第13話 (挿絵あり)ボストンの茶会①

(挿絵:https://kakuyomu.jp/users/junpei_hojo/news/16817330663912092556


 日曜日の午後。


 北斉大学には休日にも関わらず人が訪れている。

 顔ぶれは学生が主だが、中には子供連れの家族や若いカップル、高齢夫婦なども混ざっている。


 今日は紅茶同好会“ボストン”主催のお茶会の日だ。


 会場は大学から借りた屋外のスペース。秋晴れの空の下では来場者をもてなすスタッフ役のサークルメンバーが忙しく動き回っている。


 お茶会の流れは、まず来場者が整理券を受け取る。その券でお茶とお菓子を引き換え、設営した座席やシートで好きにお茶してもらうという感じだ。


「ボストンのお茶会にご参加の方はこちらで整理券を受け取ってくださーい!」


「お茶はおかわり自由です!」


「お菓子は整理券と交換です。一人一つです。ご了承ください」


 今日は特に忙しい。いつもの来場者は三十人くらいだが今日はその倍は来ている。秋晴れの今日は温暖で、絶好の茶会日和なおかげだろう。

 俺はお茶汲み係として来場者に紅茶を注いだ紙コップを渡している。


 そこに、


「金吾、こんにちは!」


 満開の山茶花を思わせる笑顔を浮かべた空李さんがやってきた。


「空李さん、こんにちは。今日は来てくれてありがとうございます」


「ううん、こちらこそ招待してくれてありがとう! エプロンよく似合うね」


 と空李さんはお礼とともにそんなお世辞を送ってくれる。

 俺の今日の服装はワイシャツにモスグリーンのエプロンを合わせたカジュアルウェイタースタイル。お茶会スタッフは清潔感を出すために白シャツにエプロンを合わせることになっている。


「ありがとうございます。空李さんのお洋服も可愛いですよ」


「そ、そうかな……?」


「はい、とてもお似合いです」


「えへへ、金吾に褒めてもらえるなんて嬉しい」


 頬に朱を差して照れる空李さん。

 今日の空李さんのコーデはベージュのロゴ入りパーカーと膝丈のデニムスカート。全体的にアースカラーで秋らしい雰囲気が落ち着きのある愛嬌を作り出していた。


「ちょっと〜? なーにお客さんのこと口説いてんのよ」


「りょ、涼子……!? 口説いてるとかじゃないし!」


 俺の後ろでお茶の用意をしていた涼子が意地悪な声音で茶化した。

 彼女も俺と同じお茶係だ。


「あ、涼子さん、こんにちは! 今日はご馳走になります!」


「こんにちは、空李ちゃん! ゆっくりしていってね!」


「ありがとうございます! 涼子さんもエプロンよく似合ってますね!」


 笑顔で挨拶を交わし合う女子たち。俺の知らないところでいつの間にか仲良くなったみたい。


「空李さん、お茶をどうぞ。お茶会では毎月季節の紅茶をお出ししてます。今月は秋なのでマロンティーです」


「マロンティー? あ、栗の匂いがする」


「隣のテーブルでお芋のパウンドケーキもお渡しするのでどうぞご一緒に。それから、空李さんにはこちらを」


 そう言って俺は後ろのテーブルの端に置いていた紙袋を差し出した。


「先日のお礼です」


「へ、お礼!? お茶とケーキだけじゃないの!?」


 空李さんが目をまん丸にして驚く。お礼として伝えたのはお茶会の招待だけなので、こちらはサプライズのようになってしまった。


「中身はクッキーです。勉強の合間にでもどうぞ」


「わぁ、ありがとう! 推しからプレゼントもらえるなんて嬉しいよぉ〜。一生大事にするね!」


「しょ、賞味期限内にお召し上がりください」


 クッキーくらいで大袈裟な。

 空李さん、うすうす思ってたけどちょっと変わった子だ。まぁ、面白いから良いけどさ。


 渡すものを渡すと空李さんはウキウキした足取りでお菓子を配るテーブルへ移った。お礼の品を喜んでもらえたようで俺は安堵したのだった。


「小早川君、こんにちは」


「あ、美墨先輩、こんにちは。来てくれたんですね」


 空李さんのすぐ後にやってきたのは先日招待した美墨先輩だった。


「はい、せっかくご招待して頂いたので」


「ありがとうございます。今日はお一人ですか?」


「むぅ……一人ですが、いけませんか?」


 先輩は唇を尖らせる。


 しまった。やっぱり先輩は一人が好きなタイプの人だった。

 一人で静かにご飯を食べたり、読書したりする静かな時間をこよなく愛する人だと俺は見ている。


「い、いえ、そんなことありませんよ! こちら、マロンティーです。お芋のパウンドケーキと一緒にどうぞ」


 俺は話題を逸らして必死に誤魔化す。


 世の中にはなぜか一人の人間を冷ややかに見る風潮がある。

 人に馴染めないとか、社交性が無いとか、勝手な偏見を抱く人がいる。

 俺も一人になるのは好きなので正直余計なお世話だと言ってやりたい。

 だが図らずも先輩を同じ気持ちにしてしまった。お恥ずかしい。


 そう反省した時だ。


「え……美墨先生?」


 空李さんの呆気に取られた声が俺たちの耳朶を打った。


†――――――――――――――†

 ヒロインズ、邂逅!

 次回に続きます。お楽しみに!

†――――――――――――――†

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