第2話 ※資料:神話【魔剣シャナ】

昔々……、まだ龍神族と言う種族が繁栄していた頃。


とある龍神族の中でも、一際強大な王国があった。


その王国の名前はドリストナ王国。


龍神族最強のドリストナ王が周辺諸国をまとめており、文字通り龍神族の繁栄の立役者であった。


強い王、そしてそれを支える優秀な部下たち。さらに世界最強の種族たる龍神族は、他種族を寄せ付けない軍事力を持っていた。龍神族の繁栄は揺るぎないものだと思われていた。


ある日、王は王妃候補を探すために国中から美女や美少女を集めた。部下から「そろそろ世継ぎを……」としつこく忠告されたが故の行動であった。


王として「まだまだやることがある……」と嫌々であったのだが、数万の美女をとにかく集めた。


世界最大のお見合い祭りの開催である。


結局、その中から選ばれたのは、ヨーマという美しい龍神族の平民出身の娘であった。しかし、その色気は尋常ではなく、まるで天女のように美しく。歌を歌わせれば、天上の調べのように人を狂い惑わせた。


ヨーマを一目見て気に入ったドリストナ王は、すぐに婚礼の儀を行い。王妃とした。


これがドリストナ王国……いや、龍神族衰退のきっかけであった。


ドリストナ王は、ヨーマ王妃を娶ってから変わった。


国政に興味を失い。一日中ヨーマ王妃と王宮の奥で過ごしはじめたのだ。龍神族の王として優秀であり、誰よりも国と民を想っていた王の変わりように民衆や部下は信じられない気持ちであった。


部下たちは、王に「目を覚ましてください!」と訴えたが、ヨーマ王妃はその者達を殺すようにドリストナ王に枕を武器に訴える。結果として国を支える支柱たちを何百人と失ったドリストナ王国。それは荒れに荒れた。


ドリストナ王国が揺れると世界中の国々も揺れた。


各国で戦争が絶えず起こり、毎日どこかの国が滅びたニュースを耳にするようになった。


実際、龍神族の数は激減していった。もともと龍神族は人口的には多い種族ではなかった。種族として頂点に君臨していた龍神族であるが、繁殖能力の面では弱かったのである。


数の上で他種族に圧倒的に劣る状況がさらに悪化した。それは、急速に龍神族としての権力を衰退させていった。


ドリストナ王国どころか、種族全体の危機である。


当時、天才の名を欲しいままにしていた龍神族の中でも抜きんでた力をもつ者たちが十名居た。その者達のことを「聖ドラゴン」言った。その「聖ドラゴン」」の称号を持つ者が集まり、とある誓いを立てた。


「ヨーマ王妃の打倒」である。


これは、のちに「聖十ドラゴンの誓い」と呼ばれる。


すでに全ての軍事力を握っていたヨーマ王妃にたてつく者はいない。ドリストナ王はすでに傀儡と化していたし、有力な龍神族はすべてヨーマの手中にあった。


たった十人だけで、この壮大な誓いを達成しなければならなかったのだ。


何十万という龍神軍を相手に激戦を繰り広げる聖ドラゴン達。これが龍神族の数を致命的に減らした。しかし、十名には信念があった。「ヨーマ王妃を倒さぬ限り龍神族に未来はない」と……。


ヨーマ王妃を何とか追い詰めた聖十ドラゴン達は、すでに二名にまで減っていた。その二人とも剣士であり、セイルシード家の天才と呼ばれていた兄妹であった。世界最強の兄妹剣士とも言われていた。


セイルシード家は、代々高名な剣士を輩出してきたが、この二人は龍神史上最強の剣士とまで言われている。まさに龍神族の至宝であった。


兄の名は、アークと言い。

妹の名は、シャナと言った。


ヨーマ王妃を追い詰めたアークとシャナは、ここで王妃の本性を知ることになる。


ヨーマ王妃は何と、魔界における邪神の化身であったのだ。


美しい美女の姿から、九頭の大蛇に変化した邪神と戦うセイルシード兄妹。


邪神相手に、アークとシャナは剣を夢中で振った。その剣の威力はすさまじく、大地を斬り裂き、地震や火山の噴火を起こしたと言われている。


そこから生まれたのが。【セイルシードの丘】とも言われている。


二人は強かった……。この世の者ではない邪神相手に奮闘し、致命傷を負わせたのだ。


「勝った!」と、確信した二人は思わぬ事故に遭う。


一気に形勢逆転となり窮地に追い込まれる。


何と、二人の剣が折れてしまったのだ。折れた剣で善戦はするものの、追い込まれ大蛇の牙が妹シャナを襲う。


「シャナ!!」


妹を庇い、半身を喰われる兄アーク。


その兄を見ながら、妹は血の涙を流した。


「兄様!!」


笑いながら兄アークの体を、むさぼり喰う邪神。


【我に逆らう愚か者よ……龍神は滅ぶ運命ぞ】


「……おのれ邪神!許さぬ!許さぬぞ!!」


【囀れ……我は傷ついた。魔界に暫く退くが、またいずれ地上界に降り立ち、この世を地獄に変えてやろう。その前にオヌシも喰らってやろう】


ゴクリとアークの体を飲み込んだ邪神が、シャナに襲いかかろうとした。


しかし、シャナは何を思ったのか折れた剣の刃を自らの心臓に突き刺した。


「お前の好きにはさせぬ!!」


【狂ったか……龍神の娘よ】


口から血を吐きながら、シャナは呪詛の言葉を邪神に投げる。


「貴様を斬り裂く魔剣となってくれよう。そして、いつの日か兄の魂が貴様を倒す!何百年……何千年経っても……必ずだ!」


【何を……】


しかし、邪神は見た。折れた剣の刃は、徐々にシャナの肉体と同化していったのだ。握っていた両腕は剣の柄となり、心臓に突き刺さっている刃は肉体と同化した。


みるみるうちに形状を変えていくシャナの肉体。そして、一本の巨剣が誕生した。


魔剣シャナの誕生である。


刀身は青く輝き、剣全体が青いオーラに包まれていた。


それは呼吸をしているかのような錯覚を覚えさせる魔剣であった。すさまじい力を感じ取った邪神は、この剣を放置しておけないと判断した。


【この!!】


空中に浮かぶ魔剣を破壊せんと襲いかかる。


しかし、魔剣は忽然と姿を消していた。


【消えた……逃がしたのか……】


傷ついた邪神は、回復するために魔界に消えていった……。


後に残ったのは、荒れ果てた断崖絶壁セイルシードの丘だけであった。

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