485話 USスティール
USスティールといえばアメリカを代表する大企業であり、大恐慌の株の値下がりを止める為に高値で買い注文がされた企業でもあります。
それ以前の1907年の時の株の暴落と不況の時にUSスティールの高値買い注文は一定の効果を発揮したと思われていました。
そのUSスティールのフルタイム就業者の人数は1929年には22万4980人もいたのですが、大恐慌になっていくとともに加速をつけて急激に減少していきます。
1930年には21万1055人になのですが、
1931年には5万3619人に。
1932年には1万8938人。
そして1933年4月にはゼロ人になってしまいました。
そして1933年の4月以降にUSスティールの工場を動かしているのは1929年のほぼ半数の11万人のパートタイム労働者になっていました。
USスティールで働き続けてきたベテランの労働者達をフルタイムではなくパートタイム労働者にする事で少しでも大勢の労働者を雇おうとしているとも言えますが、(3万人くらいの雇用を増やしている。)
少しでも文句を言ったらクビを切られかねない弱い立場の労働者として、
フルタイムで働いてきちんとした月給が貰える労働者7〜8万人が安い日給で飼い殺しにされているとも言えます。
給料は時給なので食べるので精一杯です。
20年も30年もアメリカを代表する企業で働いてきた大勢のベテラン労働者のプライドはズタズタになったでしょう。
汗を流さずにデスクに座ってコーヒーを飲んでいるスーツ姿のお偉い様と、
安い金で働かさせられている汚い姿の空腹の労働者に分断されたとも言えます。
大恐慌になる前は誇りを持って、『USスティールの鉄は俺達が作ってる!』
と言えたでしょう。
でも、労働者は全員がパートタイマーにされ、安い給料で飼い殺しにされている今でも、そう言えるでしょうか、、、
1931年なんか15〜16万人もの労働者が
クビにされ、雇用調整されているのです。
USスティールで働いている労働者の全員がパートタイマーなのです。
労働者とスーツ姿のエリート様とは住んでいる世界も違います。
「俺たちは所詮は鉄作り奴隷に過ぎないって事か、、、」と呟きたくもなるでしょう。
一緒に鉄を作っていた仲間達が腹を減らして職を探して歩きまわり、飢えで倒れたりもしているのです。
何万人もの失業者が寒さに震え、
炊き出しの列に並んでいます。
「市民よ!立ち上がれ!!」
と扇動する革命家がいれば革命だって起きたかもしれません。
まるでフランス革命前夜だとセイバー達は思っていました。
こうして生まれた大量の貧しい白人達。
USスティールがこうなるとは驚きです。
軍人に例えるなら、前線で戦い、叩き上げの幹部候補生として現場で育成されていた人達も幹部社員とそれ以下に分けられて、それ以下はパートタイマー社員にさせられたのですから、プライドはズタズタです。
そして11万人のパートタイマー社員は
フルタイム労働者時代よりも30%以上も安くなった金額しか貰えていません。
人生設計は考えられません。
なんせ、もっと不況になれば何千人もが一斉にクビにされるかもしれないのですから。
特に40代、50代のベテラン社員は悲惨です。
天下のUSスティールの工場のベテラン社員として現場の采配を任されて工場を動かしていた人間が職歴や経歴も考慮されずに、『求められているのは若者なんだよね。』なんて言われて、どこの職業紹介所に行っても冷たくされるのですから、、、
彼、ジョージ・グレンもその1人です。
製造するのが、もっとも難しいとされる戦艦のニッケル特殊装甲板作りにかけては右に出る者はいないと言われた名人で現場監督でした。
彼が失業者になっているのは腕が良すぎて嫉妬されたからでした。
ライバルは父親がUSスティール幹部で、社内的には相手の方が遥かに力を持っていました。
彼は一方的に嫉妬されて敵対されていました。
そして海軍の休日時代というのも、彼にとってはマイナスに働きました。
戦艦の装甲板は全然必要とされていませんでした。
製造するのが難しい特注の鉄の製造部門から移動させられて、幹部待遇からも降格されてパートタイマー社員にされて、彼はプライドが傷ついてUSスティールを辞めました。
『日本の宇垣製鉄は貴方をスカウトしたいと思っています。
年俸は7000ドルをお支払いします。』
ジョージは耳を疑いました。彼の年収が1番高い時よりも3500ドルも高い金額です。
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