第16話 バンドミーティング!〜それぞれの役割〜
「こほん……。それでは引き続き、『Not Noise』のバンドミーティングを行います!」
ちょっと休憩を挟んでミーティングが再開。
「まずはメンバーの楽器のパートを確認します」
空李さんがつらつらとホワイトボードにパートを書いて行く。
空李 :ベース&ボーカル
金吾 :ギター
涼子さん:キーボード
詩乃さん:ドラム
大方話した通りだ。だがそれに涼子が疑問を投げかける。
「楽器初心者の空李ちゃんがベースボーカルで大丈夫? ベース弾きながら歌うのって相当難しいわよ」
ゆえに涼子が心配する気持ちはよく分かる。
ベースは簡単と思われがちだが正確に弾いてリズムを作る重要な楽器である。歌いながら正確に拍を刻むのはやってみると難しい。
だから俺も最初はボーカルに専念してはどうかと止めた。
だが空李さんの決意は固かった。
「難しい役割なことは分かってます。でも、どうしてもこのパートがいいんです」
「ふーん。それってもしかして、結愛がベースボーカルやってたから?」
「ち、違いますよ!? ただ単に私がボーカルやりたいとのと楽器の構成の都合上、そうせざるを得ないだけと言いますか……。結愛に対抗意識燃やしてるわけじゃありませんからね!?」
涼子の出し抜けな問いに空李さんはあたふた必死に答えた。
空李さんの構想は理解できる。
涼子に得意なキーボードを任せるならベース音は不在となる。対策としてキーボードで低音を作れば良い話だが、今の様子からして建前だ。
本心ではリコネスのベースボーカリストだった結愛を意識しているようだった。結愛の浮気を知って「嫌い」だなんて言っちゃったけど、内心憧れてたのかな?
分かりやすいなぁ。
「空李ちゃんが覚悟決めてるなら私から言うことはないわ。この構成で意義なしよ」
「まぁ、やりようはいくらでもあるからな」
最悪サビだけベースなしで歌に専念させるのも一つの手だ。幸いにしてノノイにはキーボードがあるからベースが欠けてもカバーできる。
「私は楽器ね。キーボードっていくらくらいするのかしら……」
涼子が眉間に皺を寄せて天井を仰ぐ。楽器の購入もまたバンドの大きな悩みだ。
「キーボードなら俺が持ってるから貸すよ。作曲に使ったりしてたやつ」
「助かるわ」
俺のキーボードは引退した先輩バンドマンからもらったものだ。中古だが上等な楽器なのでライブにも十分使える代物だ。
「ドラムセットはどうしましょう? 私の家に置き場はあるのか……」
むむむ、と美墨先輩が唸る。
「ドラムを買うの必要はありませんよ、先輩。置き場を確保するのも苦労しますが、練習のたびに動かすのも骨が折れますし」
本格的に始めるなら練習用のドラムセットを買うのは良いが、先輩はあくまで次の文化祭までという前提である。
「スティックは買ってもらうとして、お家での練習は素振りや雑誌などで作ったダミーを使いましょう。本物を叩きたい時は楽器店のレンタルスタジオなどを使うのですが……」
「ですが?」
ふふふ、と俺はもったいつけた笑みを溢す。
「北斉大学の皆様にお得情報! なんと北斉大学にはスタジオがあります」
「「「おぉ!」」」
「ドラムもあります」
「「「おおぉぉ!!」」」
「学生は好きに使って良いそうです」
至れり尽くせりである。
大学の設備の中にいくつかのスタジオがある。収録や実験などで使うための設備で、教職員と学生は申請すれば誰でも使えることになっている。
またスタジオにはドラムが置いてある所もあり、こちらも申請すれば使わせてもらえるのだ。
「ドラムは昔の軽音部の先輩が卒業する時に寄贈したもので、今は学生会の備品なんだそうです」
「先輩に感謝ですね」
持つべきものは気前の良い先輩だ。
「練習の方針ですが、パート練習は各自で行い、最低でも週に一回は合同練習を行うようにしましょう。最初から合奏は無理ですが、俺と涼子でお二人に教えつつ、合奏できるレベルに仕上げていきましょうね」
「異議なし!」
「指導任せてね」
「よ、よろしくお願いします」
かくして担当する楽器のパートと練習の方針が決まった。
*
「最後に音楽以外の役割を決めましょう!」
空李さんの仕切りでミーティングは進んでいく。
楽器のパートは決まったが、バンドには裏方的な役割も必要である。今からそれを決めるのだ。
「必要な役割としては経理、広報、マネジメントといったところかな」
「はい、私広報やる! 公式インスタとX作るね!」
ノリノリで立候補したのはもちろん空李さんだ。まぁ、外向きなことが好きそうな空李さんは適任だろう。友達も多いし。
「次にマネジメント。これは俺がやるよ」
主にバンドの活動の管理全般。練習スタジオ押さえたり、イベント出演の折衝が主な仕事である。リコネス時代は信彦がやっていたが勝手は分かる。
「次に経理だな。これも俺が――」
「それなら私やるわ」
遮って挙手したのは涼子だ。
「金吾はマネがあるから私がやる。それに……」
「それに?」
「あんたに判子預けるのは怖い」
ガーン……。
俺ってば信用ゼロ?
「どうしてそんなこと言うんだよ?」
不本意なので意義を唱える。判子を預けられないだなんて俺の面子丸潰れなんですけど?
「あんた、忘れたとは言わせないわよ? 信彦とどんな約束したんだったかしら」
「はぅ!?」
そうだった……。昨年、リコネスを追い出された俺は信彦に丸め込まれて曲の使用権を渡しかけたのだ。
その後、涼子のおかげで防げたものの、今後契約ごとをする際は必ず相談するように言いつけられていた。
「で、反対意見は?」
「……ございません」
「結構」
この方面に関して到底意見などできない俺だった。
「信彦がどうかしたの?」
知った名前が出てきて空李さんが怪訝そうに首を傾げる。
「いえ、なんでもありません! お気になさらず!」
こんな話、恥ずかしくてできっこない。
「あの、私は何をすれば……」
「詩乃さんは雑務無しで。就活もありますから。その分、練習に時間を割いてくださいね」
「あ、ありがとうございます」
空李さんの決定に依存はない。三年生の先輩はゼミに就活にと多忙だ。バンドに参加してくれただけで十分大きな決断だから雑務を押し付けるつもりは俺にもなかった。
「そ、し、て! バンドのカラーを象徴する役割である作詞作曲ですが……」
満を持してと言わんばかりのもったいつけた空気を作り出し、空李さんが切り出す。
曲は言わずもがなバンドのキモだ。自分達らしさを表現する曲、あるいは曲が自分達らしさを決めるわけだから空李さんが重要視するのは当然のこと。
その曲作りを担うのは……
「あ、あの作詞なのですが――」
「もちろん金吾にお任せします!!」
ババン!! と効果音が聞こえてきそうな仕草で俺を指名する空李さん。
ん? 一瞬誰かが発言しようとしなかったか? か細い声が聞こえた気がしたが気のせいだったろうか?
「金吾といえばギターと詞と曲! 数々の名曲を生み出して東京にまでサウンドを響かせた腕前だからノノイの曲もお任せします! 引き受けてくれるよね?」
「えっ? あ、はい、もちろんです!」
「はぁ……金吾が作った曲を私が歌う日がもうすぐ来るんだ……。私って幸せ者だなぁ。北斉市で生まれて良かった。よ、北斉が産んだモーツァルト!」
「褒めすぎですよ!?」
ロックバンドでモーツァルトはないでしょ。
でも悪い気はしないので受け取っておこう。
「それでは全ての議題に結論が出たので終わりにしますが、何か意見のある方はいませんか?」
各々に水を向けるが発言する人はいない。
「美墨先輩から質問はありませんか?」
「い、いえ。……ありません」
俺は気を利かせて先輩に尋ねたが、彼女は首を横に振った。
先ほど先輩が何か言いかけた気がしたのだが、どうやら気のせいだったらしい。
「それじゃあ今日は解散にします。これからよろしくお願いしますね!」
空李さんの解散宣言で初めてのバンドミーティングはお開きになった。
これからこのメンバーでまた音楽を作っていく。そんな未来への緊張と期待に俺は胸の高鳴りを抑えきれなかった。
「あの、小早川君。ちょっとお時間よろしいですか?」
全員で退出しようとする瞬間、先輩が急に呼び止めてきた。何事かと訝しんで皆足を止めた。
先輩は声をかけてきたものの、どこか落ち着かない様子で視線を泳がせたまま唇を蠢動させていた。
「あぁ、ゼミの話ですよね? ここで話しましょう。空李さんと涼子はお先にどうぞ」
なんとなく、気を利かせた方がいい気がして俺は人払いをしたのだった。
†――――――――――――――†
ノット・ノイズ始動!
かたや詩乃が秘める思いとは……
金吾の弟が主人公の兄弟作『藍田姉妹はハサみたい❤️』もよろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16817330668219472961
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