第13話 美人巫女が、水を少しだけ口に含み祈る。巫女の頭がゆれ、手がゆれ、唇が、何度も振動を重ねて。仲間のタナカと、心の中で再会。

 不思議だ。

 巫女が、店というのか道場に座ると、それまで重苦しかった空気が、さわやかになっていく気がした。

 巫女の、霊力?

 「ルシアさんとどちらが、良い感じの女性なのかな?いつか…、一緒に。やばい」

 エッチになってきそうな感情を抑えるのも、一苦労な、ツバキ。

 「こちらです」

 巫女には、店を入って少し奥の部屋に、座ってもらうことにした。

 「あれ?ルシアさんも、きたんですか?」

 「何、悪いの?」

 「いえ」

 「そうだ。お父様は?」

 聞こうとするなり、他の門番が、割って入ってきた。

 「あのう。ルシアさん」

 その門番が、何かにおびえるようにして、口を開きはじめる。

 「何が、あったの?」

 「…ええと」

 「ほら。はじまるみたいよ?」

 巫女が、真剣な顔をはじめた。

 「はじめます」

 巫女は、茶を断って、水を少しだけ口に含んだあと、ただ一心不乱に、なにやら祈りはじめた。

 「ルシアさん?」

 「シッ…」

 巫女の頭がゆれ、手がゆれ、唇が、何度も振動を重ねた。

 「う…く…」

 巫女は、ときに、何かをつぶやいた。

 その場にいた皆が、その様子に魅入っていた。

 「何かを、見つけなければならない」

 それは、その場にいる者皆が、わかっていたことだ、が、そういうときほど、わからないことが出る。

 巫女が、苦しそうにうめくほど、皆が、混乱をはじめたのだ。

 「…あれ?何を見つけなければならないのかが、ますます、わからなくなってきた」

 門番となっていたツバキも、巫女の姿を見て、ボーッとしてしまっていた。

 「痛!」

 彼女に、足をつねられた。

 巫女の動きが、止まった。

 巫女の、漆黒の闇を司るような長く美しい黒髪の間から、一枚の紙切れが出てきた。

 「これで、わかると思います」

 巫女は、その紙を手に取り、広げた。

 「あなた方のお探しになっていたものは、ここにあるでしょう」

 「巫女さん?我々は、そもそも、何を探さなければならないのですか?」

 「守るべきものの、命です…」

 「はい?」

 「何でも、ありませんわ」

 どこまででも、不可思議な巫女。

 巫女の広げた紙には、何かの絵が描かれていた。

 「何、これ?」

 「文字とかじゃあ、ないんだな」

 「絵か?」

 「というよりも、図面だ」

 「見せてくれ」

 絵だった。

 図面といっても、おかしくなかったろう。

 広い庭をもつ家が、立体的に描かれた、簡単な地図のようなものになっていた。

 「あれ?」

 「これって、何でしょう?ルシアさん?」

 「これ、私の家じゃないの?」

 「え?」

 「ああ、本当だ」

 「本当ですよ、ほら」

 「…」

 「とりあえずは、安心。じゃあ、話題をちょっと変える。お父さんは、いきつけの、何とかっていうバーにでも、出かけたの?」

 「はい」

 「おそらく」

 「えー?こんな、昼間から?最近のお父さんって、あの店とは、裏切り続きじゃなかった?時短営業もあって、いっていないと思っていたのに!」

 「…ルシアさん?シッ」

 巫女は、また茶を断って、水を少しだけ口に含みだけ。

 一心に、祈り続けた。

 「お…。ルシアさんに見習ってほしい、色っぽさだ」

 「聞こえていますけど!」

 門番となっていたツバキは、ただ、怒られるのみ。  

「今は、がまんするか。粘り強く…!あいつの言葉を、見習おう」

学習塾の講師だったときの、タナカという仲間の好きだった言葉が、思い出された。

 「農民の粘り強さだ」

タナカの、口グセ。

ふと、タナカと再会できたような気がしたから、不思議だ。

 

 





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