後の投稿です。

 皆様良いお年を。

†――――――――――――――†

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