第15話 バンドミーティング!〜雑音じゃありません〜
「それでは、第一回『私達のバンド(仮)』のミーティングを始めます! どんどんぱふぱふ〜!」
大学の空き教室を借りて開催されたバンドミーティング。
ホワイトボードをバックにした教壇に立つ空李さんはテンションマックスで高らかに宣言した。
テンションが高い理由は言うに及ばず。
だがあえて言おう!
空李さん的黄金メンバーが揃ったからだ!
この教室にいるのは俺、空李さん、先日参加を呑んでくれた美墨先輩、そしていろいろ迷ったけど頷いてくれた涼子の四人。
昨年度、家庭教師をしてずっと一緒にいたメンバーが再び一堂に会した形となった。
「えへへ、詩乃さん、涼子さん、改めて参加してくれてありがとうございます! 私、バンドするなら絶対この四人でって思ってたんです!」
「私の方こそ、誘ってくれてありがとうございます。音楽の経験は乏しいですが、精一杯ついていきます」
「まぁ、一人でウジウジするのも格好悪いし、心機一転のつもりにね。ブランクあるけど勘を取り戻せるよう頑張るわ」
美墨先輩はニコニコして心底嬉しそうだ。新しい試みだが気の置けないメンバーなため安堵と期待で胸がいっぱいなのだろう。
一方の涼子はまだ少しぎこちない。断り続けてきたのに一転して参加表明したため申し訳なさがあるのだろう。そんなこと気にする空李さんじゃないのに。
「えへへ、二人とも大好きです! あ、もちろん金吾のことも大好きだよ?」
そんな取ってつけたみたいに言わなくても良いんですよ?
「それでは改めまして私達のバンドの最初のミーティングを始めます。今日はバンドのグループ名、各位のパートをきちんと決めたいと思います」
空李さんがホワイトボードにアジェンダを書いていく。バンド名は必須だし、パートもおおよそ決まっているが改めて確認するのもいいだろう。
「空李さん、追加項目が。バンドをするには楽器の担当だけでなく、経理や広報など裏方の担当も決める必要があります」
「さすが金吾! バンド経験者! 私の推し!」
めっちゃ持ち上げられる!? 空李さんの誉め殺しスキルの威力は凄まじいな。全然大したことやってないのに達成感で溢れる。
「それでは最初にバンド名を決めたいと思います! 候補がある人は手を挙げてください。はい、私に提案があります!」
空李さんの一人芝居になってる!?
テンションが天井知らずに高まっておかしくなってますよ。
「それでは空李さんの提案をお願いします」
「ズバリ『北斉シスターズ』です!」
「「「却下」です」」
「なんでぇぇぇ!?」
俺、涼子、美墨先輩は異口同音に却下する。
だって……ダサいもん。
「一人男が混ざってますよ」
と俺。ダサい上にツッコミどころがいくつもあるネーミングだ。
「それじゃあ『北斉シスターズ with 金吾』は?」
「なんか俺がタイアップ参加してるみたいになってますよ!?」
一夜限りの共演?
「そもそも『北斉シスターズ』が田舎っぽいし安直」
これは涼子の意見。田舎っぽいかはともかく地元推しが強すぎてローカルアイドルみたいになってる感はある。
「それじゃあ『Hokusei City Sisters』でどうでしょう?」
英語にすればいいって問題じゃないような。というかどうしても北斉とつけたいんですか? そんなに地元愛が強いだなんて知りませんでした。
「バンドでも姉妹はちょっと……」
これは美墨先輩。『シスターズ』を敬遠する理由は共感しかねるが、これで『北斉』も『シスターズ』も両方封じられた。
「そ、それじゃあ『北斉・ユニバーシティ・スチューデンツ』は?」
「直訳すると『北斉大学の学生』ですか?」
もはやバンドじゃない。ただの在学生の皆さんだ。
「もっと心情とか主張したい事柄の象徴を入れてはどうでしょう?」
「私達らしさとかバンドのカラーをシンプルに表現する感じね」
「ありふれた単語をモジってみると個性が出るかもしれませんね」
俺達の矢継ぎ早なアドバイスを空李さんはいそいそとホワイトボードにメモしていく。
「ダサいとファンがつかないですからね」
「字面が良くても呼びづらいのはNGね」
「長いなら略しやすい方が良いでしょうね」
「先輩、良いところに気づきましたね! 略称使うと親しみも湧きますからね。リコリス・ダークネスならリコネスという具合に。というわけで空李さん、格好良くて呼びやすくて尚且つ略しやすい名前でお願いします」
「うがぁぁぁぁぁぁ!!」
吠えた! 空李さんが吠えた!
赤のインナーカラーが入ったロングヘアーが逆立ち、さながら炎のように燃え上がっている。怒りで覚醒しそうだ。
「そんなにいっぺんに要求しないで下さいー! 私は静かにじっくり考えるタイプなの! 雑音の中でいきなり振られてもポイポイ出てこないもん!」
ありゃりゃ。出鼻くじかれてダメ出しされ、その上新しい要求を突きつけられてパンクしちゃったのか。可哀想なことをしたな。
「ごめんなさい、空李ちゃん。ちょっと注文しすぎましたね」
涙ぐむ空李さんを美墨先輩労は寄り添って慰めた。空李さんは鼻を一つ啜ると美墨先輩の身体にしがみつく。ボフッ、と音を立てて顔を先輩のタワワな胸に沈めたのだった。
おおぅ、空李さんの小さな顔が耳までめり込んどる。
「そ、そうね。まぁ、急いで決めることでもないし、追々考えましょう。でも私達も良い名前にしたくて意見したつもりだからそれは分かってね? 雑音なんて言わないでちょうだい。ノットノイズよ、私達」
涼子も続いて気遣いの言葉を手向ける。
その気持ちは皆同じだ。
ただのお付き合いのつもりで参加するなら名前なんてなんでもいい。無くてもいい。バンド名に意見するのは当事者としての意識が芽生えているからに他ならないのだ。
その意見はノイズなんかじゃない。ノットノイズだ。
ん?
「ノット・ノイズ!」
俺は脳みそに電流が走ったような気がし、夢中になって声を上げた。
「そうよ、ノットノイズよ。建設的な意見を言ったつもりよ」
「涼子、そうじゃない。俺達のバンド名、『Not Noise』というのはどうだ? 略して……『ノノイ』!」
二単語で短いし、略称も耳心地が良い。それに音に関する単語が入っているのもポイントだ。
「俺達の音楽は雑音なんかじゃない。今感じたことを伝える心の声なんだ。そんな意味だけど、どうですか、空李さん?」
パッと浮かんだ割には耳心地が良く、尚且つ象徴的な意味の含まれる良い名前だと思う。
空李さんは美墨先輩の胸から顔を上げ、口をへの字にしたまま思案した。
「ま、まぁ、良いんじゃないかな? 第一候補にしてあげる。べ、別にNot Noiseを気に入ったわけじゃないんだからね! 金吾の意見だから聞いてあげてるだけなんだからね!」
どういうツンデレ!?
「それじゃあ、とりあえずバンド名はしばらく『Not Noise』で行きます。でも今月中にもっと良いやつが浮かんだらそっちと比較して考えるようにしましょうね」
空李さんはホワイトボードの文字を『Not Noiseミーティング』に書き換えてまじまじと眺めて頬を緩めている。なんだかんだで気に入ってくれたみたいだ。
後日談であるが対案となるバンド名は提案されなかったので、俺達のバンドは『Not Noise』に決定したのだった。
†――――――――――――――†
Not Noise――略してノノイ爆誕🎸🥁🎹🎸
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