第19話 (詩乃side)校倉空李観察記(前)
次の平日、私は空李ちゃんのことをもっとよく知るため行動に移すことにしました。
彼女のことを知るには自分の五感で確かめるのが一番!
でも歌詞を書くためにあれこれ聞き出すと意図がバレてしまいます。
なのでバレないようにこっそり、彼女を観察することにしました。
――case 1. 授業を受ける空李ちゃん
一限の講義は経営学。内容は私にはちんぷんかんぷんですが、それは他の学生も同じです。後ろの方の学生は授業を受けるふりをしてスマホをいじったり、他の勉強をしている人がいます。
しかしそんな中でも空李ちゃんは真面目に授業を受けています。
前方の席でまっすぐ背筋を伸ばして教授の話に耳を傾け、時折ペンをノートに走らせます。
家庭教師の時から分かっていましたが空李ちゃんは勉強熱心です。
――case 2. 友達と過ごす空李ちゃん
午前の授業が終わるとお友達と一緒に外に出る空李ちゃん。今日は五月のぽかぽか陽気でピクニック日和。女子学生のお友達とレジャーシートを敷いてお弁当を食べていました。
会話の内容はいかにも女子っぽい恋のお悩みです。
「彼氏が一浪することになったけど、不合格のショックからまだ立ち直れないのよねー」
ある女の子の愚痴に皆が耳を傾けます。
「えーだいぶ引きずってるね」
「そうなのよ! もう二ヶ月も経つんだからいい加減立ち直ってもらわないと私まで鬱になるのよ」
「そういう時こそあなたが支えて、励ましてあげないと」
「それは分かってるけど、一人で合格した手前会いづらいのよね。顔を合わせても変な沈黙が生まれるし。こういう時って一時的に距離を置いた方がいいのかしら?」
なんだか複雑なお悩みです。生まれてこの方お付き合いをしたことのない私には到底答えられません。
「ねぇ、空李はどうすればいいと思う?」
「私? うーん、私は彼氏いたことないから分かんないや」
話を振られて空李ちゃんは眉を八の字にしました。
空李ちゃん、可愛らしいけどずっと女子校だから交際経験がないようです。なぜかちょっと安心してしまいます。
そうですよね、恋愛経験が無いとアドバイスできませんよね。
お友達は意味深な苦笑を漏らします。
それはどこか空李ちゃんを小馬鹿にしたような上からの目線。
同じ女だから推察できますが、恋愛経験の無い空李ちゃんを下にみているのでしょうか?
きっとお友達に悪意はないのでしょう。でもその悪意の無いランク付けこそ女の社会の本質。特に恋愛偏差値は女の社会では学歴より重要。
告白された回数、付き合った男の人数、セ……セックスの経験値などなどで女の価値を測ろうとしてしまうのです。
恋愛偏差値Fランクの私はいつもそれで冷飯を食わされてきたので分かります。
お友達は空李ちゃんから有益な話が出てこないと思ったのか、視線を逸らそうとします。ですが、空李ちゃんは果敢にも(?)発言しました。
「でも、辛くてどうしようもない時こそ、そばにいてほしいんじゃないのかな?」
真っ直ぐで迷いのない瞳にお友達はポカンと呆けています。
「彼氏さんが塞ぎ込んでるのは大学に落ちたせいもあるよ。でも一番は一緒に大学に通えない悔しさと申し訳なさなんだと思う。その気持ちを吐き出せなくて苦しんでるんじゃないかな?」
まるで直接本人から聞いてきたように具体的な心情を想像する空李ちゃん。ですがその言葉から彼氏さんの落ち込む様子と立ち直る姿が不思議と想像できました。
それはお友達も一緒なのでしょう。皆頷いています。
「空李の言うこと当たってるよ。男子って素直に弱音吐けないでしょ。だからこっちから気を遣ってあげないと」
「分かる。男子ってプライド高いもん。本音では慰めてほしいくせに言い出せないのよ。ほんと、世話焼けるわ」
どうやら空李ちゃんの言葉は皆の共感を呼んだようです。皆、口では辟易した風なのにすごく楽しそう。
恋愛経験が無いなりに親身になって助言する姿に脱帽です。
「それにしても空李ちゃん、よく気持ちが分かったね」
「たまたまだよ。たまたま私も似たようなことあったから」
「似たようなこと?」
「私の好きな人もね、ショックな出来事があって塞ぎ込んでたの。本人は『一人にしてほしい』って言ってたけど、結局一緒に時間を過ごすことになってそれで元気になってくれたんだ」
空李ちゃんの好きな人……それって推しの小早川君? 詳しくは聞かせてもらってないけど、小早川君は前にいたバンドを脱退してしばらく音楽から離れたと言っていました。家庭教師の間はケロッとしてましたが、やはり辛い時期があったのでしょうね。
それを支えた空李ちゃん、ファンの
が、お友達の方は違う受け止め方をしたようで。
「え、空李って好きな人いるの!?」
「それって誰!? どんな人!? ていうか空李ちゃんが立ち直らせたの!?」
「その人とはその後どうなの!?」
と一瞬でヒートアップ。話題は空李ちゃんの恋愛事情に移っていきました。
恋バナと恋愚痴は女の大好物なのです。
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後半へ続く
金吾の弟が主人公の兄弟作『藍田姉妹はハサみたい❤️』もよろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16817330668219472961
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