438話 ランサー来訪。
『こ、これは、、、』
セイバーの書いた、これまでの推移のレポートを読んだランサーは声も出なかった。
バブル崩壊やリーマンショックや他の宇垣昌弘の知っている株の下落とは違う感じに下落して行くアメリカの株価。売りが殺到して底なし沼の更に底に落ちていくかのようだ。
恐ろしく不気味だ。
株が下がり始めて数週間。
底かと思うとガクンと下がり始め、
底かと思うと下がる繰り返しで
アメリカの株価は奈落の底を目指して落ちていくのだが、全然底が見えて来ない。
ロックフェラーやモルガンのような大財閥ですら買い支えるのは不可能だろう。
莫大な不良債権が生まれつつあり、
アメリカの財閥関係者すらパニックに陥っていたのだ。
不良債権は加速度的に増えていった。
日本の方は銀行への取り付け騒ぎも収まっているし、アメリカや外国との取り引きで困ってる企業は宇垣が助けている為、日本では安心感が広がっていた。
ともあれ、予知能力が『空売りしたら儲かりますよ。』と囁いてくる。
もっと下がると予知能力は囁いてくる。
アメリカでは、個人所得、税収、物価が下落している。
国際貿易も減少し続け、以前に比べて20%近くも減っている。
日本はあちらの日本への貿易もあるので、国内市場だけで潤っていたが。
アメリカの失業率は上昇し続けている。
日本は色々な所で工事をしており、世界大恐慌前とあまり変わらない為、一般の日本人は知らないのだが、世界中の重工業都市では大きな打撃が広がっていて、建設工事どころではない都市が出始めている。
ユタ準州の農村地帯では農作物の数十%の価格の下落は当たり前になっており、契約しているアメリカ農家からは、涙を流されて感謝されるほど、取り引きが喜ばれた。
宇垣がこちらのアメリカで農家から買っているのは有色人種への差別が少ない地域の農家からである。ユタ準州の農家はどこも有色人種差別が少ない為、ユタ準州は真っ先に契約対象になっている。
そして日系人の自作農からも買っている。
こうした契約農家は大恐慌の中でも安定していた。
そして、高い予知能力保持者で株の専門家のランサーの意見もセイバーとまったく同じか、、、
すなわち、『『アメリカの株価はまだまだ下がる。』』
そして、『『どこが底なのか予測できない。』』
向こうのアメリカも世界もまったく違っている歴史で動いており、株の大暴落の予兆は何も無いらしい。
(1906〜07年頃のアメリカの経済恐慌
の頃はこちらのアメリカとあちらのアメリカは同じ感じだったようだ。
違うところもあるかもしれないが。)
やはり、こちらのアメリカでの投機熱の増大はバブルだったと言うしかないだろう。
アメリカの投資信託はとてつもなく大規模に膨れ上がっていた。
そして、投資信託資金は不良債権になって悲惨な事になっている。
中小の投資家達はパニック状態らしい。
それはそうだろう。GMのような優良企業の株ですら買う人間が居なくて大幅に下落している有り様なのだから。
JPモルガンの株すら下がり続けている。
JPモルガンもゼネラル・モータースもフォードも潰れないと知っている我々ですら寒気を感じて居るのだから、アメリカ人がどう思っているのか想像もできない。
恐怖を感じ続けているのだろう。
とにかく、大幅に下がっている株を現金化する為にアメリカ中から売り注文が殺到して大パニックになっている。
だが、これは始まりにすぎない。
これからどんどん不良債券が増えてアメリカの銀行や証券会社や保険会社が倒産するのだから。
再編成が終了し倒産しそうな銀行が1行も無い日本とは大違いだ。
高橋是清さんと宇垣昌弘の行った銀行再編と積極財政対策は最高だと言われるようになる。
まぁ、こちらの日本の経済規模が小さいから簡単に支える事ができているのだが。
日本の国家予算程度のお金の工面なら宇垣に取っては軽いものだし。
そういえば、スタンダード石油系の会社もいくつかが危険な感じになっているようだ。
乱立していた自動車メーカーも再編が進む。
あのフォード自動車やゼネラルモータースが業績悪化で苦しむ時代になるのだから恐ろしい時代になると言っていい。
ヘンリーフォードさんに会い難いなぁ。
宇垣マーク1の売り上げはあまり減少していないんだよなぁ。
宇垣マーク1の輸出をもっと増やしてくれとランサーに頼まれてしまった。
10,000台でいいからと言われたが、
金子さんや鈴木さんや豊田さんのとこに振り分けてくれないかな。
向こうと違ってこっちの日本は工業力が弱いんだからさ。
逆にこちらが宇垣マーク1を5000台くらい輸入したいほど売れているのだが。
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