第3話

「アリサ」

「っ……うん……」


私の表情の変化を見て察したみたい。アリサの表情が暗くなるのが分かった。


「今日、仕事で何かあったの? 変な客に絡まれた? それともまた上司にいやがらせされたの?」

「いや、そうじゃないんだけどね……」

「何かはあったってことね」


私たちは同時にスプーンを置いた。空気が重い。私はテーブルの下で自分の足を伸ばしてアリサの足を絡めた。アリサも同じことを考えていたのか足を絡めてきた。足を足に乗せ合ってこすり合う。アリサの足はとても冷えていた。


「仕事で嫌なことがあった訳じゃないんだよ。これ……」

「……」


アリサはポケットからスマホを取り出して弄って、私に画面を見せてきた。メッセージアプリだ。


”あんたもいい年なんだから身を固めなさい”


そう書かれていた。


「これ、お母さんからなんだ」

「身を固めるって……アリサのお母さん、アリサを心配しているんだね」

「うん。でも……リンと付き合っているってことは言ってないんだよ。私のお母さん厳しい人だしさ? 女同士なんて絶対反対すると思うんだ」

「そう、なんだ」

「だからお母さんはまだ、私に恋人なんかいないって思ってるんだよ。まあ言っていなんだから当然だろうけどね」


私とアリサは付き合ってそろそろ五年になる。私はともかくアリサは自分の親について話すことはほとんどなかったっけ。口には出さないけど触れられたくないっていうのは顔を見ればすぐに分かった。だから私もアリサの親について聞くことはなかったんだ。

それが今、最悪の形でやってきた。


「リン。メッセはそれだけじゃなくてね」


アリサはまたスマホの画面を見せてきた


”お見合いはいつにする? 良い人見つけてきたの。お金がないなら色々と手伝うから。アリサの好みのタイプなら私は分かってるから安心しなさい”


「なにこれ。全然分かってない……あっ……ごめん」


自分の経験したことのない怒りに思わず声に出てしまった。アリサ、怒ってないかな。私を突き放したりしないかな……


「大丈夫。私はリンが好きだから」

「私もっアリサが好き……」


アリサは真剣な目で私を見つめてきた。きゅううう……と切なくなる。でも、その切なさはスマホの画面によってすぐに他の感情たちに塗りつぶされた。


(アリサに他の人が……? 私からアリサが離れていっちゃう……!? もしアリサがいなかったら私は……っっっ!)


いや、嫌、イヤ!!!


「リ、リンっ!?」

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