第7話 豹変

「何らかの魔法操作を受けているな。」


そう、ナハトが呟くと同時に弟は腰に下げていた片手剣を持ち、ナハトに迫る。


ナハトも両手剣を召喚し、斬撃を弾きながら後方に飛んだ。

続けて複数の部屋にある物体がナハトに向かって飛翔する。


損傷しないように、それらは避けて対応した。


騒ぎを聞きつけて部屋で待機していたイシェルも慌てて入ってきたがそれをナハトは手で制す。


「弟が精神操作、もしくは完全に操られている可能性がある。俺が抑えている間にお前は術師を見つけろ」

「了解です。」


すぐさまイシェルは魔法陣を呼び起こし解析状態に入る。

主の心配はしない、主の強さを一番に知っているのは自分自身だと自負しているからである。


それを気にもとめずに部屋内では剣戟が交わされていた。

弟の剣を弾くその顔は表情一つ動かない。


しかし、心は大いに揺れ動いていた。

何せ訳がわからないのだ、転生したタイミングが悪すぎる気がする。


いや、弟を殺す必要がないならちょうどいいタイミングなのかもしれんが……。

そう考えながらなるべく早く終わらせるため大技を放つ。


刃鳴狼穿じんめいろうが


質量を持った空気の塊が部屋の中を貫く。

常人ならば抵抗することすら難しく、塵に消えるが……。


空覇断巖くうはだんがい


流石はナハトの弟、そんな物はなんなりと相殺された。

範囲こそ少ないがこちらよりエネルギー消費が少なく威力が全く同じ魔法だ。


「甘い」


しかし、その守りは読んでいた。

そして、このタイミングであの技が出ないことから。操っている相手が弟の持つ切り札を使えないこともここで確信する。


俺と弟では保有魔力量に差がある。なのでなるべく魔力を抑える動きをするだろうという読みで、予め仕込んでいた魔法を発動させる。


妖縛陣ようばくじん


先程の攻撃により残った魔力を喰い成長しながら具体化した怨霊が纏わりつく。


「アガヴァヵキァ」


弟はそう呟くと、怨霊が体に届く前にこちらに突進する。

この技の対抗方法としては正解だろう。


虚影千斬きょえいせんざん


虚数入り交じる千の剣戟がナハトを襲った。


隠形を得意としている弟らしい技でこちらを仕留めにかかった。

なるほど、もしも転生してなかったらナハトとしても弟を切り落とすしか選択肢がなかっただろうな。


だが、原作においてその技の解析は終了している。


実はこの技、一本だけ形の違う剣が紛れている。


だがそれはブラフ。それを処理しようとすると後ろから本命の攻撃が来る。その本命以外の攻撃は対して厄介ではない。

よってこの場合は多少のダメージ覚悟で、見えた剣とは逆の方向に防御を集中させるのが正解だ。


「!?」


攻撃が防がれて狼狽える弟であったが、追いついた怨霊の処理を思い出して急いで対抗する。


「ナハト様、解析が完了しました。弟様は一種の錯乱状態に掛かっているようです。それと……」


その間にイシェルが解析に成功する。常人ならば一日はかかる解析をこの数分の間で終わらせるのだから、このイシェルもまたナハトと同じ化け物の類に入るのであろう。


「なら、もういいか。」


そう言うとナハトは弟にすぐさま肉薄すると、手を胸に当てて魔力を流し込んだ。


精神回復メンタルヒール


ナハトが唱えると弟が崩れ落ちる。

その体を優しく抱え上げながらナハトは投げられたイシェルの報告を聞いた。


「隣国だと?一体何を考えているのだ。それにあの動き、錯乱状態には見えないが?」

「恐らくナハト様を敵とするように簡単な暗示も掛けられているのでしょう。」

「……なるほど、それなら納得もつくがどのタイミングだ?」

「分かりませんな。ですが、タイミングなどいくらでも合ったでしょう。それに、紛れ込んでいたあの暗殺者が関わっていた可能性も……。」


ナハトはしばらく考えたあとイシェルに命令を下した。


「イシェル。緊急でクリフォト家配下の会議を手配しろ。時間は今夜。来ないとは言わせるな。」

「了解しました。」


イシェルがその場から立ち去る。


俺は弟を魔導医師に預けると部屋を魔法で元に戻しベットに寝転んだ。

転生して色々起きすぎだな、とんでもないタイミングで転生したようだ。


たかだか派閥争いで他の国を巻き込むなんてことをする馬鹿が居なければいいのだが……。

転生する前にも派閥争いによる牽制は行われており、嫌がらせも受けていたが流石に直接危害を加えてくることはなかったぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る