第3話 「テレポーテーション」といえば、美味〇んぼやエスパー〇美(今どき世代のがきんちょどもにはわからないだろうな)

 いくつものスマホが並べられたショーケースは、その中にあるスマホたちとともに、何も言わない。

 けれど、それがかえって、いやらしくもある。

 無言であればあるほど、ドキドキさせられるだからだ。

 「お客様?」

 「はい」

 「まずは、タツミで、いかがでしょう?」

 「タツミ?」

 …それは、先輩の名前だぞ?

 「お客様は…エッチなんですね」

 「…え?」

 「そうだ、お客様?」

 「はい」

 「タツミ以外にも、オススメが、あるんです」

 「…へえ」

 「スナガも、ありますからね?」

 …スナガ?

 「ほかにも、タカクラ、タナカ、クマダ、オオウチヤマなど、まだまだ、取りそろえておりますからね?」

 …何だって?

 皆、塾の講師の仲間だぞ?

 「お客様?緊張、しちゃったんですか?」

 女性が、ツバキの手を、握った。

 「あら、かわいい」

 「はい?」

 「お客様は、恥ずかしがらなくて、良いんですよ?」

 「…はあ?」

 「店の入口は、閉めましたから」

 「…何?」

 「ここから先は、いくつもの世界が広がっております」

 「あ、そうなんですね?」

 「ここは、今は…」

 「はい」

 「私たちだけの世界…」

 「…え?」

 「ああん…」

 「やめろ!」

 「お客様?ウソ、なんでしょ?」

 「…はい?」

 「本当は、やめてもらいたくなんか、ないクセに」

 「…う」

 「あん」

 「…うう」

 「お客様?」

 「は、はい…」

 「あふ」

 「やわらかいんだ…」

 「やあん」

 「かわいいんですね」

 「…お客様?今度は、どこの世界が、お好み?」

 何だって?

 ツバキは、一体、何の世界に、迷い込んでしまったんだろうか?

 「星野君の二塁打」も気になったが、それ以上に、今は、塾の講師仲間たちが気になるばかり。

 皆の顔が、浮かんできた。

 「タツミ先輩に、ヤマシタ、クマダ、タナカ、オオウチヤマ、スナガ、タカクラ、イケダ、ヨシユキ、オカムラ、シンカイたち…」

 謎の女性の手は、ゆるまない。

 「あん」

 「ちょ」

 「お客様?元気を、出して」

 「あ…」

 「ううん…」

 「お客様は、かわいいんですね」

 「…あなた、だって」

 「そして、たくましい」

 「…そ、そんなところを!」

 「あ…」

 女性は、はげしかった。

 「ああ…」

 ツバキの手をとって、自身の胸元に、たぐりよせた。

 「あ…」

 「あん」

 「ああ」

 「だって…」

 「だって、何です?」

 「お客様は…」

 「何です?」

 「お客様は、私を、注文されたじゃないですか」

 「…」

 すると…。

 何だと?

 目の前が、ピンク色に輝きだした。

 「…よう、ツバキ?」

 どうやら、辞めた学習塾の庭に、立たされていたようだ。

 「タ、タツミ先輩!」

 「よう、ツバキ」

 え、あれ…?

 「どうした、ツバキ?」

 「タツミ先輩…?美味〇んぼ?テレポーテーションなのでしょうか?」

 「美味〇んぼ?テレポーテーション?」

 「…あ!まさか、それって、エスパー〇美?」

 「今どき世代のがきんちょどもにわからない話は、やめろ」

 「でも、先輩!」

 「何だ?」

 「美味〇んぼの漫画には、本当に、テレポーテーションの場面が出てくるんですよ?」

 「何だって?」

 「本当ですよ、先輩!」

 「料理の漫画なのに、か?」

 「そうなんです。テレポーテーションで、外国の料理事情を見る話があるんですよ、先輩!」

 「何?東西新聞社は、海外取材をさせないっていうのか?」

 「きっと、取材費が落ちないんですよ!先輩!」

 「経費じゃ、落ちんのか!」

 たがいに、疲れていた。

 ツバキは、なぜ、関西地方の山側に移住したのか?

 それは、今の話に乗ってくれた、タツミ先輩の実家があったからだ。

 「うちに、こい」

 親切な先輩、だった。

 ちなみに、この人は、エロくはないようです。

 どうなることやら。





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