第14話 カエルと神様
奈良行きのワンマン電車に乗り天理で下車。天理の駅前から歩いて石上神宮に向かうことにした。駅から石上神宮まではほぼ直線距離だ。
余談だが私の実家は天理教の教会である。
生まれる前からこの天理市にはしょっちゅう来ているのだ。天理教の教義では、天理市は人間発祥の地であり、全人類の故郷である。駅にも商店街にも大きな垂れ幕が掲げられており「ようこそ、おかえり」の文字が。
長い商店街を抜け、天理教の本部である神殿の前を通る。流石に素通りするわけには行かず、おざなりな参拝をする。適当でごめんなさい、今日のお目当ては石上神宮なので行ってきます、ととんでもなく不敬なお参りをしてから再度石上神宮へ。
大きな道路に出る手前にFamily Mart発見。看板が天高く掲げられていた。喫煙者のおっちゃんはFamily Martの外にある喫煙スペースに置かれたベンチに座り幸せそうにタバコを吸い始める。
「じゃあ、ゆっくり石上神宮行ってきて。ここで待ってる」
お尻に根が生えたおっちゃんはここでリタイア。目の前には『石上神宮へはここで右折』の看板が見えたが、角度的にこの大きな道路を右折なのか、その先に進んだ所を右折なのか分かりにくい。取り敢えず真っ直ぐ行ってみることにした。
「ゆっくりお参りしておいで〜」
とおっちゃんに見送られ信号を渡って直進してみるが、緩やかに右にカーブする一本道で右折できる道などなかった。やっぱりあの大きな道路を右折やったんやな、と戻ろうとした時道路標識のポールに細い張り紙が見えた。
『石上神宮↑』
ん? 道なんかある?と思ったら、ありました。私一人ギリギリ通れるくらいの細〜い路地が民家の間に。こんなとこ通っても良いのかと心配になるほど細い道だったが、方向は合ってる筈だと進んでみることに。
しばらく進むと急な下り坂になった。ホンマに合ってるんかな、とまたしても不安になってくる方向音痴の私の前に真っ黒なトンボが現れた。
トンボは超低空飛行で、地面に降りては私が近づくとまた飛び立つを2.3回繰り返し、まるで案内して来れているかの様だ。そのまま後を着いていくと川が流れ橋が掛かっている。わぁ綺麗やなぁと景色に見惚れている間に黒いトンボは消えていた。橋を渡って進むとそこには石上神宮の立看板が!おお!
到着した石上神宮は夜には一人で来れないかも……と思う様な薄暗さでちょっと怖い。鳥居を潜り参道を進むと右手に池があり、その前には何故か鶏が小屋で飼われていた。
とにかくコケコッコーと鳴きまくる鶏の声を聴きながら参拝する。
石上神宮の御祭神は
出雲の国譲りの際に
日本書紀では国譲りの時武甕雷神と一緒に出雲に来た
武甕雷神は藤原氏の氏神なので、没落してしまった物部氏より藤原氏の功績を讃えるために色々忖度されてんじゃないのと想像してしまう。
兎も角こちらも無事参拝出来たのでおっちゃんの元へ帰ることにした。Family Martの看板は遠くからでも良く見えたので、それを目印に迷うことなくおっちゃんの元へ。タバコを吸うだけでは失礼なので、おっちゃんはコンビニでガリガリくんを買って一人ぼんやりと食べながら待っていたのだと言う。エエおっさんがこんなとこでアイス食っているというのもどうなのかしらと思いつつ、全ては私の為だけの小旅行に何やかんや付き合って来れたおっちゃんに感謝した。
当初は帰り道にある大阪の鶴橋で下車して焼き肉でも食べようと話していたのだが、あまりのヘトヘト振りに食べて飲んでした後電車で家に帰るのはダルいな、と結局そのまま地元まで帰って来て行きつけの居酒屋へ直行した。
日本酒と刺身を食べながらおっちゃんが、
「あのカエル、殿様ガエルやったな」
と登拝口の近くで出て来たカエルの話を始めた。
「殿様ガエルってあんなに大きいんやなぁ」
と返しながら、アレ?と思い至った。
スクナ様の御使いって蛙じゃなかったっけ。確か淡嶋神社の立て札に書いてあったぞと。
「もしかして、磐座神社からスクナ様がカエルに乗って会いに来て来れたんかなぁ」
私の妄想におっちゃんが一言ポツリ。
「ようこそ、おカエル」
あの殿様ガエルの背中に自来也の様に乗った少彦名命が「おかえりー」と迎えてくれた姿を思い浮かべニヤつく私。呆れるおっちゃん。
でもそんなことを夢想しながら飲む日本酒は、さっきまでよりずっとずっと美味しくなった気がした、そんな大満足のプチ旅行の締め括りでした。おしまい。
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