第16話 勝手なことを言う王様は、ファンタジーの世界から、追放したい!「恥ずかしいわ…」ほら。あの女性と、はじまっちゃったじゃないか。

 城からは、彼女に、一流戦士の称号が贈られた。

 壮年の男性が、彼女の肩に手をやる。

 「そなたこそ、勇者である」

 「ちがいますよ?」

 「何じゃと?」

 「だって…!世界を救うような勇者が、他人の家に勝手に上がって、タンスの中身とか勝手に取ったりなんて、しないと思いますから!」

 「そうか」

 納得、するなよ。

 「…大魔王を倒してほしいとか、世界に光を取り戻してほしいとか、勝手なことを言っておいて…」

 「何?」

 「それなのに、旅立ちに、ぼろい剣とか服とか、たいした金額じゃない金をもたせるだけの王って、何?」

 「う…」

 「どゆこと?世界を救ってほしいんじゃ、なかったの?」

 「ルシアさんと、言いましたな?」

 「はい」

 「何か、他にも、言いたいことはおありかな?」

 「あの…」

 「何ですかな?」

 「王は、おられないのでしょうか?」

 「王は…。忙しいのじゃろう」

 「そうですか…」

 さまざまな誇りをまといつつ、ほんのちょっぴりとさみしい気持ちで、城を出て、店に戻った。

 王に会えると、思っていたのに。

 会えたのは、あの変なおっさんくらい…。

 会えると、思っていたのに。

 会えると。

 「…あ。…そういうことか」

 はずかしくなった、彼女。

 数日後。

 またも、いやなことが起きた。

 人騒がせな門番となっていたツバキが、なぜか、彼女の店兼道場の玄関先で倒れていたところを、道場の門下生によって発見されたのだ。

 ツバキは、またしても、ベッドに横たえられることになってしまった。

 「誰か、きてください!」

 「おお」

 「門番の意識が、戻ったのか?」

 「たぶん」

 「早く、ルシアさんに、知らせましょう」

 「まったく…。世話の焼ける男、だな」

 道場の者たちに囲まれた門番、いや、ツバキは、彼女のほうを見て笑っていた。

 「約束は、守りましたからね」

 ぼこぼこに腫れ上がった顔を、彼女に、向けながら。

 「何?約束って…」

 「え?」

 「だから、約束って何?」

 「実は、君のお父さんと、約束をしたんです」

 「約束って?」

 「必ず、あなたを守りますっていう、約束です」

 「そう」

 「本当ですよ」

 「でも、変ねえ。いつ、あなたは、私を守ってくれたってわけ?」

 「この前、城で、守ったじゃないですか」

 「…?」

 異世界は、不思議色。

 しかし、彼女の父親はどこにいってしまったんだ?ちっとも、店には帰ってこないじゃないか!

 そんなこんなで、夜になった。

 「しおりがピンクになる」

 その意味がわかる人には、うれしい時間のはす。

 ツバキの心にはさまれていたしおりが、激しく、ピンク色に染まりはじめる。

 が、ルシアは、どこかにいってしまっていた。

 残念!

 代わりに、あの女性との思い出が、よみがえってきた。

 女性が、ツバキの胸に顔を埋める。

 「お客様?」

 「…はい」

 上品な声って、エッチなんだな。

 「やっぱり、私の身体が、お好みなんですか?」

 「…」

「エッチ」

 また、はじまっちゃったよ。

 「な…」

 「ああ、お客様?」

 「はい」

 「そこは、触っちゃ、いや!」

 「どういたしまして…」

 「エッチ!」

 「すみません」

 「もう!」

 「お世話になります」

皆、皆、かんちがい。

 床屋のアレのかんちがいを、思い出す!

 「床屋の、赤・青・白の意味」

 この世界では、正しいことを知ると、いやらしいことになってしまうんじゃないのか?

 またも、あの女性の声がせまる。

 「何にします?」

 「じゃあ、あなたにします」

 「かしこまりました」

 …ちょ。

 「恥ずかしいわ…」

 





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