504話 更に苦悩するクライスラー

あのヘンリー・フォードに投資してフォード自動車の躍進に協力した投資家こそ、ダッジモータースのダッジ兄弟でした。

そのダッジ自動車も吸収して業界3位の自動車メーカーを作ろうとしたのがウォルター・クライスラーでした。


この時点で40社ほど存在したアメリカの自動車メーカーですが、1920年代ともなると、その総販売台数の半分をフォードだけで販売するほどになり、クライスラーが生き残るにはマックスウェルとチャーマーズの2社を統合するだけでは厳しかったようです。


ゼネラル・モータースは買収にも積極的だったし、GMに出し抜かれてしまう恐れもありました。


史実ではフォードが、貧しい庶民向けの安価な入門用の車のみを製造してくれたおかげで、ゼネラルモータースや

クライスラーは豊富なバリエーションを売り出して、フォードのモデルTに満足できなくなった人達へ次のマイカーを届ける戦略で大儲けしていたのですが、、、

特にクライスラーは宇垣自動車の悪影響をモロに受ける事になります。


クライスラーを落として、そこに割って入って行ったのが、日本の宇垣自動車の宇垣シリーズの車達でした。


宇垣自動車は値段が高い。

元々の値段を下げない強気な商売を行い、そこに関税が加算されるのだから当然ですが。


だが、圧倒的にデザインが良く、品質が高く、故障せず、塗装が輝かんばかりに綺麗で人目を引く作りになっており、熱狂的に支持する人達を増やしていきました。

それにプレミアムが付いていて中古も高いので、これなら損は無いなとオーナーを満足させました。


マーク1とマーク1リムジンは超高級自動車のオーナー達を魅了しましたし、ミゼットは値段が1000ドルの定価が関税のせいで1570ドルになったというのに売れ行きは良かったです。


モデルTと比べたら、車体が大型な割に大人5人と子ども2人がゆったりと座れて小回りも効いて馬力も出ていたからでした。


トラックモデルも高く評価されており、ピックアップ型トラックモデルの人気を開拓したのはミゼットだと言われるほどでした。

フォードのT型トラックは車体が小さく窮屈だと言われるようになります。


宇垣のマーク1は値段的にも、労働者階級の乗れる車ではないのですが、憧れの車として見られるようになっていきます。


なんせ、関税の高さもあって、宇垣のマーク1は6000ドルを超えた値段です。

郊外の一軒家より高い値段なだけに、

労働者では到底持てない値段です。


ちなみにジョージ・グレンはマーク1リムジンの愛車と一緒にお屋敷をバックに家族写真を撮り、

『俺はスカウトされた日本で元気だ。』とハガキに書いて送ったので、

友人達から凄く嫉妬されたようです。


USスティールの幹部労働者でも高値の花に見られていたのが宇垣マーク1ですから。


グレン一家なら子ども達も優秀な技術者なので株価暴落前のUSスティールなら年収を合わせれば5000ドル以上稼いでるハイクラス。

それなら買えない事はない金額ですが、それも幹部の息子に嫉妬された原因の1つだったりするかもしれません。


人望もあるジョージなら製造現場の最高責任者に選ばれたかもしれません。


取締役会議に参加する現場の最高責任者ともなれば、かなりの発言力を持つ存在です。

平の取締役より上の立場になりかねません。

社長の補佐役の日本でいうなら副社長役に選ばれるかもしれません。


黎明期のUSスティール社には大きな改善を成し遂げた現場の技術者がいたのですが、宇垣にスカウトされて他社に行ってしまいました。


そういう技術者はフォードやGMにも

いたのですが宇垣自動車に雇われています。


USスティール、フォード、ゼネラル・モータースの品質にモロに影響しかねない大失敗が起きているのですが、

ベテラン達が現場を支えている間はそれほど悪い影響は出ないでしょう。

表向きは。


現場の事をしらないエリートの大学出の連中は定年間近の人間を早く辞めさせただけの事だと思っています。

ですが現場の大ベテランだって定年までのタイムスケジュールを考えて現場の仕事を後輩に教えているのです。

自分の代わりに仕事をさせてみて、

色々とやらせながら必要な知識を叩き込もうと思っていたら引き継ぎなしに『定年して』と追い出される。

これじゃあ、前には作れていたものも

どうなるのやら。


求められていた品質以上の鋼鉄を生み出しているのと、検査にギリギリ合格するような品しか作れないのとでは、

鉄の品質としては大違いなんですがねえ。


技術の受け継ぎや引き継ぎは大切なのに、、、


そして尊敬する技術者の大先輩達に何の温情も与えずに『定年を早くするから。』と言って退職させて追い出すUSスティールの人事課に怒りを感じていたベテラン達は再就職先が見つかると同時にUSスティールを離れて行きました。

ええ。技術者を大切にしない人事の愚か者達に対する抗議の辞職です。


1901年にフェデラルスチールとカーネギースチールが合併してアメリカの3分の2の鉄を作っていたとされるUSスティール。

株の時価総額は10億ドルの超巨大企業です。

ですが1911年にはアメリカ国内でのシェアが50%に低下するなど、急激にアメリカ国内でのシェアを低下させています。

社員の士気の事を考えない経営が

行われ続けた結果、アメリカでも首位を陥落して2位に落ちたのでしょう。


宇垣自動車はエンジンオイル交換無料サービスや点検無料サービスをする事で『故障しない宇垣』の評判を獲得します。

『海沿い地方なのにサビない宇垣自動車』とも言われます。


『俺は宇垣しか乗らない。』と言う熱狂的なユーザーを宇垣は獲得しつつあるのをフォードもGMもクライスラーも気がついていません。


そして技術者を大切にする企業に猛烈に追われてUSスティールは市場シェアを奪われます。

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