第3話
ふたりは話していくうちにすぐに仲良くなりました。お互いの食材の食べ方、習性、故郷のこと……。
どうやらタチウオにも、ここまで飛び出してきた事情があるようです。
「海って、なんていうか、どこまでも似たような色だし、似たような砂が広がってるからさ。陸みたいに大きな山とか、崖とか、草の生い茂る平野が広がってるのが珍しくてさ。よく里を飛び出してくるんだ」
二人とも、よく似ています。
ヒバリは新芽が生え、緑が生い茂り、木々が染まり、そして雪が積もるという山の光景を口にしました。タチウオは、海には様々な色に輝く「サンゴ」という木々があることや海を彩る様々な草があることを実際にとって見せてくれました。その後もあちこち回って、貝を食べてみたり、おいしい果物を食べたりしてあちらこちらを駆け回っていました。そうして初めにいた海岸に戻ってきた頃には、すっかり日は暮れていました。
二人は疲れきって、浜辺の木に寄り添いあって眠ってしまいました。
次に目が覚めたのは、朝日が昇ってきたときでした。ヒバリの羽は、タチウオの鱗に触れて少し湿っていました。飛べないほどではありませんでしたが。
さて、完全に海で一日過ごしたヒバリさん。
「そろそろ帰らないと。お母さんに怒られちゃうし」
するとタチウオはある提案をしました。
「じゃあふもとまで送ってくよ」
「え?」
そういってヒバリをすくいあげる格好で背中におぶります。こうやって背負われると、大きなお父さんと小さな娘のようにも見えます。
「しっかりつかまって」
皮にはいったあと、アジを捕まえたときの要領で加速していきます。違うのはヒバリに水がかからないように、顔をあげ、背中を浮かせ、足を使っていることです。
彼、できる男です。
背に人を乗せてなおヒバリが空を飛ぶより早い速度で泳ぐというのは、それだけの脚力とスタミナがあるということですから。
そのすごさはヒバリが一番実感していました。
「かっこいい……」
思わず呟いた言葉は耳に届いていたかどうか。ヒバリは、確かに胸の高鳴りを感じていました。
これが何を意味するのか、ヒバリは漠然と理解していました。
やがて山のふもとまでやってきました。
太陽は、少し傾き始めた程度でまだ昼です。本当に、全力で飛ばしてきたのです。
「スピード落とせる? そろそろふもとだから」
すると遠くから影が見えます。
シジュウカラです。体には包帯がグルグル巻きにはなっていましたが、それでも一目散にヒバリの方へ向かってきました。
タチウオはヒバリの指示通り、一回泳ぐのをやめ、近くの岸にあがります。
「ヒバリ!」
シジュウカラは必死な声です。昨日も、村にも帰ってこなくて余計に焦ったのでしょう。
「久しぶりー」
ヒバリは随分呑気な声です。タチウオと過ごした一日は楽しかったのでしょう。
「大変だったんだぞ! ……でも、無事でよかった」
その後ヒバリは、全力で蹴ってしまったことを謝りました。その後、タチウオと出会ったことをかいつまんで説明しました。
「……で、後ろにいるっていうのがその、『魚人』? ってやつか?」
「タチウオです」
「どーも」
シジュウカラはそれ以上特に会話をしませんでした。少しふてくされているようにも見えます。
そして、そういうのに気づかないわけがないヒバリです。
「どうしたの?」
「なんでもない」
「絶対機嫌悪いじゃん」
「悪くない」
「ねーねー」
「そろそろ帰るから、アイツと話してくれば」
シジュウカラは不機嫌な理由に思い当たらない様子のヒバリはそのままタチウオに駆け寄りました。
「二日間ありがとね」
「こちらこそ」
「……その、楽しかったよ」
「うん。その、やっぱり……、うん、飛んでる姿はかっこよかった」
「えっ! あっ、うん!」
なんだかとてもたどたどしいやり取りを繰り広げています。
見ている方が恥ずかしいです。
さて、そのまま黙り込んでしまった二人。そこにシジュウカラから助け船が入りました。
「わかんねぇけど……、二人ともなんか言いたいことあるんじゃねぇの?」
ため息でもつきたそうな顔です。というかついてます。
ハァ、なんで俺がこんなこと言わなきゃいけないんだか……。
そんなところでしょうか。
さて、それでもちゃんと言うことは言うヒバリです。
「ねえ、また会わない?」
「うん、そうだね。今度は僕がこっちまで来るよ」
「えっでも……」
「君が飛んで来るよりも、僕が泳いできた方が早いから」
「うん……、またっ、会おうねっ……」
あらあら、泣き出してしまったヒバリさん。
そうして、どちらからともなくお互いに抱きあいましたとさ。
鳥人と魚人の恋は、ここから始まります。
空の小鳥、海の大魚 紺狐 @kobinata_kon
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