第4話

私はアリサの手からスマホを無理やり取った。パスワードを入力して、さっき見せられたメッセージアプリを開く。


”放っておいて”


そう入力して、メッセージアプリに登録されていたアリサの親の情報を全部消した。電話も着信拒否にして、とどめにスマホの電源も切った。


「……っ……ごっごめんアリサっ……私っ……」


アリサにスマホを返した瞬間、私は自分を取り戻した。私……勝手に操作しちゃった……


「い、いやびっくりしただけー……えっ!?」


私から帰ってきたスマホを触ったアリサは驚いた。


「リン……私の実家の連絡先、全部消しちゃったの!? なんかブロックの設定もされてるし……」


目を見開いて私を見るアリサに、私はどす黒い後悔に飲まれ始めた。

でもそんなつまらない感情は、愛で打ち消せば良いんだ。

もう、戻れない


「アリサ」

「リン?」

「アリサは、私がいれば充分だもんね?」


私の本心、心の奥底にあった本音をそのままぶつけた。アリサは少しうつむいて黙った後、私を見つめて首を縦に振った


「……うん。私には、リンがいれば良いよ」


アリサは頬を染めて、スマホをポケットに仕舞いこんだ。テーブルの下で絡み合う足が、熱を帯びていく。


「やっぱり私にはリンがいないとダメみたい。仕事しかできない私のためにご飯を作ってくれたり家事をしてくれたり……私、ちゃんと分かってなかった……っ……」


目の端に涙を浮かべて、アリサは笑って私を見つめてきた。


「ありがとうリン。色々削除してくれて、リンがいてくれなかったら私はきっと、こんな風に思い切ることはできなかったよ」


ガタッと椅子を蹴るように立ち上がる。そしてアリサの方に向かっていく。アリサもゆっくり立ち上がったあと、私の背中に両手を回してきた。


「リンっ……リンっ……」

「大丈夫だよ。私はそばにいるから……」

「どこにも行かないでよっ? リンがいないと私っ……」

「分かってるっ……アリサこそ、私のそばからいなくならないでね……?」


もちろん。と私は言って涙声になっているアリサを強く抱きしめた。

私だって、自分のスマホには親の電話番号もアドレスも、メッセージアプリの登録情報もとっくに全部消してある。

もう戻れないのは私も同じだよ。でも私にはアリサがいるんだから、何も気にする必要なんかない。


「私はアリサのためにご飯を作ってるんだから。絶対にいなくならないよ」

「私だって、リンのために仕事をしているんだから。もう、絶対に誰のところにも行かないからっ」

「……っ……あははははっ!」

「……っ……ふふふふっ!」


二人で抱き合ったまま笑いあう。この子に出会えて、恋人同士になって本当に良かった。私はこの子との出会いと恋人同士になったことを、死ぬまで後悔することはないよ。



しばらく抱き合った後。私は自分の胸に手を当てて、胸とお腹の奥で暴れている切なさを感じていた。アリサがこんなに苦しんだのは、絶対に私がしっかりしていないからなんだ。

私はもっとしっかりしなきゃ。でないと、アリサはもっと苦しむことになる。

テーブルの下で足を絡め合いながら、私たちは黙って残ったご飯を食べていた。


「リン」

「何?」

「オムライス。また作ってね」

「うんっ」

「オムライスの他にも、色々と作ってほしい。私のために、たくさん作ってほしいの」

「もちろん。じゃあ……次の日曜日に新しい料理を作るから協力してね? アリサに合う新しい料理を開拓するから」

「うん……大好き」

「私も……大好きっ」

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お互いに依存している百合カップルが戻れなくなるお話 畳アンダーレ @ojiandare

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