第4話 (裏切者side)順風満帆?


 城址公園でゲリラライブが行われているその頃。


「のぶー、もう少ししたらご飯できるからね♡」


「おう、楽しみにしてるぜ!」


 そう返事をした信彦はベッドの上でパンツ一丁でスマホを見ながら寝そべっている。


 金吾を追い出した信彦はその後、結愛のカラダにむしゃぶりつくようにせっせと腰を動かしていた。三年間苦楽をともにした仲間を無情に切り捨てた直後に寝取った女を抱いたのだからゲスという他ない。


「くくく……結愛のカラダは最高だな。乳は小さいけどあっちはキッツキツ。あのテクは金吾に仕込まれたのか? まったく、お前はとんでもない変態だぜ、金吾」


 ニヤけながら信彦はスマホで撮影した結愛のあられもない姿の画像を眺めて行為を思い出した。


 友人の彼女を寝取った罪悪感は微塵もない。今は結愛という女をモノにした愉悦で胸がいっぱいだ。


 結愛と出会ったのは高校の軽音同好会だ。

 当時は垢抜けず、芋臭くてまったく自分好みじゃなかった。だから金吾と付き合ったことにも無関心だった。

 どちらかといえば二人が別れた時にバンドが危機に晒されるという一抹の不安はあった。が、それも杞憂だった。


 金吾は男としての自分に自信がなく、結愛と付き合えているのは奇跡だと本気で思っていた。だから結愛に一途だった。

 結愛も結愛で目立たない自分を一途に愛してくれる金吾に心底惚れ込んでおり、満ち足りているのは一目瞭然だった。


 それで安心した。だがすぐに後悔した。


 結愛は金吾の彼女になると化粧を覚えたり、髪型をいじったりして日に日に垢抜けていった。芋虫が蝶になるような変身ぶりで、いつしか学校一の美少女と噂になるほどだった。

 まさに結愛はダイヤの原石。こんなことなら先に唾をつけておけばと悔やまれた。


 もちろん衝動的に仲間の女を奪うような真似は自重した。自分にとって最優先はプロのミュージシャンになることだからバンドに楔を打ち込む真似はできない。何より金吾は大事な仲間だったから……。


 だが金吾が大学に通い始めてから彼らの関係は少しずつ変わっていった。


 金吾は大学のためにバンドに割く時間が減った。信彦にはそれが不満だった。

 一緒に夢を追うと誓ったはずなのに、大卒の肩書きを得ようと予防線を張る行いは二枚舌と思われた。


 もっと言えば大学に通うことをひけらかされ、見下されている気がした。

 もちろん金吾にそのつもりはない。が、勉強嫌いの信彦は大学の話をされるとコンプレックスを刺激されるようにいつしか変わっていた。

 そのせいで金吾にじわじわ不快感(被害妄想)を抱き始めた。


 そんな調子で結愛と二人きりで練習することが増えたことで我慢ならなくなり、ついに禁忌を犯したのだ。

 結愛は高校時代は毎日会えていた金吾と会えなくなり、わがままを聞いてもらえなくなった不満を募らせていたため、信彦が言い寄るとあっさり心変わりした。


「ねー、のぶ。本当に私たち金吾抜きでやってけるのかなー?」


 キッチンで炒め物を作る結愛が先行きを案じる。


「へーきへーき。東京で捕まえたギタリストは結構良い線いってるし」


「んー。でも新しい曲作んないとだよ?」


「それもなんとかなるだろ。作曲家もすぐに捕まるさ。いざとなったら俺が作る。それまではあいつの曲でも演ってしのげばいいさ」


「え、のぶって作曲もできんの!?」


「お、おうよ! 任せとけ」


 尊敬の眼差しを向ける結愛に大口を叩く。本当は五線譜も読めないが、ここで無理と答えて彼女を失望させたくない。第一、金吾にできることを自分には不可能と言ってしまうと劣っていると認めることになる。


 きっとなんとかなる。


 結愛を、そして自分を安心させるよう信彦は大口を叩いた。


「すごーい! 知らなかった。それじゃあやっぱ金吾はいらないね!」


「当然だ。これからもリコネスは俺が引っ張っていくからついてこいよな!」


「うん、のぶについていく! ねぇ、のぶ、ご飯食べ終わったらまたエッチしようね」


「なんだ、もう恋しくなったのか? 結愛は淫乱だな」


「ひどーい! 私、のぶにもっともっと好かれたいだけなのに」


「冗談だって。飯食って、一服つけたらな。あ、悪いけどその前にゴム買ってきてくれよ」


「えー、私が買いに行くの?」


「しょーがねーだろ。結愛が昨日から何回もしたがるからゴム無くなっちゃったんだぜ」


「はーい」


 不承不承返事をした結愛は調理に戻る。ちょっと子供っぽいところがあるが、そこも含めて結愛の可愛いところだ。


 ふふふ、と信彦は不敵に笑む。


 東京の事務所に所属が決まり、念願のデビュー。その前に憧れ続けた歌姫ディーバをモノにした。金吾の代わりの調も目処がつき、自分の人生は順風満帆。

 信彦は早くも成功者になった気になってホクホク顔だった。


「さー、でけたよー」


 機嫌を直した結愛が大皿を持ってテーブルにやってきた。


「おー、腹減ってたから待ち侘びた……ぜ……?」


 信彦は結愛の大皿料理を満面の笑みで迎える。だが配膳された料理を見て絶句した。


 それは七色に光るスライムのような物体だ。タマムシの甲殻のように見る角度によって色が変わり、おおよそ料理と思えない見た目をしている。そして不思議なことに大皿の上を這うように動き回っていた。


「結愛……これはなんていう料理だ?」


「クリームシチュー」


「クリーム……シチュー? 炒め物作ってたんじゃないのか?」


 結愛は木ベラで忙しそうにフライパンをかき混ぜていたのでてっきり野菜炒めが出てくるとばかり思っていた。


「味見はしたのか?」


「ううん、してないよ? のぶに最初に食べてほしかったから」


「そ、そうか……。それじゃあ、いただきます」


 信彦は恐る恐る箸で動く七色の物体を摘んで口に運んだ。

 酷い味に吐き出しそうになる。しかし新しい彼女が作ってくれた手料理、無体に扱うわけにはいかず気合いで飲み込んだ。


「か、変わった味だな。でも美味いよ」


「本当!? 嬉しい! たくさん作ったから遠慮せずに食べてね!」


 と、結愛はキッチンからフライパンを持ってきて大皿に中身をぶちまけた。七色の物体がどっさり盛られて、皿を飛び出してテーブルを徘徊する。


(なんで料理が動くんだよ!?)


 地獄を覗き込んだ気分で信彦は青ざめる。


「東京に行ったら、毎日ご飯作ってあげるね!」


「は、はは……。楽しみだなぁ。でも結愛にばっかり負担かけないよう、俺も料理を覚えるぜ」


「本当!? のぶ優しい! 大好き、愛してる!」


 結局結愛の笑顔に負けて信彦は料理を全て平らげた。その結果、彼は三日ほど腹痛に悶え苦しむことになる。


 しかし彼はまだ知らない。その腹の痛みはこれから待ち受ける受難の始まりに過ぎないのだと。


†――――――――――――――†

 信彦と結愛のお話は時々書いていきます!

 金吾抜きで音楽活動を続ける彼がどんな道を辿るのか。


 気になる方は⭐️⭐️⭐️+と❤️で応援お願いします!

†――――――――――――――†

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