第5話 「目、覚めた?」
目が覚めると、そこは見慣れた天井があった。というか俺の部屋だ。
頭の中でドラムを連打するようなひどい頭痛。吐き気と倦怠感も合わさ流。
これは二日酔いだ。未成年のくせにすっかり酒の味を覚え、時々深酒するのでこの不快感も覚えている。
だがなぜこんなに酔ったのか記憶がない。
昨日俺は何をした?
なぜこんなになるまで飲んだ?
今日は何月何日だ?
「うぅ……頭痛い。み、水……」
色んな疑問が脳裏を
「はい、お水」
「ありがとう」
むくっと起き上がった俺に差し出される天然水のペットボトル。開栓して中身を流し込む。
「ぷはぁ、生き返った! サンキュー」
「どういたしまして。目、覚めた」
「おかげさまで。……えーっと、君は誰?」
寝ぼけ眼に映る女の子を見て俺はボケッとした口調で尋ねた。
知らない女の子が部屋にいる。
クリーム色のニットを着た、黒い長い髪をした女の子がベッドの脇に正座して俺を見上げていた。
うーん、誰だっけ、この人。見覚えあるんだけど名前が分かんないや。
そんな奇特な状況にも関わらず、俺は落ち着いている。頭痛と気持ち悪さでイマイチ危機感が湧かないせいでもあるが、彼女が悪い人じゃないと直感したためだ。
「えぇー、空李だよ! ほら、昨日の公園で……」
「あり、アリ、空李……。あぁ、空李さんか!」
思い出した。昨夜、城址公園で知り合った俺のファンの女の子だ。確かギターの弾き語りをしてあげたらすごく喜んでくれたっけ?
「思い出してくれた?」
「思い出しました。思い出したけど……何で俺の部屋に?」
弾き語りをしたら人が集まっていい気分になったとこまで覚えてる。だがその後どうやって帰ってきたかは謎だ。
「金吾ったら公園でお酒を一気に飲んで倒れちゃったのよ」
「マジですか?」
「それで救急車呼ぼうとしたけど、突然起き上がって、かと思えばお水飲んで一人で歩いて帰るって言い出したの」
たくましいな、俺。
「でも千鳥足になってたから私心配で、家まで付き添ったの」
「そ、それはご迷惑をおかけしました」
恥ずかしい。ファンの女の子の前で一気飲みして倒れるなんて、ダメなやつ全開だ。
俺はベッドの上で土下座してお詫びとお礼を述べた。
「迷惑なんてことないよ。私がお節介焼いて勝手についてきたんだもん。むしろ勝手に家までついていくようなことして金吾こそ迷惑じゃない?」
「そんなことないよ! 空李さんが付き添ってくれなかったらきっと帰ってこられなかった。お酒追加して今度こそ死ぬか、でなきゃトラックボーイになって異世界転生してたかも」
「い、異世界? なんのこと?」
空李さんが苦笑した。
そんな顔にもなるよね。
我ながら意味不明なことを言っている自覚あるし。
「それで一晩中介抱してくださったんですか?」
「うん、金吾に元気になってほしかったから」
「そうでしたか。率先してお世話してくださるなんて、空李さんはお優しいですね」
いくらファンとはいえ、ステージの下の俺は見ず知らずの他人なはず。そんな俺を心配して面倒見てくれるのは彼女の根っこの部分が優しいためだろう。
でも男の家に娘さんが上がり込むのは危ないなぁ。
ちょっと変わった子なのかな?
と思った。だが、
「率先してだなんて……。金吾にあんなふうに頼まれたら断れないよ……」
「あんなふう?」
空李さんはぽーっと頬を真っ赤に染め、視線を逸らしておずおず答えた。
俺が介抱を頼んだのか?
「『今夜は一人になりたくない。君のぬくもりで僕を温めてほしい』って……」
「俺そんな恥ずかしいこと言ったんですか!?」
おい、昨夜の俺! 何ファンの女の子に甘えてんだよ!
「その後の金吾、すごく優しかったよ。『君の髪は夜の空、瞳はミルキーウェイ。都会の空でも天の川は見られるんだね』って……。まるで歌ってくれてるみたいで私キュンキュンしちゃった……」
おうおう、昨夜の俺! 何スカしてんだYO!
ファンの女の子連れ込んで普通に口説いてんじゃねぇYO!
つーかそのリリック、ダサいよ!?
「忘れてください!」
恥ずか死できる!
「えへへー。無理だよー。私、金吾の書いた歌詞全部覚えるくらい好きだもん。忘れられないよ」
空李さんはモジモジ
俺は別の意味でも頭が痛くなり、穴があったら入りたい気分だ。
まさかバンドクビになったその夜に黒歴史作るとは……。
俺、ダサすぎる……。
†――――――――――――――†
朝チュン展開とは少し違いますが、
別の意味で黒歴史を作った金吾でした!
メインヒロインの空李ちゃんの優しさと
推しへの愛情が滲み出るエピソードでした。
彼女とはこれからどんどん仲良くなっていきます!
†――――――――――――――†
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