第32話 真実か挑戦か①
「えへへ、来ちゃった♡」
ウエストの後ろで手を組み、満面の笑顔の女子高生。
北斉市の男子の憧れ、愛宕女学院の生徒さんが……俺の部屋の玄関にいる。
「あ、空李さん!? どうしてここに?」
まさに青天の霹靂!
可愛い制服を身に纏った空李さんの姿は眩しく、目が眩みそうになる。
だって信じられるかい? 市内屈指の女子校に通うお嬢様が一人暮らしの男の部屋を訪ねてくるなんて……。
いや、空李さんはこれまで何度も勉強しに来たけど、それとこれとは話が別というか、正直制服の威力が半端ないっす!
「せっかく朝から金吾に会えたんだもん。もっとお話ししたかったの」
「う、嬉しいですが学校は?」
「今日は早めに家を出たからまだ余裕だよ。本当は昨日の模試の自己採点するつもりだったけど、今は金吾と話したい気分なの。ダメかな?」
クリッと大きな瞳が戸惑いがちに潤み、俺を見上げてくる。
うぅ……そんな目で「お話ししたい」なんて言われては断れない。
いわゆるぶりっ子の目線は男子に効果
というか愛宕女学院の男性教諭はこんな可愛いJK達を毎日眺めながら仕事しているのか。うぅむ、羨ましい。
「もちろん、ダメじゃありませんよ。さぁ、どうぞ……」
「えへへ、それじゃあお邪魔しまーす!」
勝手知ったる我が家のごとく、空李さんは部屋に上がり、いつも座っているポジションに腰を下ろした。ちょこんとお行儀良く座る所作は百合の花が咲いているみたいだ。
「すぐに紅茶を淹れますね」
自分の朝食など後回しにしてお茶の支度をする。以前のようにポットに二人分の茶葉とお湯を注ぎ、カップに移してお出しした。
「甘酸っぱくていい匂い……。これはなんていうお茶?」
「ローズヒップティーです。美肌と免疫力向上に効果があります」
「今の季節にぴったりだね! いただきます」
空李さんはカップから一口飲み、ほうっと小さくため息を吐いて味わった。さっきまで大はしゃぎだったのに一転して慎み深い大人の女性の顔をし、不覚にも見入ってしまった。
「美味しい。こうやって二人でお茶するの二度目だね」
「初めて会った時以来ですね」
酔った俺を送り届けて介抱してくれた朝のことだ。あの時も紅茶を出したっけ。
その後は家庭教師が始まり、皆でお茶をするようになったので二人きりなのはあの朝以来。
そういえばナチュラルに二人きりな状況を作ってしまった。以前涼子に怒られたし、それ以降も自重した結果三人で家庭教師をすることになったわけだ。
まぁ、もう知らない間柄じゃないし良いか。
俺達が知り合ってもう一ヶ月が経つ。アーティストとして応援する・されるだけの関係だったのがいつの間にか勉強を教える講師と生徒の関係になっていた。
不思議なものだな、と感慨深く思っていると、
「それで金吾、涼子さんとはどうだったの!?」
「ぶふぅ!?」
再びのゴシップクエスチョン。空李さん、大人しく引き下がったと思ったけど納得してなかった!
もしかして頭の回転の速い涼子がいなくなるのを待ってたとか?
だとしたら策士!
「あ、空李さん!? さっきも言いましたけど何も無かったですよ!?」
「もう、金吾ったら分かりやすいなぁ。大丈夫、私は推しが恋愛してても嫌いになったりしないから! ちゃんと線引きして、推しの幸せを願う良識あるファンだから!」
えっへん、と胸を張る空李さん。
その言葉、いったいどこまで信じて良いやら……。
「本当に何も無いんですって。涼子と友達の家に泊まっただけで、皆で仲良く雑魚寝しただけです。涼子には指一本触れてませんし」
虚実入り混じるとはこのこと。泊まったのはラブホテルだが彼女の身体には触れていない。きちんと性欲を制欲した。
「俺達は友達同士ですからね」
「むぅ……強情だなぁ」
強情も何もそれが事実ですよ。
そんな眉間に皺寄せて睨んだって何も起こりませんって。
空李さんは渋い顔で何事かを思案するが、やがてパッと顔を明るくさせる。きっと何かを思いついたのだ、頭の上で電球が光った気がした。
「それじゃあ金吾、ゲームしようか!」
「いやです」
「即答!?」
このタイミングでゲームって魂胆が見え見えなんですけど。
「そ、そう言わずに私と遊ぼうよ!」
「空李さん、学校に遅れますよ?」
「へ、平気だし!」
「遅刻したら美墨先生に怒られるのでは?」
「う……」
空李さんの目が泳ぐ。やはり先生に叱られるのは怖いらしい。
「何回かやったら終わるから! 終わったらすぐに学校行くから!」
「はぁ。少しくらいなら。それで、どんなゲームをするんです?」
時間は俺に味方する。適当に粘って空李さんの出発時刻を待てば彼女は出ていくと分かっていた。しかし必死な様子に絆されて俺は乗ってしまった。
「『真実か挑戦か』ゲームだよ!」
「どんなゲームですか?」
「まずコインを投げて、表か裏かを当てる。負けた方は『真実』と『挑戦』のどちらかを選ぶ。『真実』を選んだら質問に正直に答える。『挑戦』を選んだら出されたお題にチャレンジする。面白そうでしょ?」
なんてことはない、シンプルなパーティゲームだった。
そして彼女の真意もまたシンプルだ。俺に『真実』を選ばせ、昨夜のことをあれこれと聞き出す作戦か。
「分かりました、やりましょう」
「やった!」
「ただし、俺への質問のNGワードに『涼子』を指定します」
「なんでぇぇぇぇぇ!!!?」
涙目になって喚く空李さん。やっぱり狙いはそれか。
実際のところ、空李さんに何を聞かれても例の作り話をするつもりだが、ゲームで嘘をつくのは気が咎める。なので後腐れなしにゲームを楽しむためのNGワードだ。
俺って頭良い。
「その条件が呑めないのならゲームはしません。お茶を飲んでお見送りします」
「むぅ……分かった。それでいいよ。でも隠し事は無しだからね」
空李さんは不貞腐れつつも俺の条件を呑んだ。涼子とのことを聞けなくなった時点でゲームをする意味は失われたはずだがやる気だ。
空李さんは財布から十円硬貨を取り出し、指で弾いて宙に浮かす。
キーン、と甲高い音が響いた直後、華麗に空中でキャッチして拳を突き出した。
コインの裏表を当てて勝敗を決めるのか。
「私は表」
「では俺は裏で」
空李さんの指が解ける。拳の中の硬貨は平等院を天井に向けている。出たのは表。つまり空李さんの勝ちだ。
「ふふん、私の勝ちだね。それじゃあ金吾、真実か挑戦か?」
得意げに選択を迫ってくる。
まさか初回から負けるとは。
いや、確率的に勝率は五分五分なので負ける可能性は充分あったから予想すべきだった。
だが最初から負けることを考えてなかったので選択肢に迷う。
どうしたものかな。
と、視線を彷徨わせていると部屋の隅のギタースタンドが目に入った。
同時に彼女の心が読めた気がした。
俺が挑戦を選べば彼女は曲をリクエストするのではなかろうか?
うむ、間違いない。彼女のことだからきっと俺に『歌え』と命じるはず。
何せ空李さんは俺のファンだからな。俺にされて一番嬉しいのは生歌の披露してもらうことだ。
そして朝から生歌を聴いた喜びを噛み締めて学校に行くのだろう。
我ながら冴えた予想だ。
「それじゃあ……挑戦で」
かくして俺は選ぶ。
「それじゃあ、そうだなぁ……」
対して空李さんの選択とは……
「キスして、金吾」
大外れでした。
†――――――――――――――†
空李からの挑戦状……
でもやられっぱなしの金吾じゃありません!
次回、反撃開始……
面白いと思った方は❤️と⭐️で応援お願いします!
†――――――――――――――†
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