第41話 (挿絵あり)共通試験

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 pyku1994様

 0412t様

 ギフトと応援のコメントありがとうございました。

 今後ともお楽しみいただけるよう執筆に励んでまいります。

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(挿絵:https://kakuyomu.jp/users/junpei_hojo/news/16817330665701343405


 正月が明けて迎えた最初の週末。


 ◆四人のトークルーム◇


『(空李)会場の蘭陵らんりょう高校に着いたよ!』


『(涼子)おはよ〜。いよいよ本番ね』


『(涼子)肩の力抜いて緊張せずにね』


『(金吾)本番で本気を出すな。練習通りのことをやればいい』


『(金吾)って昔ライブハウスのオーナーが言ってました』


『(詩乃)常に平常なれ、ですね!』


『(空李)三人ともありがとう! 今まで積み重ねてきたものを発揮できるよう頑張るね』


 ――およそ一時間後


『(空李)社会科終わったよ〜』


『(空李)とりあえず全問解答できた!』


『(涼子)お疲れ様! ゆっくり休憩してねー』


 ――午後 二科目終了後


『(空李)国語終わったよ! 超簡単だった!』


『(空李)もしかして全問正解かも!?』


『(金吾)それはすごい!』


『(詩乃)やりましたね! 英語もこの勢いで頑張ってください!』


 ――夕方 最終科目終了後


『(空李)英語も終わったよ! リスニングが難しかったよぉ〜』


『(空李)でも筆記は全部解答できた』


『(金吾)きっと筆記で挽回できてますよ』


『(金吾)一日目お疲れ様でした。今日は早く帰って、温かくしてよく休んでくださいね』


『(空李)えへへ、ありがとう金吾。』


『(空李)金吾がくれたヘアピンのおかげで頭が冴えたのかも!?』


『(空李)明日もがんばる!』


 ――二日目 早朝


『(空李)おはよう! 今から会場行ってきます! 今日もがんばる!』


 ……


 ……


 ……


 ……


 ……これを最後に空李さんからのメッセージは突然途絶えた。


 ◆講師三人のトークルーム◇


『(金吾)空李さんからの連絡、来ませんね』


『(涼子)来ないわね。どうしたのかしら』


『(詩乃)忙しいのでしょうか?』


『(涼子)試験当日だからって連絡できないくらい忙しいってことはないと思いますが』


『(金吾)確かに。何かあったのかな?』


『(詩乃)まさかテストの出来が悪くて落ち込んでるとか……』


『(涼子)縁起でもないこと言わないでください!』


『(詩乃)すみません……』


『(金吾)同級生と共通試験お疲れ様パーティーでもしてるんじゃありません?』


『(涼子)ポジティブか!?』


『(涼子)でもそうかもね。うん、きっとそうよ!』


『(涼子)空李ちゃんだもん、いいことありすぎて浮かれて連絡忘れてるだけよ!』


『(涼子)明日になったら大はしゃぎで電話してくるかもだし、それを待ちましょう!』


 ……


 しかしその期待とは裏腹に空李さんは翌日も、その翌日も連絡してこなかった。

 俺も涼子も美墨先輩もこれはおかしいと不安を感じ始めた。言葉にこそしないが皆悪い予感を感じていたことだろう。

 そんな不安があるせいでこちらから連絡を取るのは憚られ、空李さんとの間に変な沈黙ができてしまったのだった。


 *


 コミュニケーションが取れないまま時間が過ぎ、とうとう金曜日になってしまった。

 朝、俺は沈黙する空李さんへの不安を抱き、翌日土曜日の家庭教師の授業のことを考えながら大学へ行く支度をしていた。


 本当なら明日は二次試験に向けた対策会議をするつもりだったが、連絡が途絶えた現状身動きが取れない。一応、今夜涼子が直接連絡をしてくれることになっている。今後の動きはそれ次第になるだろう。


「さて、と。大学に行くかな……。俺達ももうすぐ試験だ」


 大学は高校までの三学期制ではなく前期・後期の二学期制。後期は一月いっぱいとされており、一月最終週は各コマの期末試験や期末レポートの提出が集中する。なので俺達もうかうかしてられない。


「でもやっぱり気になるなぁ……」


 ぼんやりした心持ちで身支度を済ませて靴を履き、玄関を出た。その時だ。


「わぁ!?」


 ドアを開けた途端、人が立っているのが目に入って悲鳴を上げてしまった。朝から人が訪ねてくるなんてそうそう無いから意表を突かれてしまった。


 一体誰だ? 俺はにわかに高まった動機を抑えつつその人物の様子を伺った。


 艶々の黒くて長い髪と幼なげな顔をした愛宕女学院の生徒さん。

 俺は目を疑った。


「空李……さん……」


 まさか彼女が朝から訪ねてくるなんて予想だにしなかった。


 いや、以前も同じようなことがあったっけ?

 涼子と朝帰りをした時、電車でバッタリあった空李さんが俺についてきてしまった際のことだ。


 しかしその時とは違い、空李さんの顔は沈んでいた。唇をキュッと噛み締め、目元に力を入れて感情を抑え込んだような顔をしていた。


「空李さん、どうしたんですか!? どうして今まで連絡してくれなかったんですか!? 心配しましたよ!」


 俺は押さえ込んでいたものが込み上げ、矢継ぎ早に質問をしてしまった。空李さんの顔を見ればこんなことするべきじゃないのに抑えきれなかったのだ。


 空李さんはその問いに答えなかった。いや、答えられなかったのだ。


「金吾……どうしよう。私、大学落ちたかも……」


 そう呟くと辛抱ならぬ様子で突然大きな声を上げて泣き出し、俺の胸に額を押し当てた。


 俺は何が起こっているのか全く分からず、ただ呆然と立ち尽くした。

 ただ弱りきった空李さんが哀れでならず、無意識に肩を抱き、頭を撫でていた。

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