第4話 公爵

屋敷に帰り、クリフォトは会議の準備を始めた。

自室の一角の本棚に向かって呪文を唱える。


【来たれ】


一冊の本が本棚から飛び出すと、一斉に他の本が配置を変えて動き始め、隠し扉が現れた。


クリフォトが通り、その後にイシェルが続く。

通り終わるとともにクリフォトが本を投げ捨てると、たちまち本は元の場所に戻り始め、来たときと変わらない本棚になった。


ゆっくりと地下へと進む階段を進みながらイシェルが報告を始めた。


「現状のクリフォト家ですが、私の父上、つまり辺境伯と子爵、男爵家が貴方様を支援、侯爵家と伯爵家が弟様を支援されている形でございます。」


「きれいな形になったな。どちらが付いても領内は荒れてしまうではないか。」

「弟様は貴方様をたいへん慕っている様子でしたがね。」

「そうだな。」


原作において、弟は私の暗殺を試みて失敗、クリフォト・ナハト自身によって処罰された。という記録が残っているが何があったんだろうか。


どうしても、あの弟が暗殺を企てるようには思えないのだが。


「クリフォト様、着きました。」


到着したのは周りと同じ材質の壁で囲まれた部屋である。


ここに俺自身の魔力を流し込むことでエレベーターのように部屋が上がっていき、目的の部屋に到着する。長男のみに与えられた特権であり、魔力の流す場所を変えることで他の部屋に行くことも可能である。


この部屋はクリフォト家が抱える闇の部分と言われる実験を行っている場所であり、先程買った敵国の貴族が普通の奴隷よりは立派な部屋に座らされている。


威圧のため、普段抑えている魔力を開放する。これは選別であり、これに耐えうるだけの魔力や精神を持っているか確認するのだ。


殆どの貴族は絶望したり、失神しているが何名か耐えている者もいる。魔力によって耐えたのが8人、精神で5人といったところか。その殆どが子供というのは皮肉だがな。いや、親は殺されることのほうが多いから子供が多くなるのは必然か。


配下の者に指示して、13人以外の奴隷を別の部屋に移していく。


「ようこそクリフォト家へ、歓迎しよう。」


邪悪な笑顔を浮かべて両手を広げる。

悔しげに顔が歪むが、それもまたこの場面に適した表情と言えるだろう。

ひとまず個室に部屋を変える。


飴と鞭は使い分けなければいけない、これくらいはしてやらなければ、これから耐えられないだろう。


「公爵1の侯爵4伯爵3、子爵、男爵がそれぞれ2づつで騎士爵が1か。この中で兄弟がいるものは?」

「侯爵家の2人は忌子である双子でございます。たしか、伯爵2人と子爵には突破できなかった奴隷として兄弟、姉妹がいるはずです。」


「わかった。関係性を調べれば自然とその3人は操ることができるな。」

「ッハ。」


頭を下げて教育係は去っていった。

取り敢えず最初に始めるのは魔力が多く、俺を前にしても臆さなかった公爵家だろう。

20代後半のその男は拷問を受けても態度を変えずに一言も喋ってなかったという。


「まだ若いな。20にもなっていないだろう。」


俺が入ってくると落ち着いた表情で公爵が言った。


「なぜお前のような者が戦場にいたのだ。公爵家が早々にやられるわけがないだろ。」

「他の貴族と一緒に殿を任された。最後に裏切られてこのザマだ。」


力なく男は座り込んだ。背後に刻まれたその傷跡は味方からの魔法だという。


「やったのは同じ公爵家。信じたくないが、魔法のあとから考察するに親友だと思っていた男だ。」


しばしの沈黙の後、また公爵が口を開いた。


「俺の体にどんな実験を課してもいい。子どもたちにやるのはやめてくれないか?」


「無理だ。成長が終わり、すでに完成されている貴様の体など興味はない。だが、子どもたちは成長段階であり、いくらでも改造することができるのだ。」


「そうか……。そうだな。」


「まぁ、他の願いなら叶えてやってもいい。お前は復讐がしたいか?」


男は戸惑ったように俺を見上げ、その後に立ち上がった。


「あぁ、勿論だ。」

「ならば、復讐の機会を作ってやろう。その代わりに俺に力を貸せ。」

「分かった。クリフォト家のために力を尽くすことを誓おう。」


おそらく、俺が直接言葉を交わすのはこいつだけだろう。

公爵家であり、それなりに武力を持っているため奴隷化程度では本来の力が出せない可能性がある。


将来的にこいつだけは奴隷化を外すつもりだ。個人として 騎士爵の女性や、昔、神童と言われていた侯爵家の嫡子も見たかったが機会はなさそうだ。

鎖を外して、公爵を起こす。


「名前は?」

「レオンだ。」

「ふむ。ならばレオンこっちに来てくれないか、相談がある。」


そう言うと俺は奴隷部屋にしてはやけに立派な部屋に案内した。

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