第7話

 男の子はサメジマと名乗った。

 ゆうかちゃんと同じ顔をしているけど、男の子だし、中身もまったくちがう。

 彼は非常に好戦的で、歯向かう男の子は撃ち殺し、女の子には殺した子の死骸をみせつけ、恐怖で支配した。皆に友好的であったゆうかちゃんとはおおちがいだ。

 だけど……ゆうかちゃんとおなじく、カミキリカラスを殺すためにこの町にきたようだった。

 サメジマはまず、私たちの町のリーダーはだれかをきき、射殺するといった。

「リーダーのふたろーは、どこかへいった。弱虫なんだ」

「エ、今この町のリーダー、ふたろーなの?」

 サメジマの顔が少しくもった。彼は、ふたろーのことをしっているのだろうか。「なら、あんまり時間はねーな。今日から俺がリーダーやるけど、文句あるやついる?」もちろん、反対する者のはいない。ふたろーがいなくなり、子供たちは新たなリーダーを求めていた……。そして、鉄砲の力をしっかりと見せつけられ、歯向かう気力もなくなっていた。

 私は……乱暴ながらにも、高速で子供たちを懐柔してしまうそのすがたに、やはりゆうかちゃんの影をかさねた。うかびあがった感情は、恐怖だった。ゆうかちゃんと同じ顔なのに、やさしさのかけらすらもない。

 男の子たちはサメジマに期待しているようだった。

 もちろん……あの、鉄砲という強火力な武器をもっているからだった。

「あれは遠方からでも攻撃をしかけることができる。竹弓の力とは比べ物にならない。きっと当たりさえすれば、殺すことができる。俺たちは平穏なくらしを手に入れることができる」

 彼らは物陰にひそんで、小声でそんなことを話し、しのび笑いをしていた。

 サメジマさん、どうしますか? と手もみしながら、町のお菓子や食べ物をサメジマにあたえた。

 男の子たちはわすれてしまったのか? サメジマは、私たちを支配するために、多くの子を殺した……その事実を。

 男の子たちはサメジマを信仰し、女の子たちは恐れ、おびえていた。

 

 サメジマはノボル君を躊躇なく殺したように作戦も容赦なかった。

 最初の作戦の時、ひとりの男の子に囮として、自転車で走るように指示した。男の子は泣いていやがった。サメジマは彼の心臓に鉄砲をむけた。

「オマエの心臓の使い道を選ばせてやろう。今からここで死ぬか、あるいは、カラスに追われて皆に尊敬されながら死ぬか。もしも後者をえらぶなら、オマエはわずかな時間と、町を守ったという栄光をあたえられる。そのわずかな時間と、栄光を利用して、好きな女を犯すといい。俺が許す」

 男の子は狂ったような笑みをうかべ、わかった……わかったよぅ、だから殺さないで、といった。

 そして定刻となり、彼は自転車にまたがった。にげださないよう、彼の両腕には鎖がまかれ、ハンドルにくくりつけられていた。カラスが気づくように、人の血を体にぬりたくり、においでおびきよせる。みはらしのよい、プーカのいる河原が決行場所になった。……私は樹の下から、事のゆくすえを見守っていた。

 作戦では彼はくずれかけた家屋に逃げこむことになっていた。

 付近の家の二階には、男の子たちが潜伏していて、カミキリカラスが家に激突したところで、レンガを投擲する。(囮の男の子には気合で逃げろ、とかいわれていたが、もちろん、彼も巻き添えである……)レンガと木材の重みにより、カラスの自由を奪う予定であった。

 サメジマはちかくの家の二階の部屋にかくれ、カラスがもがいているところを撃ち抜く……これが作戦の全貌である。

 だが、先に言っておくと、この作戦は失敗におわった。

 カラスは男の子の自転車には襲来せず、サメジマのかくれていた家屋の、二階の部屋につっこんだのだ。

 一発……、すぐ後にもう一発、鉄砲のおおきな音がして、つづいて、カラスの絶叫が町をゆらした。

 やがて、翼から木材の破片をおとしながら、カラスはとびあがっていった……。飛び方がすこしおかしい。銃弾がどこかにあたったのかもしれない。「生きている、失敗したんだ」私は絶望をおぼえた。サメジマはどうなったのだろう……? 

「犠牲者、吉高 ヒチヲ」プーカはそういった。サメジマの名前ではない。たしか、サメジマの側近の男の子の一人だ。

 私は目をこらして、カラスのくちばしをみつめたけど、人の肉はないようだった。


 あとからきいた話では、カラスがまっすぐにむかってきた時、サメジマはすぐちかくにいた吉高君を撃ち殺し、窓から放り投げた。カラスが人肉に気をとられたところをサメジマは発砲した。それは翼に当たったようだけど、致命傷にはならなかったようで、カラスはサメジマのいる家屋にぶつかりながら、飛翔して逃亡した。その際にサメジマはケガをしたようだけど、死んではいないみたいだ……。

 サメジマは痛みにこらえながら、涙目でうめいていたという。

「なんで……俺の居場所がわかったんだ?! だれか、スパイがいるのか……」

 私はすぐにツカイカラスがおもいあたった。

 おなじ顔をしていたゆうかちゃんはツカイカラスの存在をしっていたけど、どうやらサメジマはしらないようだ。

 私はおしえるべきか悩んだけど、いわないことにした。

 今回の作戦は失敗に終わったけど……痛み分けとなったようだ。カラスは翼を撃たれ、静養のためか、町にやってこなくなった。もうこなければいいとおもうが、サメジマは「絶対にまたくる」と強い口調でいった。

 現在、カラスには、それほどの脅威がないようだ。これはチャンスかも。

 私は暇をみては、サメジマがこの町に初めてきた時、どこからやってきたか、しっている人がいないか……女の子たちにきいてまわった。

 みなみちゃんがサメジマを目撃していたようで、霧のかかった山を指さした。

 そこは、カミキリカラスの巣があると噂されている『白昼山』であり、山をこえると『帝国』があるという。

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