第5話 王族

中にいるのは王族の二人である。

レオンは二人の顔を見て絶句した。


「これは?」


恐る恐るレオンが聞いてきた。


「王族だ。」

「見間違いではないと……。」


呻きながらレオンが頭を抱える。


「コイツラの処分をどうすればいいのか悩んでいてな。最善策はこいつらを完全に仕込んでから、王にしてしまうことで、この領地だけが抱える属国にすることができるのだが。」

「そう上手くは行かないだろ。それよりなんで王族が奴隷になったんだよ。」

「それについては私からご説明を」


それまで黙っていたイシェルが教えてくれた。


「この二人の国は御存知の通り小国なのですが、周りの小国の小競り合いに巻き込まれました。最初の戦場の近くを訪れていた二人はそれに巻き込まれ奴隷として捕縛されました。それを買い取ったあの商人はあとから王族だということを知ってしまい、悩んでいたそうです。」


「手配書は出さなかったのか?」


レオンが聞くが呆れたようにナハトが返した。


「出せるわけがあるまい。この国に俺の国は交流があったがその時ですら情勢が危なかったぞ。」

「他に後継者は?」

「居ません。」


これは好都合。なんともまぁこんな都合の良い王族がいたものだ。

ナハトは先程の茶番を思い出し、心のなかで笑った。


「イシェル。教育はこいつらを最優先にしろ。」

「了解です。」


姉が14、弟が12。対して年齢も変わらんな。

そう思いながら見ていると、弟が目を覚ました。

見たことがない人物が現れたのに驚いたのだろう、警戒しながら姉を急いで起こした。

ついで起きた姉もこちらを見ると露骨に警戒を寄せる。


「誰だ。」

「フロー王国クリフォト公爵家嫡子。現在、代理当主をしているものだ。」


公爵家のタイミングで顔をしかめたな、小国の王族と公爵家がほぼ同格であることは知っているのだろう。基本の教育はできているのか。


「イシェル。これはからは二人の部屋を離せ、そちらのほうが楽だろ。」

「そうですね。」


二人いる状態での会話は不要とし、姉弟を分ける。

先に姉から尋問を開始した。


「私に何をする気なの?」


心配した声色で姉が聞いてきた。


「今のお前には何も求めてないな。」


そうなのである。弟のほうが圧倒的に利用価値が高くこいつはそれを利用するためだけの駒でしかない。


だからこそなんの心配もなく拷問や実験をすることができるのだが……。

目的は弟に姉のところに先に行くことを見せるだけだったのだ。

弟のところに行くと血相を変えて怒鳴ってきた。


「貴様。姉上に何したッ」


今にも掴みかかりそうな形相で怒鳴った。

このまま勘違いさせたほうがいいだろう。


「ッハ。利用価値が少ない女のところに行く理由など一つしかないだろ。それよりもお前は私に感謝すべきだと思うが。」


不遜な態度を貫くと簡単に連れた。


「貴様ァ。何が感謝だ。」

「私がお気に入りにしなければ、お前の姉は拷問を受けるはずだったぞ。口の聞き方には気をつけろ。」


「クソッ。」


俺が何もしてないと分かっているレオンとイシェルは苦笑いを浮かべている。


「お前は俺に尽くせ。さもなければ、分かっているな。」


そう言って俺は出ていった。

薄暗いライトしかない部屋の中に一人残された弟は懺悔する。


「申し訳ございません。父上、母上。私のせいで属国となってしまいます。」


それが監視されているとも知らずに。


「賢王の資質はあったな。」


そうナハトは呟いて、部下に幻覚による躾の手はずを整えさせた。

王国に帰らせたときに外傷が残らないので楽なのである。

時たま、精神が狂うことがあるのが難点でもあるが……。

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