第27話 (挿絵あり)涼子とラブホテル②〜ウルトララッキースケベ〜

(挿絵:https://kakuyomu.jp/users/junpei_hojo/news/16817330664653004883


 地図アプリを頼りに住宅街を進むと目当てのラブホテルに行き着いた。


「本当にあったよ、住宅街に……」


 俺は目を疑った。


 閑静な住宅街の広い土地。

 豪邸が二軒は建ちそうな空間にあるのは木造二階建てで集合コテージのような建物。

 寝静まったベッドタウンで妖しいネオンの看板を煌々と煌めかせる様子はまさに合成写真で、その異様な光景に俺は開いた口が塞がらない。


 なんでベッドタウンにラブホがあるんだ?

 こういう施設って作るのに規制が色々あるんじゃないのか?

 ま、今は渡りに船なのだが。


「ホテルっていうよりコテージ?」


「モーテルってやつじゃないか?」


 俺と涼子は竜宮城に行き着いたような不思議な気分で恐る恐る敷地を進む。

 ロータリーからエントランスに入り、パネルで空いている部屋を選んで宿泊室に入った。


「あんまり雰囲気ないな」


「雰囲気なんてなくていいわよ!」


 窓のない、ダブルベッドと最低限の家電だけが備えつけられた狭い部屋だった。

 ラブホテルというと恋人達のムードを盛り上げるインテリアが見所と言える。結愛と付き合ってる時はそれも楽しみであった。

 しかし今いる部屋はビジネスホテルより素っ気ない。それともこれは恋人達の秘密の隠れ家というコンセプトか?


 なんにせよ俺達はあくまで宿泊客。劣情を煽る趣向は不要であった。

 逆に恋人ムードを煽られても気まずいし。


「アメニティに紅茶があるな。涼子、飲む?」


「いらない。足がクタクタだからシャワー浴びたら眠らせて」


 涼子はアウターを脱ぐと重い足取りで洗面所へ向かっていった。

 今日もお店は大盛況だったため疲労はピークだろう。かくいう俺も慣れない革靴を履き続けて足が痛い。


 それになんだか口の中でネバネバして気持ち悪い。

 夕食は賄いで済ませたため、歯を磨いてしまおう。


 紅茶を淹れて煮出し、待っている間に歯を磨くことにした。

 洗面所へ続くドアからは微かにシャワーの音がするため、涼子はバスルームにいることだろう。


 そう推察した俺は洗面所に入る。目当ての使い捨て歯ブラシを手に取り、ふと洗面台の鏡を見た時だ。


 鏡越しに裸の涼子と目が合った。


「へ……」


 何が起こったのか分からない。

 自分の顔と涼子の顔が一緒に映っているのだ。

 俺は幽霊でも見た気がして驚いて振り返る。


 するとバスルームと洗面所を隔てる巨大なガラスの向こうにシャワーを浴びる涼子がいた。


 結んでいた髪を解いて下ろし、一糸纏わぬ裸身に水を滴らせる女友達の姿が……。


「きゃあああ!?」


 ガラス越しでくぐもった悲鳴が俺の鼓膜を震わせる。

 涼子は胸を隠しながらしゃがんだ。


「なんで入ってきてんのよ!?」


「す、すまん! 歯磨きしたくて……」


「とっとと出てけ!」


「ごめんなさい〜〜!」


 俺は慌てて洗面所から飛び出し、力任せに扉を閉じてヘナヘナと崩れ落ちた。


 油断した。ラブホにはバスルームの壁がガラス張りにしてる所があるのだった。

 そのことを念頭に置かなかったせいで涼子の裸を見てしまうとは……。


 自分の粗忽さが悔やまれる。

 同時に目に焼きついた涼子の裸身を思い出してしまう。


 色白な肌に程よい大きさの乳房、くびれたウエストと小ぶりなヒップ。

 涼子の身長は一六五センチくらいで女子にしてはやや背が高い。手足は長く、まさにモデル体型である。

 それゆえに昔から涼子は男子に注目される存在だった。俺もあいつのことは綺麗だと思っている。

 そんな美しすぎる女友達の裸、意識せずにはいられない。


 俺の心臓は身体から飛び出しそうなくらい強く脈打っている。


 *


 涼子が上がるまでの間、俺は戦々恐々と震えていた。


 涼子の裸を見た代償はきっと大きいだろう。


 烈火の如く怒られるか、あるいは凍えるような冷たい視線を向けられるか……。


 なんにせよ信頼を裏切った俺が友情を守るには平身低頭する他ない。


「上がったわよ……」


「お、おう……」


 数分の後、恥じらいを押し殺したような顔をして洗面所から出てきた。


 私服から備え付けの白いルームウェアに着替えた涼子。長袖長ズボンのパジャマみたいだ。

 化粧を落として完璧美人ではなくなっていたが、すっぴん顔はどこか懐かしさを感じさせた。


「涼子……さっきはすまん」


 改めてシャワータイムを覗いてしまったことを詫びた。

 不慮の事故とはいえ、俺の不注意が招いたこと。女性の裸を見た罪は重い。


「てい!」


 垂れ下がった頭に手刀が振り下ろされる。

 こつん、と軽い衝撃がわずかに視界を揺らした。


「まったく。付き合ってもないくせに私の裸見るなんて、贅沢なやつ」


「うう……面目ない」


「あんたで二人目よ、私の裸見た男は……」


 ぶつくさと文句を言いながら涼子はベッドに腰掛け、バスタオルで髪を拭き始める。


 それから


「ま、カーテン閉めてなかった私にもお落ち度あるし、それで水に流したげるわ。でも宿泊代はそっち持ちだからね」


 と恩赦してくれた。


 ここのホテルは事後精算。二人で八千円を割り勘する予定だったが俺の全額負担で手を打ってくれるらしい。

 年末に手痛い出費だが、それで涼子が機嫌を直してくれるなら安い。


 安堵されるが、ちょっと拍子抜けだ。もっと怒られるかと思った。


「あんたはシャワー浴びないの?」


「いや、浴びてくる。バイトで汗かいたし」


「そう。あんたはカーテン閉めときなさいよ。あとでドライヤーするから」


「うす」


 とりあえず一件落着。俺も一日分の疲れを流してさっさと休もう。


 シャワールームは湿気が溢れていた。当然だ、さっきまで涼子がここで水浴びしてたのだから。

 そして俺はその姿を見てしまった。


「涼子の身体……きれいだった」


 熱めの湯を浴びても焼きついた記憶は流れ落ちない。

 この場所に裸の涼子が立っていたとどうしても意識してしまう。


 そんな時、ふと涼子が口にした言葉が脳裏を過ぎる。


『あんたで二人目よ、私の裸見た男は』


 俺が二人目。

 ということは一人目は元彼ということになる(もちろん親父さんは除く)。


 その一人目はどちらなんだろう……。


 涼子には付き合っていた男が二人いる。高校時代と大学に入ってすぐの頃に彼氏がいた。

 どちらも俺と顔見知りだ。高校の彼氏とはクラスメイトだったし、大学の彼氏とは結愛を入れてダブルデートした。


 そんな、なまじ顔見知りな彼らのどちらがあの綺麗な身体を抱いたのだろうか。

 我ながらゲスな疑問だ。だが興味は尽きない。


 高校の彼氏とは恋人期間が長かったがまだ子供時分だ。涼子は真面目な性格だから「大人になるまで」と弁えていたかもしれない。

 では大学時代の彼氏かという訝しい。こちらは交際期間が短かったため、そこまで至ってない可能性がある。


「どっちだ……どっちとヤったんだ……?」


 お湯を浴びながらぶつぶつ呟く俺。

 頭の中では裸の涼子がベッドで男を誘うピンク色の妄想が繰り広げられる。




『ねぇ……X、来て。私、カラダがうずいてどうしようもないの』




 あのキリリとした涼子もやっぱ男の前では女になるはず。


 なまじっか彼氏といる姿を知っているだけに妄想を加速させずにいられない。

 そのせいか身体はクタクタなのに一部分だけが元気一杯になってしまった。


「マジで何考えてんだよ、俺」


 これから涼子と同じ部屋で寝るのに。イヤらしい意図はないはずだったのに、こんなんで一晩耐えられるのか?


「一発ヌいといた方が良いよな……」


 涼子に劣情を催してオカズにするのは気が咎める。友情のために我慢すべきか?

 だが夜を無事に過ごすため、ひいては友情ためにむしろ発散すべきだ。最近忙しくてヌいてなかったから絶対我慢できなくなる。


「涼子のため、これは涼子のため……」


 ボディソープで右手をヌルヌルにし、いざ行かん!


 と、下半身の相棒を握ろうとしたその時だ。




「ドライヤー、ドライヤーっと……」




 洗面所のドアが開き、涼子が入ってくる。その拍子にガラス越しに俺達はまた目が合った。

 そして見つめ合っていた切れ長な目は流れ落ちるように俺の下腹部へ……。


「きゃあああ!(俺)」


「ぎゃあああ!(涼子)」


 再びこだまする悲鳴。


「カーテン閉めとけっつったでしょおおお!」


「ごめん〜〜!!」


 元気一杯でギンギンになった息子から慌てて視線を逸らし、逃げるように涼子は出ていった。


「うぅ……見られてしまった。元気一杯なところを見られてしまった。お母さんにも見られたことないのに……結愛にしか見られたことないのに……」


 涼子よ、俺の勃起を見たのはお前で二人目であるぞ。


†――――――――――――――†

 涼子との夜はまだまだこれから……


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†――――――――――――――†

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