第9話 問題

明け方、屋敷のものが全員集められて俺が当主になったことを告知した。


特に驚きもなくすんなりと引き継ぎが進められている。


父が死んでから事務が滞っていたので父の執務室には紙が積まれていた。

緊急性の高いものはないようだがとにかく量が多い。


役に立ちそうな父の側近は父の死とともに死んでしまった。

そういう魔法もあるらしい。


イシェルにも手伝ってもらい、取り敢えずは似たような問題ごとに分けた。

そうすると問題が明確になり速く処理しやすい。


その大部分は情勢に関することが多いな。

今、フロー王国では内乱の気配が漂っているからその影響だろう。他には経済的な問題も数か所出ている。


「なんで中央で利益が出てるんだ?」


あそこには商店も出していないはずだが、基本出費しか起きないはずだぞ?


「それが、向こうの屋敷にいる使用人たちがクリフォト領の特産品を加工したものを売っているらしく……。」

「嬉しい誤算というやつだな。でもなんでそんなことに?」


「やることがなくて暇すぎたためだそうです。」

「仕方がないし、結局利益が出てるなら良いが一言声をかけるように伝えておけ。」


「承知いたしました。」

「それでこれは?」


不機嫌そうにナハトがイシェルに封筒を渡した。


「イシェル。冒険者協会からの報告でスタンピードの前兆の可能性があるらしい。現状この街にはA級が不足しており、スタンピードが起こった際守りきれるかわからないらしいが、原因は?」


少し戸惑った顔を見せながらイシェルが答えた。


「実は我が領のA級冒険者の数は他領と変わりません。しかし我が領は魔物の量や質が他領より圧倒的に高く、常にA級冒険者は必要とされておるためスタンピードが起こったとき冒険者教会内に待機しているA級が少ないからと考えられます。」


「一般的にスタンピードを止めるのにはA級が10人ほど。しかしこの領地であればA級は20人は必要でしょうな。A級に近いB級であっても殆どが出払っており、5人しか居ません。A級に至っては3人です。」


「面倒な。しょうがない、レオンも連れて行くぞ。今から戦争を行うのに自領に爆弾を抱えていては勝てん。」


「すぐさま冒険者協会に連絡を入れます。」

「今日、すぐに終わらせる。A級とA級に近いB級にも招集をかけさせよう。」


スタンピードというものは魔物の巣穴から一斉に魔物が解き放たれ街に向かって襲いかかる現象であり、その対処法はスタンピードが起こる前に巣穴を破壊してしまうことだ。


巣穴は分かりやすく言うとダンジョンだ。

ほらゲーム独特の言い回しだよ。


しっかし、なんでこんなことを放置しておくかねぇ。俺たちが行ったほうが効率的に終わらせることができるだけで、別に俺は行きたいわけではないぞ。


昼頃になっていたので昼食を食べていると冒険者協会から準備が整ったとの知らせが届いた。


すぐさまレオンを呼び出し、出発する。

今回、俺たちが領主御一行とバレてもいいことがないのでA級として身分を偽ることにした。


屋敷の裏口から出ていく。

冒険者協会というものは普通層にあり、魔物と呼ばれるこの世界特有の生物や地球にも居たような生物などを討伐する冒険者を纏めて運営する組織である。


その権力は大国であっても無視できないほど大きい。

魔物や冒険者の強さを表す基準はG〜S+まであり、一般的にパーティーで魔物を倒したらその魔物のランクのひとつ下になる。例Aランクを倒せたらA-。個人で倒すことができたらその魔物のランクと一緒である。


ちなみに一般人が倒せるラインはEランクである。

魔物の質も領によって違うためクリフォトのA級冒険者はS級冒険者と同レベルに扱われることもある。それこそクリフォト領のS級などは人外の領域に踏み込んでいると言われるほどだ。


余談だが一応S級以上も存在している。


《超越者》


とも言われ、全世界にある冒険者協会内でも10人いるかどうかの人物だ。

基本超越者は国に属しているため露見している人数が少ないというものもある。


そして俺の実力だがクリフォト領のA+といったところだろう。イシェルやレオンも同じようなレベルのはずだ。


そんなことを考えると冒険者協会が見えてきた。

これまた裏口から入っていった。


応接間に案内されると、そこには完全武装のA級、B級パーティーが揃っていた。


「こちらが今回領主から派遣された冒険者だ。クリフォト領換算でA+の実力がある。」


ギルドマスターが軽く自己紹介をしてくれた。


「よろしく頼みます。」

「こちらこそ。」


挨拶が終わると早速イシェルが今回の段取りを説明し始めた。


「今回我々が破壊する巣は【放浪の幽霊船】で、場所は特定されています。だいぶ魔物の数が多いので領主様から大量の物資が配られているとのことです」


「太っ腹だな。」

「それだけ大変だということだろう。」


「まずA級の3人と私達は深淵部を壊しに行きます。B級の皆さんは私達が広げていく穴を確保していって欲しいです。帰還スクロールもありますので積極的に行きましょう。」


「了解だ。」


イシェルがB級に物資を配っている間にこちらはA級の3人と顔合わせを行う。


「じゃあ俺から。【爆炎】のシーフを務めるギルだ。よろしく。」

「同じく【爆炎】タンクを務めるガウルだ。」

「【爆炎】の魔法アタッカーでリーダーのコリンナよ。よろしく。」


非常にバランスの取れた良いパーティーだ。


「【爆炎】というのはコリンナ殿が?」

「えぇ。文字通り爆炎が出るわ。威力が同じ炎の攻撃よりも高いのよ【爆炎】って名前はまだ仮だけどね。」


「なるほど。」

「ハイム。自己紹介がまだだ」


忘れるところだったな


「ああ。近接アタッカー兼タンクのハイムだ。主に大剣を扱う。」

「同じく近接アタッカーのレオンだ。武器は主に槍だな。」

「あそこにいるのはイシェルっていう。回復などの魔法補助を得意としている。」


イシェルを指さしながら説明した。


「シーフなどの索敵系は入れていないのか?困ると思うが。」


「特に困ってはいないな。索敵を必要としない任務しか依頼が来ないからな」

「なるほど」


「今回の巣穴だが規模がでかすぎるため早めにコアを潰したい。シーフには頑張ってもらう。」


「ハハ」


頼りなさそうにギルが笑う。


「その他【幽霊船ゴーストシップ】で必要なもの、役立つものがあったら言ってくれ、すぐに手配できるものだったら俺の方から領主様に伝えておく。」


「それはありがたい。では、火薬もしくは発火剤がほしいと言っておいてくれ。」

「了解だ。」


もうすでに準備は終わっているため、その巣穴の場所まで馬車で行くことになった。

急いでイシェルは火薬の手配をしている。何とかその場所につくまでには間に合いそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る