第22話 ラッキースケベはお約束

 さて、新たな家庭教師として迎えた初日。

 俺の部屋には空李さん、涼子、美墨先輩が訪れていた。


 四人でローテーブルを囲み、授業の準備は万端だ。 


「それじゃあ改めまして、神田涼子です。主に二次試験の数学を担当します。数学は得意科目だから共通試験の方も任せてね」


「美墨詩乃です。国語を担当させて頂きます。国語が苦手科目と聞いているので、お力になれればと」


「小早川金吾です。俺は二人に任せる科目以外は全般に教えるつもりです」


 講師陣の自己紹介と分担の説明をざっくりと行い、家庭学習のキックオフと相なった。


「今伝えた通り、涼子には数学を、先輩には国語を任せて、俺は英語と共通試験の理科、社会科を請け負うつもりです。二次の数学は涼子に専任してもらうけど、他は誰に何を聞いても結構です。幸い、空李さんの受験科目は全員がカバーしているので」


「は、はい、よろしくお願いします! はわわ……現役の北斉大の学生さんが三人も家庭教師になってくれるなんて心強いよぉ〜」


 鉄壁の布陣過ぎて空李さんはかえって驚いてしまっている。

 確かに、市内の学習塾や家庭教師でバイトしている北斉大の学生は結構いる。近郊では難関大学なため、学力はお墨付きなのだ。

 そんな北斉の学生が受験生一人に専属講師として、しかも三人もつくというのは破格の待遇と言える。


「これで空李さんは合格間違いなしですね!」


「プ、プレッシャーだよぉ……」


「そ、そういうつもりでは……」


 だが待遇は良すぎるとかえって萎縮させる。嬉しい反面、空李さんは先輩三人に囲まれ、ちょっと浮き足立っている様子だった。


「まぁまぁ、初見同士ってわけじゃないし、お茶飲むつもりでじっくり勉強しましょう」


「それがいいですね。肩肘張ってると息切れしますし」


 そんな空李さんを涼子と先輩が宥める。優しいお姉さんな先輩の笑顔に空李さんはふにゃあっと相好を崩した。


「まずは改めて空李さんの実力の分析といきましょう」


 気を取り直して俺は持参してもらった模擬試験の成績表を手に取る。これにはテストの得点だけでなく、志望校の合格判定、偏差値、学習のアドバイスなどが書かれている。

 俺は先日確認済みだが、涼子と先輩のために改めて分析しようというわけだ。


 成績表の内容をざっと述べ、空李さんの強みと弱みを涼子たちに大まかに述べた。二人はうんうんと頷きながら耳を傾ける。


「なるほどね。諦めたと聞いてたけど、それほどひどい成績じゃなさそうね」


 これは涼子の意見。涼子はきっと内心で身構えたのだろう、課題が思いのほか軽微で安心した様子であった。

 涼子は俺の真横に移動して成績表を覗き込む。涼子の整った横顔がすぐそばに迫り、カモミールみたいな爽やかな香りがふんわりと漂う。


 ……近いよ、涼子。お前とは古い付き合いだけどそんなに近づかれるとドキドキするじゃん。


「弱点の科目は理科と国語……。国語は共通にも二次試験にもあるので対策は必須ですね」


 冷静に脅威への対策を述べるのは美墨先輩。先輩も俺の真横にずれて手元を覗き込んできた。幽幻な森林のような香りはフォレスト系のミストか、あるいは香木か? どちらにせよ先輩らしい落ち着きのある香りだ。

 あと、本人は気づいてないだろうが巨大な塊が俺の二の腕にむぎゅーっと押し付けられている。


 あぁ……香りと感触で昇天しそう……。


「むぅ……三人ばっかり仲良くして……。わ、私も見ます!」


 蚊帳の外に置かれた空李さんがヘソを曲げた様子で不満をこぼす。そしておもむろに立ち上がると俺の背後に回り込み、おぶさるように身体を密着させてきた。


 温かい身体と元気の出る柑橘っぽい香りがフワッと漂い、俺の意識はクラクラした。


 だがその瞬間、俺の身体がぐらっとバランスを失う。空李さんが思いのほか勢いよくじゃれついてきたため衝撃を受け止めきれなかったのだ。


「おわっ!?」


「きゃあ!?」


 俺の身体は美墨先輩の方に倒れ込んだ。


「ちょ、私の腕掴まないで!?」


 必死に体勢を立て直そうと咄嗟に涼子の腕を掴んでしまう。結果、涼子も巻き込む形で床に四人でひっくり返ってしまった。


「いたた……もう、バカ金吾ぉ……。なんで巻き込むのよぉ……」


「ふええ〜皆ごめんなさい〜」


 涼子と空李さんは俺と先輩に覆い被さるようになる。俺と先輩は二人の下敷きになってしまった。


 ふわふわして柔らかい女の子の身体の感触が俺の全身を包み込む。そして顔面に弾力のある二つの物体に挟み込まれるような感触が。そして胸いっぱいに吸い込みたくなるような深緑の香り……。


「こ、小早川君……。お顔が胸に……」


「むぐぐ……しゅみません……」


「ひゃん! その状態で喋らないでください〜!」


 先輩の嬌声が部屋にこだました。

 なんということでしょう。俺は先輩の豊かなお山に凸してしまっていた。


「この狭い部屋に大人四人が集まるのは結構大変ね……」


 涼子がぼやく通り、レッスンするにはこの部屋は手狭だ。だが他に自由に使えて交通の便の良い場所もないため、我慢するしかない。


 つまり今後も毎週俺の部屋を女の子達が訪ねてくるというわけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る