第11話 「新学期早々見せつけやがって!」
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ズシーン……ズシーン……。
「な、なんだ!? 地震か!?」
午前中の講義を終えた俺は空李さんとの待ち合わせのため生協で文庫本の立ち読みをしていた。
その最中、全身を揺さぶるような振動を感じ、緊張が走った。
気のせいではない。他の学生や店員さんも驚いている。
だがこの揺れは地震ではないな。地震らしい横揺れではなく、どちらかというと縦方向の揺れだ。
建物を揺り動かすほど振動。それが少しずつ強くなっている。いや、近づいているのだ。
あ、揺れが収まった。一体なんだったんだろう。
不可思議に思い、首を傾げる俺。だがさらに不可思議な現象に襲われる。
暑い。さっきまで心地良い温度だったのになぜか一気に暑くなった。しかも蒸し蒸しするこの感じ、まるでロウリュでサウナの温度を上げたみたいだ。額に汗が浮かんできた。
「暑いな。一体なんだ……よ……」
暑さでイライラし、痺れを切らして振り向いた。そして言葉を失った。
背後に巨大な物体が
二メートル近い高さと俺二人分の幅はあろうかという物体。一瞬自販機が設置されてるのかと思ったが、よく見るとそれは人だった。
ものすごく太った男だった。
「あれ、小早川じゃん」
「そういうお前は……石原か?」
バレーボールみたいな顔についた小さな二つの目がギョロリと動いて俺を見下ろす。
その男の名前は石原
いや、それよりも……
「石原、お前また太った?」
「おい、小早川、失礼だぞ。再会早々体重のこと聞くなんて」
うん、ごめん。本当は他に言うことあるよな。再会の挨拶とか、近況報告とか、そもそもどうしてお前が北斉大学にいるのか、とか。でもそんなことがどうでもよくなっちゃうくらい気になるんだもん。
「まぁ、お察しの通り太りましたよ、えぇ」
「だよな。正月会った時より明らかに増量してるもん」
生協の通路をギリギリ通れるくらいの横幅だよ、君。
「二十キロ増量?」
「残念。四十キロ」
「太り過ぎだろ!? 正月からってプラス四十キロってことだよな!? 毎月平均十キロ以上増量した計算だろ。どうやったらそこまで太れるんだ!?」
「よせよ、照れるじゃん」
「褒めてねぇし! ていうか正月には一年で五十キロ増えたって言ってたな。そこからさらに四十キロだから一年で九十キロか。どうやったら一年で成人男性一人分の増量ができるんだよ」
俺の体重より重いし!
「体重のことは置いといて、どうして石原が北斉大にいるんだよ。京大目指したんじゃ?」
「うん……まぁ、色々あってな」
質問に石原は言葉を濁して視線を彷徨わせた。分かりやすく動揺していた。
「落ちたのか?」
「ぐぬぬ……。デリカシーのないやつ」
お前に言われちゃ世話ないよ。
「あぁ、そうだよ。今年もダメだったんだよ。それで後期入試で北斉大に合格して入学したんだ。二浪は親が認めてくれなかったからな。じゃなかったらこんなとこ来ないっつーの」
「お前、北斉大の学生に囲まれててよくそんなこと言えるな」
全方位に喧嘩売ってるって分かってる? 生協にいるの全員
石原は昔から頭が良く神童と噂されたが、学力を鼻にかけて人を見下したり、豊富な知識で論破したりなど――傍若無人というか唯我独尊というか――性格に難がある。
「また小早川と同じ学校かよ。これじゃあ腐れ縁だな」
「後から入ってきておいて偉そうだな」
見た目は変わっても性格は変わらないか。ブレないメンタル、ちょっと尊敬するわ。
「ま、とりあえず大学進学おめでとう。それからよくこそ北斉大へ。サークルとか決めた?」
「サークルは入んないよ。時間の無駄だろ、あんなの」
だから一言余計なんだよ!
「大学でも勉強ばっかりするつもりかよ。見上げた心意気だけどそれじゃあつまんないだろ」
「ギター弾いて遊んでるお前と一緒にすんなし。あ、バンドはもうやめたんだっけ? それは置いといて、大学では文化祭実行委員会に入ろうと思う」
「え、
ちょっと意外だ。
文化祭実行委員会は文字通り北斉大学の文化祭の開催を担う学生団体である。
文実はサークルみたいに垣根を超えた学生の交流が持てるが、行事に対して一定の責任があるので時間負荷が大きいと聞く。プライベートの時間を犠牲にする活動に彼が携わるのは予想外だった。
「文化祭の運営に携われば就活の時に話すネタになるだろ」
なるほど、ガクチカエピソードのためか。同じ理由で文実に入る人は結構いるそうなのでそれなら納得だ。
「小早川もバンドやめてフラフラしてるくらいなら何かやれよ。就活の時に苦労するぜ」
「今のお前は後輩ってこと忘れるなよ。あと、別のバンド組むことになったからご心配なく」
「なんだ、またギターで遊ぶのかよ」
本当にこいつはいちいち……。
どんどんフラストレーションが溜まる。そこに、
「金吾、お待たせ!」
背後から響く空李さんの声。
振り返るとトレードマークの赤いインナーカラーヘアーの空李さんが立っていた。が、当然彼女も巨体の男に呆然としていた。
「えっと……石原さんでしたっけ? お正月に会いましたよね」
「うっす……。確か小早川が家庭教師してた人ですよね」
二人は正月に偶然顔を合わせた。知り合いというほどではないが顔は覚えていたらしい。
「え、小早川、もしかしてこの人と付き合ってるの?」
「付き合ってない」
「ほっ……なーんだ」
俺にしか聞こえない声量の石原はなぜか安堵した。
昔の話だが石原は俺と結愛の交際を
しかも俺が結愛と別れたこと喜んでたし。
「ねぇねぇ、金吾、早く行こうよ!」
空李さんは俺の手を握ってぶんぶんと振り回す。そうだった、この後は予定があるんだった。
「えっと……この後二人でどっか行くの?」
はしゃぐ空李さんを怪訝に思ってか石原が尋ねてきた。
「そうです! 今日は金吾と一緒に楽器を見に行くんです!」
「な……。おい、小早川! 話が違うぞ!?」
何の話だよ。
「バンド組むって言ってたけど、お相手はまさか……」
「うん、空李さんだよ」
「なっ――」
ガビーン、と頬を引き攣らせる石原。なんでそんなにショック受けてるんだよ。
「あと、詩乃さんも一緒なんですよ。覚えてますか? お正月に振袖着てた人なんですが」
「あ、あのお方も一緒だと……」
「私達で3Pするんです!」
「3P!!?」
石原の巨体がぐらりと揺れた。こっちに倒れてきそうなので俺は空李さんの肩を引いて後ずさる。この質量は危険だ。
「――けやがって……」
「「えっ?」」
「新学期早々見せつけやがって! 俺は文実で学生全員に貢献するんだからな! 仲間内で盛り上がってるお前らとは違うんだからな!」
そんな捨て台詞を吐いて石原は去っていった。
ズシーン、ズシーン。
さっきよりも強い振動で建物を揺らしながら。
なんだったんだ。いきなりキレ出して。受験がうまくいかなかったことがまだ尾を引いてるのだろうか。
「(今、3Pって聞こえたぞ)」
「(男と女で3Pってまさか……)」
「(受精しろ。ダブルで受精しろ!)」
石原が去っていった生協はにわかにざわついていた。
*美智雄Side
今日は文化祭実行委員会の集まりだ。今年度最初の集まりの本日は委員会の概要の説明、各部門の仕事の説明と、部門の希望を募るらしい。
ズシーン……ズシーン……。
集合場所の教室が不自然に揺れる。おしゃべりに興じていた学生は水を打ったような静けさに支配され、動揺が広まった。
「な、なんだ、地震か!?」
「地震警報は来てないけど……」
その直後、教室後方の入り口から自動販売機が歩いて入ってきた。
いや、自販機じゃない。人だった。タッパがある上にものすごく太っているので自販機と見間違えたのだ。
この世にこんな太った人がいるなんて。海外の映像で超肥満の外国人が紹介されてたのを思い出すな。
というかこの人も文化祭実行委員会の委員なのか?
非常に失礼だが、この人とは一緒に仕事したくないな……。
「隣、座っていい?」
「あ、はい、どうぞ」
自販機さんは教室後方の僕の隣の席に座った。三人分の長椅子のスペースに座る彼からは妙な熱気と湿気が伝わってきた。ロウリュみたいな人だな。他の学生も熱くてパタパタシャツを仰いでるし、上級生はエアコンのパネルを操作し始めた。
教室温暖化の瞬間である。
その後、文実の説明会が始まり、担当決めまで完了した。
僕はなんでも良かったが担当はステージ企画班になった。講堂や中央広場のステージパフォーマンスの運営の仕事だ。
で、気になる班のメンバーだが……
「俺もステージ企画だから、よろしく。頭使う仕事だけど、足引っ張るなよ」
自販機さんこと石原さんも含まれている。
初対面なのに鷹揚なこの挨拶……なかなか扱いづらそうな性格だ。
先が思いやられる。
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第1章で大活躍(?)した石原君の再登場です!
彼の活躍(?)にもご期待ください!🐷
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