チート級の種族に生まれ変わった魔法使い劣等生

八条院せつな

第1話 プロローグ

「今日こそ金もって来いって言っただろ!?このクソデブが!」


「がえっ!?」


俺───イザナ=フォン=フェルーナは、集団リンチを受けている。


サンドバックよろしく、ボコボコだ。


左右前後からなので、太った俺の身体はゴムボールのように揺れている。


「や、止め……」


「おら!おら!」


「ごふ!げふ!」


集団リンチは壮絶だ。石や鉄棒などで、頭や腹をめった打ちだ。


口から血や胃液が出てくる。


(し、しんじゃう!タヒっちゃう!このままではタヒる!)


今日のいじめは壮絶である。正直、かなり危険な状態だ。頭も朦朧としてきた。


(本当にヤバイかも……)


俺はうっすら死を意識した。


「ぎゃははは!おら!おら!」


笑いながらボールで遊ぶかのように、俺の髪を掴み上げては蹴り飛ばす苛めっ子達。


朦朧とする頭の中で、今までの人生が浮かんできた。走馬灯ってやつだ。

俺の名前はイザナ=フォン=フェルーナ。


年齢はピチピチの十五歳。


ちなみに容姿は醜い。


太っていて、ずんぐりむっくりとした体型。


顔は豚顔だ。


ついたあだ名は「チビオーク」。


酷い名だ……。


しかし実際、そのあだ名のとおり。オークのような顔と言われて変に納得するところはある。自分で言うのも何だけど、本当に俺の顔は醜い……。


俺の家は子爵家だ。そこの長男である。一応貴族ってやつだ。一応ね……。これについては後で説明する。


住んでいるところは、魔法大国ロルマーノ王国の王都。その名も王都ロルマーノ。そのまんまだね。かなり良い都に住んでいると思う。


俺が通っている学校は、ロルマーノ王立魔法学園。俺は今年、高等部に上がったばかりの一年生。


ピカピカの一年生です。はい。


誰もが魔法学園に通えるわけじゃない。魔法の才能は百人に一人だし、結構稀な才能だ。それも”王立”魔法学園なんて言ったら超エリート学校である。


なんでそんな学校に通えているのかというと、五歳の頃に運良く魔法の才能が発見されたからだ。五歳のときの俺の魔力は、平均的な子供くらべて高かった。


貴族で王都に住み、そして高い魔法の才能があれば王立魔法学園を目指すことが出来る。


そのときの俺は、両親に厄介者扱いされていたが……。貴族の体面として王立魔法学園の入学試験を受けることを許された。


そして……何の間違いか俺は合格してしまったのだ。


渋々、入学を許可した両親は、皆が羨む王立魔法学園に五歳から通うことになった。そして、何とか留年だけは免れて高等部まで進学できた。


貴族で魔法学園の生徒……。それだけ聞くと、俺の人生は順風満帆のように聞こえるが、実はそうでもない。


俺の魔法の才能は五歳がマックスだった気がする。それ以降まったく伸びなかった……。今の俺は魔法学園はじまって以来の超劣等生なのだ。


大事なことなので二回言わせてもらうが、超劣等生だ。


このままでは留年も間近かも知れないくらい劣等生だ。


あ……三回言っちまったよ……。


そして、自慢ではないが学園内では、俺は苛められっ子だ。


苛め自体は今に始まったことではない。昔から俺は標的にされやすかった。


何故って?


それは不細工で太っていて、さらに頭が悪くて、魔法の才能も底辺だからだ。


劣等生&容姿が悪い&頭も悪い&才能もない……となると、当然のように虐められる。これは自然の摂理のようなものだ。


年々、苛めはエスカレートするばかり……。これは結構深刻で、わりと生命の危機を感じたりする。


学校の先生に相談したこともあった。


しかし、苛めっ子というのは総じて世渡りが上手い。先生の前では猫を被り、優等生ぶるのだ。すっかり騙された先生は、俺のことを全く信じてくれなかった。


どれだけ真剣に相談しても「君にも問題があるんじゃないの?」と、むしろ説教される始末だ。


俺はいつしか苛めを止めることを諦めてしまっていた。


学園の中だけなら、まだ良かった。俺は家族からも冷遇されていた。


俺には一歳差の弟と、二歳差の妹がいるし。両親も一応居る。彼らは大きな屋敷に同居しているが、俺だけは家族とは別に住んでいた。


同じ家族とは思えないほどの格差……。俺は風通しの良いボロボロの小屋を与えられ。別居しているのだ。


同じ家族なのに何故?と思われるかも知れない。俺は家族にも嫌われてしまっている。


ここからは、俺の幼少期からの話をしよう。


もう少しだけ付き合ってくれ。

四歳までの俺は幸せだった。貴族でもあるし、家族に囲まれて幸せだった。


それもこれも母親が生きていたからだと思う……。


俺を生んでくれた母は、俺をそれはそれは可愛がってくれた。


泣き虫で、身体の弱かった俺を母いつも慰め、看病してくれた。


母は可愛がるだけでなく。大事なことも教えてくれた。それは知識であったり、心構えであったり。心のありようだ。


そんな母を尊敬していたし、大好きだった。


幼い俺はママっ子だった。母が俺の全てだった。母が居れば、俺の世界は守られると信じていた。


母は、幼い俺にいつも言い聞かせていた。


これが俺の生きるための指標になっている。


『イザナちゃん。どんなときでも明るく前向きに生きて。明けない夜はないの。きっと眩しい太陽がやってくるの。辛いことがあっても笑顔と優しさを忘れずにいてね。そうすればきっと素敵な未来があなたを包んでくれるわ』


「うん!ママ!僕、明るく過ごすよ!」


「ふふ……良い子ね。イザナちゃん」


母は、まるで自分が死ぬことを予見していたかのように、俺に繰り返しそう教えてくれていた。


そう……。母は俺が四歳の頃に原因不明の病にかかった。


高名な医者や、光魔法使いを呼んで治療をしようとしたが母の病状は良くならなかった。


みるみる内に痩せていく母。


「ママァ……。早く元気になってぇ……」


俺は、いつも母のベッドの横に張り付いていた。


原因不明の病のため接触を禁じられていたのにかかわらず、俺は母にべったりだったのだ。


母は感染のおそれがないと判っていたのか……(今でもこれは不思議)、俺が傍にいることを許した。


「げほ……げほ!イザナちゃん。いい?明るく前を向いて生きるのよ?」


自分の死期が近いことを悟ったのか。母は、いつも俺にそう言い聞かせていた。


「うん。うん。ママ。大丈夫。大丈夫だから……。早くお風邪治してぇ?」


「うん。そうね、イザナちゃん……。そうね……」


この頃の俺は母が、風邪か何かにかかっているだけだと思っていた。


しかし、俺の考えとは逆に母の最期は数か月後にやってきた。


「今夜が峠でしょう……」


医者がそう告げると、父は神父を呼んだ。


母が天に召される準備をはじめたという訳だ。


俺は、それに酷く怒った。


「かえって!神父さま!かえって!!ママは良くなるんだから!」


そんな俺をベッドの上から見ていた母は、死ぬ間際まで俺のことを最後まで心配していた。


「イザナちゃん……。いい?ママの言葉を覚えておいて……?明るく前向きにね?」


「ママ……」


子供心に、母の命が尽きる寸前なのは感じてはいた。しかし、認めたくなかった。


母は父に、今際まで俺のことをお願いしていた。


「あなた……。イザナのことを宜しくお願いします。この子のせいではないのです。この子に罪は……」


「マリアン……」


母は、右手を上げて震える手で俺の頭をそっと撫でた。


「イザナちゃん……大好きよ……」


それが最後の母の言葉だった……。


力尽きるように母の腕が落ちた。


「ママ……?」


俺は動揺して、父や神父の顔を見上げる。


「失礼……」


神父が母の死を確認するために、瞼をあけてのぞき込む。


俺はそれが非常に失礼な行為に感じて叫んだ。


「ママに触るな!!」


大人たちに止められ、神父が再び母の死を確認すると告げた。


「天に召されました……」


俺は何が何だか分からず、押さえている手を振りほどき、ベッドに走り寄って母の身体を揺すった。


「ママ!ママァ!!目をあけて!!」


しかし、母は二度と目を開かなかった。


俺は助けを求めるように父を見上げた。


「パパ……。ママが……ママが……」


しかし、父は俺のことを睨みながら告げた。


俺は今でもその言葉を忘れない……。


「お前の……お前のせいだ。カシーナが死んだのはお前のせいだ!!」


「……!」


それが俺の幼少期の記憶。


そこから先は地獄ってやつだった。


義母がやってきたのだ…………。


母が死んで、オヤジはすぐに再婚した。


俺にとって義理の母、義母ってやつが登場した瞬間だ。


死んだ母も綺麗な人だったが、義母もとても美しい容姿をしていた人だった。少しツリ目がちで、気の強そうなところが見える。そんな人だった。


「こんにちは、イザナちゃん。私が新しいママよ」


そう自己紹介されたのを今でも覚えている。


俺は義母の眼が鋭く……。(ちょっと怖い)と思ったのが初印象だ。


はじめは俺も小さかったし、それなりに義母にも丁寧に扱われていた。


しかし、それも翌年には変わる……。


翌年と翌々年に、義母とオヤジとの間に子供が生まれたのだ。男の子、女の子だ。


俺は弟と妹が、一気に二人も出来たのだ。


それから、義母の俺への扱いは急速に冷たくなっていった。


そりゃそうだ……。血のつながっていない子より、自分の子のほうが可愛いに決まっている。


そしてマズイことに、俺の容姿は年々醜くなっていった。


父も死んだ母も容姿は整っていたのに、俺の容姿はブサイクになっていった。


身体も太っていった。食事は普通よりも少ない量を取っているにも関わらず太っていくのだ。どうしようもない。


頑張って痩せようとしたこともあったが、毎年体重は増える一方だった。これは本当に不思議……。


弟と妹は、信じられないくらい整った顔に育っていった。俺とは似ても似つかないくらい、美少年、美少女にだ。


この差は何?


はじめ幼い弟と妹達は俺に懐いていたが、義母の冷遇はエスカレートしていった。


俺をゴミのように扱う母をみて、子は従う……。


徐々に、”なんだ、こいつ兄って名だけで格下か……”と、見下すようになった。


父→義母→弟妹→俺 というヒエラルキーの完成である。


俺の食事は、弟と妹の残りものだけ(それでも食べられる日はマシだった)。義母は、家の掃除から料理まで俺にさせた。まるで奴隷だ。


弟妹達にはベタベタのくせにだ。


服なんかは、弟達は新品を買ってもらえるのに、俺はいつも雑巾のようなボロ服だけ。そもそも買ってもらった記憶が無い……。


学校に通う学生カバンも俺だけボロボロで、弟と妹達はいつも新品だった。


俺は弟と妹達が羨ましかった……。


血のつながっているオヤジはどうかと言うと、義母の言いなりだった。


義母は暴力まで振るってきたが、見て見ないふり……。酷いもんだ。


しかし、俺は死んだ母の言葉を忘れていなかった。


(いつでも前向きに……。明けない夜はない……。笑顔で……)


そう言い聞かせるように、俺は笑顔で明るく生きていた。実際、笑顔でいると惨めさが軽減する感じがした。


いくらゴミのように扱ってもへこたれない俺をみて、義母は苛ついているようだった。俺を良く殴るようになっていった。


「このブサイク!居なくなればいいのに!学費と飯を与えられるだけ幸せと思いなさい!」


苛つくと殴りつけてくるし、弟妹達との差別が酷かった。


義母は、俺がロルマーノ王立魔法学園に通っていることが不満のようだった。


弟と妹も、魔法の才能が開花して同じ学校に通えることになったので仕方なく認めているようだったが、学費を俺に払うのが嫌で嫌で仕方ないようだった。


「この!この!」


母は俺のことを良く殴った。学校から帰ってきたが、家事をさせられ、それに少しでもミスがあると殴るのだ。そんな毎日だ。


「痛い!痛い!母様!やめてって!」


「まだ懲りないのね。今度はこれで……!」


「母様!ナイフは止めて!それ駄目なやつ!!」


そんなやりとりをみて、オヤジは助けてくれなかった。むしろ笑みさえ浮かべる始末だ。


毎日が地獄だったと思う。良く生きてたな……俺。


メンタルだけは最強だった俺は、持前の明るさで毎日を生きていた。


「痛ぇ!……わかりました!わかりましたよ!母様!やりゃーいいんでしょ!?」


「何!?その口は!」


「ひぃ!?」


まったく怯まない俺を見て、義母の怒りは膨らむ一方。そして冷遇はエスカレートする……。そんなサイクルだ。


誕生日やイベントのときも、俺は両親に祝われることは無かった。弟と妹達は毎年プレゼントに囲まれて祝われているにもかかわらず……だ。


横目に弟と妹が誕生祝いを受けている最中に、皿洗いをしている俺は子供心に「そりゃ無いんじゃないの?」と思ってはいた。


恨めし気にオヤジを見詰めるが、オヤジはまるで俺なんかはじめから居なかったかのように見て見ないふりをしていた。


オヤジからすれば、俺はブサイクだし、魔法の才能も低かったので忘れたい存在だったのかも知れない。それに俺を何だか憎んでいるような気がした。


そして、十歳のときに俺は今の家を与えられた。


……家というか小屋だ。


しかも、「顔も見たくないから」という理由で、家族が住んでいる屋敷からかなり離れた場所に突然与えられた。


本当に、ほったて小屋だ。


「あなたは今日からここに住みなさい」と、そう言われて小屋に案内されたとき、俺は絶望した。


「こ、ここに一人で?」


「そうよ。じゃあね。学費だけは振り込んであげるわ。生活費は何とかなさい」


十歳の俺に無情な言葉を投げかける義母は、振り返りもせずに去っていった。


俺は、黙って現状を受け入れた。


俺は十歳にして家を出て自立することになったのだ。


幸いにも家事はすべてやらされていたので、困ることはなかった。


生活費を稼ぐためにバイトをいくつも掛け持ちした。


たまに屋敷の近くを通るが、明るい屋敷の中から笑い声が聴こえてくる。


弟と妹達がうらやましかった。


「俺はなにか悪いことをしたのだろうか……。何がいけなかったんだろう」


自問自答する毎日が続いたが、それも考えないようにした。


一応、必要最低限のお金は与えられて学校へ通えていることを考えると、恵まれているほうなのだろう。それが貴族の体面を保つためだとしてもだ。


ただし、生活費は自分で稼がなかければいけない。


学校が終わったら、バイトを掛け持ちしてヘトヘトになるまで働いた。


十歳からそんな生活が続いている……。

走馬灯終わり。


俺は、「ハッ!」と目が覚めた。


そして、痛みと共に現実がやってくる。集団リンチを受けている現実が……。


「このクソブタが!!」


「……!」

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