第52話ルーズベルトの更なるやらかし。

目の前の議員は熱弁を振るいます。

『大西洋ではイギリスとドイツが熾烈な建艦競争を繰り広げています。

なのに、アメリカ大西洋艦隊の戦力は

少なすぎる!

1隻2隻では足りない。

サウスカロライナ級のような新型戦艦を大量に建造すべきです。』

とインディアナ州の下院議員は熱弁してきます。

すでに1893年に完成しているインディアナ級戦艦があるからと静観していた

インディアナ州やマサチューセッツ州やオレゴン州の議員も熱心に新型戦艦の量産を言い始めたのです。


(インディアナ級戦艦達は世界一周の航海が最後のご奉公でしょう。荒れた海に弱い旧式戦艦だけに、そろそろ代艦の声が出てきてもおかしくありません。二線級の船は名前を変更され、

後方にまわされる事もあります。


確かに、ドイツの戦力はアメリカより上にすら見えるほどです。

イギリスはずっと上です。

(イギリスは守る場所が多く

ドイツはバルト海防衛艦隊といってよく、遠征しようなんて考えていません。)


メイン級戦艦(12500トン)を建造できて、1901年になってようやくアメリカは戦艦先進国に並ぶ事ができるようになったと言われていますが、ほぼ同時期に三笠のような戦艦を建造できているイギリスにまた、突き放されています。

コネチカット級(16000トン)や、

バージニア級(14980トン)を建造して、やっとイギリスに並んだと思った矢先に美濃ショックが起きコネチカット級はほとんどが時代遅れな戦艦に

なってしまいました。

それどころか、日本側から見れば富士級はコネチカット級戦艦より格上なのでアメリカがコネチカットは最強だと

言ってるだけなのですがね。



アメリカ東海岸とカリブ海だけを守ればいいとも言えるアメリカは戦力を集中できて有利なのですが、国民からは

新型戦艦を求める声が大きく聞こえてきます。


まぁ、新型戦艦の美濃が生まれ、ドレッドノートが生まれそうな今は、

戦艦の新時代が始まろうとしている時代ですからね。


最近の欧州での動きは英国に追い風が

吹き過ぎているようにも見えてますし、英国が欧州の反米世論の背後にいるのかもしれません。

イギリスとドイツの関係改善の動きなぞアメリカにとっては悪夢そのものです。


なんにしても海軍の増強は絶対に必要だとルーズベルト大統領は思うのでした。

ルーズベルト大統領は粘り強く議会を説得し(その州の都市の名前を付けた巡洋艦の建造を考えるとも言い、

サウスカロライナ級戦艦2番艦と3番艦の予算を議会に認めさせました。

そして装甲巡洋艦10隻を建造すると

サインをするのでした。

これでサウスカロライナ級が3隻建造されれば新型戦艦は3隻。

旧式戦艦は21隻(建造中が3隻)

装甲巡洋艦10隻を建造できれば、

装甲巡洋艦は20隻以上に、、、

アメリカ大西洋艦隊は大幅に戦力アップです。


だが、ルーズベルト大統領は大失敗も

していました。

建造に取り掛かる装甲巡洋艦達は

現在のアメリカが持っている装甲巡洋艦と同じ物。

イギリスやドイツが戦艦と同様の30.5cm砲を搭載して高速を出せる

巡洋戦艦を竣工させたら時代遅れに

なってしまい、旧式巡洋艦になって

しまうのでした。


(アメリカの建造するこれらの装甲巡洋艦は速度は速いのですが、主砲は25cmクラスを4門で装甲はそれなり、

大きさは大きいのでそれなりに建造費用が高額になるという、その巡洋艦を作るのにメリットってあるの?

と言われかねない艦艇でした。

メイン級戦艦以上の排水量がある大きな装甲巡洋艦なので戦艦同様の30.5cm砲を4門搭載してもいいんじゃないかと

思うんですけどね。

20cmクラスから1インチ刻みでじわじわと口径が上がる感じで、巡洋艦はこんな物と思っているかのように見えますよ。)


これらの装甲巡洋艦もルーズベルトの

負の遺産と呼ばれてしまうのでした。


装甲巡洋艦は1890年から1910年まで

作られていて、巡洋戦艦が誕生して

発展的解消されて建造されなくなる艦艇です。


ドレッドノートとほぼ同時期に建造されて、装甲巡洋艦に引導を渡した船こそこの船です。


インビンシブル級巡洋戦艦(Invincible class battlecruiser)は、

第一海軍卿ジョン・アーバスノット・フィッシャーの提唱する「高速力は最大の防御」をコンセプトにし、戦艦並の攻撃力と巡洋艦並の行動能力を併せ持つ艦として誕生した世界最初の巡洋戦艦です。(1908年に竣工予定)


常備排水量 17,290t ~ 17,420t

全長172.8m

最大幅22.1m

吃水8.0m

機関方式

ヤーロー式石炭・重油混焼水管缶31基

(インドミタブルはバブコックス&ウィルコックス式)+

パーソンズ式二軸並列型直結タービン2基4軸推進

出力

41,000hp(最大)

最大速力 25.5ノット

航続距離 10ノット/3,090海里

燃料

石炭:3,805トン 重油:710~725トン

乗員784名

兵装

30.5cm(45口径)連装砲4基8門

Mark III 10.2cm(45口径)単装速射砲16基16門

機関銃7基

45cm水中魚雷発射管単装5門

装甲

舷側:152mm

甲板:64mm

バーベット:178mm

砲塔前楯:178mm

司令塔:254mm


弩級戦艦「ドレッドノート」の建造と並行して、戦艦と同等の単一口径主砲を備え、かつ速力においてそれを凌駕する大型装甲巡洋艦として計画され、新たに巡洋戦艦(英語を直訳すれば戦闘巡洋艦)という艦種名を与えられ

ました。

本級の出現により、従来の装甲巡洋艦は一気に旧式化してしまいます。


日本は損害ゼロですが、アメリカは

竣工の前にイギリスのインビンシブル級巡洋戦艦が誕生して自慢の装甲巡洋艦が完成する寸前に一気に旧式装甲巡洋艦になってしまいます。

それに、ルーズベルト大統領が肝入りしてサインして建造させた戦艦達が

イギリスのドレッドノートのせいで

旧式戦艦にされてしまったのも

ルーズベルトにとっては許せない出来事です。

1904〜1906年に完成した戦艦は11隻。新型戦艦さえ生まれなければ世界最強クラスの新鋭戦艦です。

1900年から竣工した第1線で活躍中の戦艦は18隻です。これらすべてが旧式戦艦になりましたからね。


(ルーズベルトは美濃級も富士級も軽視しています。本当に日本が建造したのかと疑っています。

まあ、太平洋の向こう岸の国なぞどうでもいいと思っています。

そして偉大なアメリカ戦艦なら日本の戦艦如きには簡単に勝つだろうと思っています。

この世界ではバルチック艦隊に勝ってませんからねえ。)



戦艦以外の艦艇にしてみたら

悪魔のような新型巡洋戦艦ですよね、

インビンシブル級って。


史実のアメリカが金剛級高速戦艦を恐れた理由がよくわかります。

普通の巡洋艦を旗艦にした水雷戦隊が

巡洋戦艦を旗艦にした水雷戦隊に襲われたら、巡洋艦は撃沈されて大ダメージを受けるでしょうねえ。


でもインビンシブル級にも弱点は

あります。

それは高速性能にこだわるあまり、

同じイギリスの装甲巡洋艦のマイノーター級装甲巡洋艦よりも装甲が薄いという事です。


マイノーター級

排水量常備:14,600トン

全長158.19m

最大幅22.71m

吃水7.92m

最大速力23ノット

乗員755から850名

兵装

50口径23.4cm連装砲2基

50口径19.1cm単装砲10基

7.6cm単装速射砲16基

45cm水中魚雷発射管5門


マイノーター級の防御能力は舷側防御76mm~152mmで水線部は艦の全長をほぼ防御していたのに対し、インビンシブルの舷側防御152mmは1番主砲塔から4番主砲塔側面で防御範囲が終了しており艦尾は丸裸でした。艦首部分は76mm。

また、主甲板はマイノーター級は上甲板25mm・主甲板19~25mm・下甲板19~51mmで主防御範囲は最大値で101mmの合計厚があったのに対し、インヴィンシヴルの甲板防御は64mmでした。

主砲塔防御ではマイノーター級が203mmに対しインビンシブルは178mmで劣っていました。

司令塔防御は同じ254mmです。

攻撃能力を大幅にアップさせてますけど、防御力に不安が残りますよね。

せめて装甲巡洋艦と同じくらいの防御力は持たせればいいのに。



ちなみにアメリカが建造したのは最新鋭の装甲巡洋艦のテネシー級(1904)

排水量14,733トン、25.4cm(40口径)連装砲2基、22ノットです。

史実なら4隻のテネシー級が14隻に増えました。アメリカはそれ以外に防護巡洋艦を建造していたりします。テネシー級よりずっと安く作れますから。


日本が『富士級改』を装甲巡洋艦のように使うと意味深な発表をしたのは

戦艦に準じるような主砲を持つ装甲巡洋艦が登場してくると思ったからですね。


そして、やがてインビンシブル級のような巡洋戦艦が出てきたとしても

重装甲で重防御な『富士改級』なら

小型艦艇や美濃級を守る盾になり、

無双ができると思っていたからです。

速度的にもそれほど見劣りはしませんし。


『富士改級』の防御力はドレッドノートよりも遥かに上です。超M級戦艦が誕生して34.3 cm砲〜35.6cm砲を搭載し始めるまでは無双できるでしょう。


1897年型で、史実の敷島級戦艦の四番艦の三笠(1992)よりも5年前の戦艦であり、

史実なら1906年に完成するドレッドノートの9年前の戦艦なのに、頑張ってますよね『富士改』は。

ドレッドノートと比べたら、戦闘力は

それほど変わらないだろうし、防御力は遥かに上ですからね。互角以上の戦艦なんですけどね。



『新型戦艦美濃』が誕生してもっとも得をしたのは日本ですが、もっとも損をした国はどこになるのでしょうね。


まぁ、シカゴ級なら相応に使用し続けて行く事もできるでしょう。

旧式だし、戦闘力も新型巡洋戦艦に比べたら半分とかで、見劣りしますが。

ええ。新型巡洋艦は主砲が4門ではなく

6門以上が当たり前になります。


そういう新型巡洋艦に比べたら、シカゴ級は残念な子に見えますよねえ。


この頃のアメリカって巡洋艦は必要だという固定概念に囚われ過ぎてるんですよ。

敵艦隊の居場所を見つけて戦艦部隊に知らせるのは装甲巡洋艦の役目と思っているみたいなのですが、メイン級の戦艦より大きな装甲巡洋艦を高い金額で建造するって、完全に予算の無駄使いだろと思わざるをえません。

戦艦と同数くらいは装甲巡洋艦を作らなくては。なんて思っているのは、

この時点では変ですよ。

すでに美濃級戦艦が登場しているんだから、主砲を8門搭載する巡洋艦を作りゃいいのに。

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