第28話 (涼子side)涼子とラブホテル③〜抱かれる準備〜

「まったく……年の瀬にとんでもないもの見たわ……」


 静寂に支配された客室に恨み節が溶けていく。


 ふかふかのベッドに横たわるも、身体が火照ったせいで眠気は吹き飛んでしまった。


 やむをえずチェックインしたラブホテル。

 元彼と利用したことはあったし、金吾となら間違いも起こらないだろうと緊張はなかったが、やはりいざ入ると落ち着かない。


 こじんまりして雰囲気ムードのない客室だが、やたら存在感のあるベッドが否応なしに『行為をする場所』と印象付ける。


「ソファ無いからやっぱ一緒に寝るしかないわよね……」


 彼を固い床で寝させるわけにはいかない。今日は金吾と寝るのだ。


 いや、寝ると言ってもいやらしい意味ではない!

 本当にただ”sleep”するだけ。

 断じて何も起こらない……はず。


 金吾とは高校時代から友達で気の置けない間柄だ。

 勉強、進路、恋愛、音楽となんでも相談できる友達である。だからあいつがリコネスを追い出された時も真っ先に相談してくれたし、私も真摯に応じた。


 私にできるのはそれくらい。

 でも私にしかできないこと。


 全然すごくない私が、とってもすごいあいつと肩を並べられる唯一の方法。

 私の自慢の友達。


 そんな金吾と今更男女の間柄になると想像すると少し変な気分だ。


 金吾が男としてダメということはない。むしろ優良物件だ。


 ちょっとぽやんとしてるけど頭はいいし、顔は整ってるのできちんとオシャレすれば格好良く見える。音楽が好きだから心が豊かで優しいところもポイントが高い。


 塩顔で賢く、面白みのある青年。


 トータルで見ると結構良い男だ。彼氏にするのになんの問題もない。


 それなのにあいつに粉をかけないのは、やはり彼が小早川金吾その人だからだ。


 長く友人をやり過ぎるとちょっとやそっとのことじゃドキドキしない。

 恋愛スイッチが入るには、それこそ何かのきっかけが必要なのだろう。




 そんな私は今、スイッチが入りかけている。




 金吾に裸を見られた羞恥心と、彼の裸を見た衝撃のせいで身体が火照っている。


「なんであんなにおっきくしてんのよ……」


 いや、理由は分かっている。生身の女の裸を見たから彼の身体に男性ホルモンが溢れかえっているのだ。

 私だって伊達に恋愛経験積んだわけじゃない。それくらい分かる。


 問題は金吾がこの後私にどう接するか、だ。


 裸を見られた時は友達らしいコミュニケーションでどうにか流した。それで気まずい思いは無しになるはずだった。

 だが今度は逆に私が彼の裸を……しかもガッチリ大きくしてる姿を見てしまった。

 すでにレベチに恥ずかしい。


「って、何を私は……! これじゃあまるで私があいつの身体に興奮してるみたいじゃない!?」


 いや、まぁ、あいつの身体を見て何も思わないわけじゃない。

 私だって人間だから性欲はある。


 だが告白すると私はだ。元彼が二人もいて、なんか周りからは恋愛経験豊富と思われてるけど初体験は済ませてない。

 元彼とはになったが、最後までいかなかった。


 私もいい歳だったし、興味はあったし、交際期間的にそろそろと思ったので勇気を出して誘いに乗った。彼の愛に応えようとしたのだ。

 だがいざ裸の付き合いをしようという段階で怖くなり、ストップをかけたのだった。

 結局それが原因でギクシャクし、カレとは別れた。

 私もすっかり臆病になり、以降バージン喪失の機会は巡ってこない。

 軽くトラウマになっているのだ。


 しかしついにがやってきたのかもしれない。


 久しぶりに見た男の身体……。

 しかも下半身はやる気満々……。


 男の身体は正直だ。


「俺達ずっと友達だぜ!」みたいな顔してるくせに私のことちゃんと女として見てるじゃない。

 え、生理現象ですって? だから何もしない?

 そんなもの見せつけといて「安心してくれ」とか言われても説得力ゼロだし!


 ていうか金吾のあれ、元彼より大きかった気がする。

 私の中にちゃんと入るのよね?


「はうぅ……。金吾、私のことどうしたいの……?」


 正直、今迫られたら断れる自信がない。

 最初その気が無かったとしても私の裸に興奮して抑えきれなくなった、ということはありえる。

 金吾も男だし、一途にしてきた結愛に後ろめたさを感じなくてもよい。

 私にアタックしてくるかは彼次第だ。


 その時、私はどうすればいいの?


「処女ってバレたらどんな反応されるんだろう。笑われるかな……ていうか優しくしてくれるわよね……」


 例え相手が友達でも、例え相手が金吾でも、あいつが迫ってきて雰囲気作ってきたら私は受け入れてしまうのだろうか……。

 その時、私はどう振る舞えば良いのかさっぱり分からない。

 経験豊富な女を気取ろうにもそもそも未経験なんだから無理に決まってる。

 男によっては「処女は重いからイヤ」なんていうやつもいるって言うし(友達談)。


「まぁ、金吾はそんな酷いこと言わないし、優しくしてくれるわよね? なんたって金吾だし。でも金吾だしなぁ……。ヤった後どんな顔すればいいのよ……」


 一夜の過ちで終わらせるのか、それとも身体の相性を確かめ合った上での交際スタート? なんか欧米ではそれが普通らしいし……。

 それともカジュアルにセックスするセックスフレンド? それって楽しいのかな?

 いやいや! 親友とそんなただれた関係になっていいはずがない。


 やはり迫られても断ろう。「私達はずっと友達でいましょう」と。それがお互いのためだ。


「でも、とりあえずゴムの確認だけはしておこう……」


 うん、サイドボードにアメニティの避妊具が置いてある。さすがはラブホテルだ。


「万が一……そう、万が一の時はこれを……」


「ふぅ……スッキリした……」


「はう!?」


 洗面所へ続く扉が開き、金吾が出てくる。

 私と同じアメニティのパジャマに身を包み、湿った髪をガシガシ乱暴に拭く所作は男っぽくて不覚にもドキリとした。


「うお……涼子!? 寝るんじゃなかったのか?」


「えっと……なんだか目が覚めちゃって……」


 私の身体はポカポカ火照っている。そしてどことは言わないがしっとり湿り気を帯びていた。


 思いがけず裸を見せ合った私達の夜は始まったばかりだった……。


†――――――――――――――†

 涼子との夜はまだ続きます🌃。


 続きが気になる方は❤️と⭐️をよろしくお願いします!

 レビューコメントもつけてもらえるとすごく嬉しいです!

†――――――――――――――†

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