395話 金子直吉土下座する。(1927照和)
金子直吉さんはどことなくやつれた感じで宇垣マーク1から降りて、案内されて宇垣銀行の頭取室に歩き出しました。
照和世界の鈴木商店と言えば、12年前の1915年には貿易年商額が15億4000万円になり、(当時の日本の国家予算は7億3500万円)1917年の国民総生産の10%が鈴木商店の売り上げという巨大な総合商社です。
確かに今の宇垣財閥は株取引などでとんでもない金額を稼ぎ出しており、現在の日本の国家予算が倍に増えたのは宇垣系企業の支払っている巨額の税金のおかげですが、この世界では何処からともなく現れて、いきなり油田を掘り当てて大成長した新興企業でしかありません。
向こうの昭和世界の日本では『日本を動かす世界の宇垣』ですが、、、
金子さんも若造を見るような目で若い頭取を見ています。
宇垣系の銀行とはいえ財界では聞いた事も無かった新興銀行の頭取ですからねえ。
規模も現時点では、そんなに大きくはありません。
いや、規模を急激に増やすつもりが無いのだからあたりまえですが。
宇垣銀行はあくまでも宇垣系の企業の為に存在する銀行業務を委託される銀行に過ぎません。
ですが、この頭取の一存で動かせる金額は鈴木商店を救えるくらいの金額なのですが、、、
そういえば、金子さんは世界大戦で大儲けして、『三井、三菱を圧倒するか、三井財閥、三菱財閥と並んで天下を三分する。』と言っていたらしいですね。
宇垣財閥はロスチャイルドやロックフェラーと並んで世界を三分できる巨大な財閥に、向こうの世界ではなりつつあるのですが、、、
そして宇垣昌弘の為なら死を恐れずに戦う勇敢な兵士が1億人を超えるという、日本を遥かに超える巨大な私的国家企業でもあるのですが。
こちらの宇垣銀行の頭取だって、
マスターの宇垣昌弘の側近ですからねえ。
そんなに下に見たらいけないのですが、、、
まぁ、【大】鈴木商店を動かす天下の【大】番頭の金子さんなのだから、そうなるか、、、
大財閥を一代で作りあげた、立志伝中
の人物ですからね。
今太閤と言えなくもありません、、、
その鈴木商店は台湾銀行から借り入れができなくて倒産の危機にあるのですが。
そして、鈴木が大財閥と言っても、彼は日本を介さない三国間貿易をしており、鈴木商店が凄かったと言っても、
納めている税金の金額は今の宇垣よりずっと少ない金額です。
1920年の新入社員の初任給は70円。
年収なら1000円くらいでしょうか。
その時代の鈴木商店の売り上げは16億円です。
ですが、株式を上場せずに銀行から巨額な運転資金を借り入れしており、
借り入れ金額は10億円に膨らんでいます。
利息だけで出て行くお金も相当なものです。
それに、不採算な赤字の子会社も多く抱えています。
イングランド銀行や台湾銀行から巨額の融資を受けるにせよ、鈴木商店は完全に引き際を見誤りました。
利益を確定して自己資金を貯めれば良かったのに、いつ世界大戦が終わるのか、相場を見誤りました。
なんといっても相場は引き際が一番難しいんですよ。
宇垣昌弘達はちゃんと利益を確定して
収益を段々と伸ばしています。
それに今の日本は宇垣のゴーレム達がコントロールしています。
税金を恐れる事もありません。
そこも鈴木商店とは違います。
「いや〜よろしゅうたのんますわ。
宇垣さんからお金を借りられれば
鈴木商店は持ち直せます。
どうか融資してくれませんか。」
と言い金子さんは深々と頭を下げます。
『ご融資と言うと幾らくらいですかね?』
「そうですな〜差し当たり、1000万円ほどでどうでっしゃろか。」
『それで足りますか?
今の鈴木商店の負債総額は10億円を超えているのでは?』
クーラーは効いていて快適な頭取室なのですが、金子さんの汗は酷くなっています。
若く見えるとはいえ、宇垣銀行の頭取の長束正家も長生きしている古株の側近のゴーレム。
向こうの世界の金子さんを知っているからこその介錯をするつもりです。
自分の失敗は失敗と認めて、ここは借金の返済を頑張ってもらいましょう。
そうしてこそ金子さんは成長できます。
「いや、、、なんと言えばいいのやら、、、」
『10億円の負債は鈴木商店でも背負うのは厳しいでしょう。
ですが、この借金返済の苦労をする事は鈴木商店の糧になると思いますよ。』
『大鈴木商店の傘下に入れば安心だとサボっている怠け者の人達も助けますか?
企業は利益を上げてなんぼでしょう?
国は倒産しないと思って怠けているお役人のようになっては企業はお終いですよ。』
『今の貴方のやる事は叱咤して
不採算な子会社に冷や水を浴びせる事ではないですか?』
『次の時は詳しく財務の状況をお聞かせください。』
金子さんは一礼すると頭取室を出て行きました。
少なくとも財務の状況と返済計画を聞かなければ、大金の融資なんてできません。
イケイケな時なら台湾銀行や系列の第六十五銀行がペコペコと頭を下げながら、幾らでもお金を貸したのでしょうが。
『金子さん、元気がありませんでしたね。』と長束正家が話すと会長室で見ていた宇垣昌弘と竹中半兵衛、黒田官兵衛が出てきました。
『向こうの金子さんは大儲けしていて
元気だがなぁ。今となっては大違いだな。』
『車もバイクも作れば作るだけ売れて
嬉しい悲鳴を上げてますからねえ。』
机に手をついて深々と頭を下げるのが
土下座と思っていそうです。
いや、あまりお金を貸せなさそうな
小さな銀行の頭取ごときに下げるなら
あれで充分なのでしょう。
自分は格上なのですから。
天下の金子直吉なのですから。
金子さんは台湾銀行と宇垣銀行から経営再建を促されて、苦しい債務返済を開始します。
宇垣銀行側から金子さんに助言する人物が長束直吉、正家の弟です。
金子さんが嫌がっていた株式上場などを行って、鈴木商店の債務が返済されのは2年後の1929年の年末です。
傘下の優良企業の多くが株式上場した結果、株主の意向も無視できなくなった鈴木商店ですが、不採算企業を切り離してスリムになり宇垣とビジネスを始めて大儲けをしていくつかの新事業の事業化に成功して本体の存続に成功します。
宇垣も有名企業の株を30%以上を買えてウィンウィンの関係になれました。
金子さんは渋っていましたが、30%も株を保有するというのは宇垣が取引をして育てるつもりがあるということを
示す事でもあります。
金子さんにも忠告してくれる良い同僚や部下がいればこんな事になっていなかったでしょう。
いや、宇垣昌弘も日清戦争の時に装甲巡洋艦に乗って指揮をしてますし、
グレートホワイトフリートとの戦いでも現場の戦艦の艦橋で指揮を取ってましたし、ゴーレム達の反対を押し切って戦争してるから人の事は言えないかもしれませんね。
至近距離からの30.5cm砲の滅多撃ちを耐える事になりましたし。
確かに危険でしたよねえ。
でも危険なとこで指揮官が先頭に立っているのですから立派とも言えます。
頼りになる仲間達が居て宇垣昌弘は本当に幸せ者です。
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