第57話混乱するアメリカ

『大統領!この世界一周は親善航海ではなかったのですか!』

『なぜ議会に一言も無く戦争を始めるのですか!』

『1億ドルもの賠償金をどうやって支払うのですか。』


憔悴しきって痩せ細ったルーズベルト大統領の声は小さく、怒鳴る議員達には何も返事が聞こえてません。


『親善航海です。私は何も命令しては

いない。』

この言葉をルーズベルト大統領は繰り返すばかりでした。


出発自体が議会の承認、議決無しの出発でしたしね。

あの大統領の独断での出発も今では

怪しいと議員にも国民にも疑われています。


確かにアメリカ合衆国の大統領には

強い権限がありますが、議会に何も言わずにアメリカ艦隊のほとんどを世界一周させるのを独断でできたりはしません。

許される行為ではありません。

アメリカ東海岸を無防備にするのですから。


『あの運命の日』、アメリカの最初の1発が放たれた後、それに続いて砲撃が開始されてしまいましたが、

1分も経過していないのに数隻の戦艦と

複数の装甲巡洋艦の砲撃が開始され、数分後にはすべてのアメリカ艦隊が戦闘を開始していました。


戦闘準備を命令して準備が整うまでには相応の時間がかかります。

それに艦長の指示がなければ主砲の発射準備をする事はできません。

砲弾と装薬を砲塔に上げる作業をするには相応の理由が必要です。


(悪知恵の働く艦長は砲撃の音を利用して、『日本が攻撃を仕掛けてきた!

反撃だ!戦闘準備!』と命令していた

様ですね。砲撃音が激しくなったら

騙されるのも無理はありませんが。)


それに、大西洋艦隊司令長官はどう指示を出していたのでしょうか。

大西洋艦隊司令長官が、『戦闘停止』と命令したとは到底思えません。

状況証拠は真っ黒です。



すでに、ここに居る上院と下院の議員達は、ある程度の事実を確認しています。

海軍に詳しい議員達は真っ青になっています。

最初の1発が発射されても、それぞれの艦長が旗艦に問い合わせをして命令を下すまでには数分はかかるのが普通です。

命令無しには動かずに事態の沈静化をさせるのがそれぞれの艦長の役目。

日本側がすぐに反撃を始めたのなら

独断での反撃もあり得ますが、

攻撃が始まって5分ほどは日本側は

何も反撃していません。


最初の攻撃にすぐに他の艦が追従して攻撃を開始、ほぼ全艦が攻撃しているのですから、偶発的な戦争と言い続けるのは無理があります。

あらかじめ、戦闘の準備をしていたとしか思えません。

少なくとも、何隻かの艦長は示し合わせて開戦謀略を企んでいたと思われるのが普通です。

『もう戦闘は始まっている!戦闘準備!』と言った艦長が多かったのは

事実です。

ハワイ王国を滅ぼした決断をした艦長だって地元の名士で英雄扱いですしね。


まぁ、上層部の生き残りは1人も居ませんが、、、



(戦艦の艦長ともなると他国に入港中は大使に近い権限を持っています。

非常時に対応できる存在である必要があります。)


(日本政府がアメリカによるハワイ併合の動きを牽制するため、1893年11月、邦人保護を理由に東郷平八郎率いる防護巡洋艦「浪速」他2隻をハワイに派遣し、ホノルル軍港に停泊させてクーデター勢力を威嚇させました。

もし、アメリカ軍艦からの攻撃があったとしたら、彼は重大な決断を迫られる可能性があります。

軍艦の艦長職ともなると国を代表する

覚悟が必要になるのです。)


更に海軍に詳しい議員達は恐ろしい事実に気がついています。

ハワイ王国を滅ぼせて、併合できたんだから、『次は日本だ。』と誰かが思い、偶発的に戦争になったがアメリカが勝利して日本を降伏させるシナリオで攻撃を開始したのでは?

との疑念です。

少なくとも、司令長官はGOサインを

出してます。

ハワイ王国だって復活させずに滅ぼしてますしね。

日本の艦隊を全滅させて降伏させたら、東京湾に急行して、即座に海兵隊と陸戦隊を出して皇居を征服しようとしたでしょうね。

(1945年のアメリカ軍も略奪をしましたし。)


『大統領、海軍長官、海軍次官はどう責任を取るんだ!』

彼らは事前に何も知りませんでした。

なので何も言えません。


議会は嫌々ながらも賠償金の支払いや

領土の割譲を認めざるを得ませんでした。

ルーズベルト大統領に対する弾劾案が

考えられるようになるのでした。

彼の任期は残り少ないのですが、

議会がどれほど怒っているのかを

国民に示す事はできます。


この対日開戦謀略はルーズベルト大統領にとって致命傷になりました。


彼は簡単に勝てると思って戦争を開始しようと企んだ戦争中毒者と言われてしまいます。

(ハンプトンローズ港を出港した時の大日本帝国側の海軍の戦艦の戦力は新型戦艦『美濃』級2隻と富士改級7隻の9隻と小口径単装砲4門装備の

旧式装甲巡洋艦16隻くらいだとアメリカ側は認識していました。

質はともかく量は倍と言えるかも。)


元は海軍次官でありながら、軍事的センスも発想力も無く、予算を浪費して

旧式戦艦を量産した最低な大統領だと

言われています。

(何故、イギリスのドレッドノートや

日本の美濃の建造を知らなかったのか!主砲を4基搭載しそうなのは建造してる最中でもわかっただろ!)

って事ですね。

史実より竣工は遅いですけど、イギリスには注目していなきゃですよねえ。


ルーズベルト大統領が憔悴しているのは彼に海軍に対する知識があるからです。彼の良心は開戦謀略を否定できて

いません。


自分が命令していない事は確実なので、大西洋艦隊司令長官か艦長の中の誰かが命令して謀略を行ったと思っています。


ええ。海軍を良く知っているルーズベルト大統領は、至近距離から新型戦艦に対して砲撃を行える絶好の勝てるチャンスに司令長官が気がついて戦闘を止めなかったのかもしれないと気がついてしまいました。


もちろん、こんな事は回顧録にも書けませんが。


日本の艦隊を壊滅させて、日本を脅かして戦争に勝利すれば、彼らは英雄と

呼ばれたでしょう。


この時代ですからね。

ハワイ王国が滅亡した時もアメリカより弱い国で強く抗議したのは日本だけ

です。

強い抗議をするには相応の覚悟がいりますから。


更にアメリカに追い討ちをかける出来事が起きてしまいます。

世界列強諸国が示し合わせて、アメリカからの輸入品に対する関税を上げる事にしました。

他国もそれに追従し今後10年間の関税を一律4%上げると宣言しました。

さすがはイギリスです。

この戦争へのペナルティとして10年間、関税を4%上げるというのはアメリカにとっても反論するのが難しい微妙な罰則です。(弱い国でも、これくらいなら参加ができるって事ですね。)


こうして、アメリカでは、欧州のアメリカバッシングの背後にいるのはイギリスか?と言われるようになっていきます。


ですが、それは違います。

今回の奇襲攻撃は酷過ぎました。

世界の多くの国々や人々はアメリカの事を前科者と思い始めているのです。


前に犯罪歴があったりすると、より冷たい目で見られたりしますよね?


スペインに続いて、ハワイ王国に日本か、、、と世界の多くの国々や人々が思ったのです。

「日本を降伏させて賠償金を取り、台湾を奪うつもりだったのか?」と。


犯罪歴のある国としてアメリカを見ると、スペインとの米西戦争もハワイ侵略も日本侵略も許せない犯罪行為に

見えてきたのです。

アメリカが戦力を回復させたら、

次の被害国はフィリピン近くに植民地があったオランダかもしれませんし。


この、犯罪歴のある国として見られる

ようになったのがアメリカの大きな変化なのですが、果たしてアメリカは気がつくのでしょうかね?

いや、いつ腰のガンベルトからピースメーカーを抜いて撃ってくるかわからないガンマンと言うべきか。


あれだけの事をしたら、アメリカが元のような信用を取り戻す事はできないかもしれません。

この重い罪を拭うのは大変でしょう。


大統領が知らないのに行われたハワイ王国でのクーデターは、アメリカ軍艦から降りた士官に率いられた海兵隊員がハワイ王国を滅ぼしました。


メイン号爆沈も大統領は何も知らなかった様子ですが、米西戦争でも取るもの(フィリピン、キューバ、プエルトリコ、グアムの植民地)は全部取ってますからね。


そしてリメンバーアラモ砦と言って、

メキシコから領土を奪い、カナダからも領土を取って膨張してるし。


そして高い関税をかけておきながら、

関税を上げようと他国がすると脅迫してくる傲慢さ。


こうなっても関税を下げようとしない

アメリカの態度に世界は怒っているん

ですけどね。


この戦争以降ですが、世界中のほとんどの国で、アメリカ軍艦が入港している時のデフコンレベルは平和レベルに

下がる事はありません。

準警戒態勢をされるのが当然になります。


いや、メイン号の事件があって以降は

密かに準警戒態勢されてきたのかも

しれませんが。

(特にオランダとかでは。)


アメリカ国籍の船舶に対する臨検なども厳しくされるようになるのでした。

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