第8話 思惑
再び目を開けるともう夕方になっていた。
また襲われるなんてことはなく、イシェルが紅茶を用意していた。
「会議は?」
「もう暫く掛かるようです。軽く軽食を取られては?今日、食べられていないでしょう?」
「そうだな…頂こう。」
すでにベランダの机に載せられている料理を見ながら俺は腰掛けた。
イシェルが入れてくれたお茶は上品でまろやかな味がするな
ベランダからはクリフォト領の町並みを見ることができる。
とてもわかり易い町並みだ。
綺麗に富裕層、普通層、貧困層と別れている。
普通層の中には商業区、工業区と住宅区がある。記憶の中にある他領も同じような感じだ。
実は層は綺麗に別れているように見えて行き交いは自由であるため優れた人材を見つけるのも楽だ。
懇意の商人に聞くだけで情報が入ってくる。
他領の中には規制しているところもあるが効率的な面で見ればこちらのほうがいいだろう。
パンなどの軽食を食べ終わったあと寛いでいると、会議の準備ができたとの知らせが入ってきた。
すぐに当主の服装に着替えて会議室に向かう。
奴らになんの思惑があったのか分からないが、こうなってしまった以上俺が当主を務めさせてもらうぞ。
途中でレオンを護衛として付ける。
何らかの形で議会内で戦った場合、現役で戦い続けている当主たち相手に勝てるかどうかわからないので、万全を期すために元公爵をそばにつけておく。
会議室の扉が開くと会議室に各家の当主が座っていた。
当たり前の話ではあるが流石はクリフォト派閥に属する貴族たちである。目に見える魔力量だけでも他領の貴族とは別格だ。
レオンもあまりの圧に驚いているな。
イシェルは耐性があるのか通常通りに動いて、俺のために席を動かしてくれた。
しかし、俺が当主の服を着て当主の席に着いたのを見ても眉を上げるだけか……。
額から汗が静かに流れ落ちる。
「ナハト様。此度の招集、こちらとしては情報が掴めていないのですが……。」
最初に聞いてきたのは侯爵家の当主であった。
「情報が掴めていない?」
「警備体制により配下が出入りできなくなっています。」
イシェルが耳打ちしてきた。
「ふむ。では手短に話すぞ。 私が水中庭園でメイドによって暗殺を試みられ、様態が回復した直後に精神攻撃を受けた弟、クリフォト・ヘルムによって暗殺未遂が起こった。」
「「は?」」
「だから、私が水上庭園でメイドによって暗殺されかけた挙げ句、弟に殺されかけたのだ。」
「それは分かったのですが。」
全員が困惑の表情を浮かべている。
ん?これ、当主が黒幕ではなく全く関係ない組織の仕業だったりするのか?
「計画したのはお前たちではないのか?」
重圧が弟を支援していた貴族に襲いかかる。
「いや、違います。」
「確かに我々は嫌がらせを行いましたが、あれはあくまで演技です。弟様ひいてはご当主様を傷つける命令は出していません。」
「演技だと?」
俺が言うと今度は辺境伯が口を挟んできた。
「はい。実は弟様の特徴上、ナハト様をご当主に添えることは決められておりました。今までの嫌がらせはあくまでナハト様の人柄、手腕を探るものです。試すような真似をしてしまい、大変申し訳ございませんでした。」
「「申し訳ございませんでした。」」
一斉に各当主が頭を下げた。
確かに、嫌がらせはされたが改めて見ると入念に準備されていた感じがするな。我が領にとって限りなく負担は少なかった。
「そういうことなら構わん。だが、世間に見える形で後継者争いはしていたのだからけじめは取らなければならない。」
「分かりました。」
「ゲーテ侯爵、エクマン伯爵。当主の座を後継者に渡し、これからは個人としてクリフォト公爵家のために動け。」
「ッハ」
不敵な笑みを浮かべながら二人はうなずいた。
こうなることも予想していたのだろう。
正直、二人を当主という場所につかせるのには勿体ない。
本来、この二人は当主となる予定ではなかったのだ。記憶があっていれば身内の急死によって必然的に当主になったのであって、そこまで人を動かすのは得意ではなかったはずだ。
原作においてもナハトが破れ、その敵討ちに来たこの二人(ゲーム内表記では家臣となっていた)に悩まされたプレイヤーも多いだろう。
「ナハト様。でしたらその暗殺者や弟様をった者はどこの人間でしょうか?」
「イシェルが逆探知した話によれば、最近力を付けてきている小国らしい。」
「そうですか……。」
「私はこの小国を潰し、傀儡国にし、イシェル公爵家の当主になった手土産を国王陛下に捧げたいと思う。」
「ハッ」
「根回しは頼んだ。」
その後は、各領地の状況や他国の情勢を報告する会となり会議が終了した頃には夜が明けていた。
「では頼みました。」
「お任せくだされ。」
計画通りに動いてくることを誓い、当主は帰っていった。
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