第13話 限界突破と三輪そうめん

 登拝口から暫く階段を上ると大きく左へ曲がり、なだらかで平坦な道が続く。後からおっちゃんに聞くと、この辺りまでは「山登りもなかなか悪くないなぁ、また来ても良いかも」と思っていたそうだ。

 ①の丸太橋を渡ると少しずつ傾斜がキツくなってくる。②の中の沢を過ぎた頃から急な山道。この辺りからおっちゃんの様子に異変が……ゼイハァ、ゼイハァと荒い呼吸が聞こえて来だした。そろそろ後悔し始めたかもなぁと他人事のようにそんなおっちゃんを見ながら黙々と歩き続ける。足を滑らさない様におっちゃんを見張りつつ後ろを歩いていたが、今にして思えば足を滑らせたところで100キロ近いウチのおっちゃんを私が支えられる筈もなく、階段から転がり落ちて来れば巻き添えを食うだけだった様にも思うが……

 ヘロヘロのおっちゃんの限界が見えてきたそんな時、③の三光の滝にある休舎が見えてきた。ログハウスというか山小屋というか、滝の前に建てられた小さな休憩スペース。ベンチがあって座れる様になっていたためホッと一息。先程ペットボトルに汲ませて頂いた薬井戸のご神水を二人で分け合って飲む。

「今どの辺?」

 ハァハァがだいぶ治ったおっちゃんが聞いてきた。

「3分の1ぐらいかなー」

 絶望的な表情のおっちゃん。

「これで3分の1か……」

「しんどかったら降りて待ってて」

 そう言いながら、絶対この人は最後まで登るだろうと思っていた。何故ならウチのおっちゃんは対外的には大人しく温和そうにしているが、全国負けず嫌い選手権に出場すれば、かなり良いとこまで勝ち上がれるぐらいの負けず嫌いだからだ。そんな大会聞いたことないけど。

 案の定「ほな、そろそろ行こか」と立ち上がった。

 ここからは登りに次ぐ登り。ひたすら急な丸木や石の階段的なものが組まれた道を登り続けた。足が上がらなくなって露出根に何度も引っ掛かる。④の水呑台が何処だったのか覚えていないほど必死でひたすら歩く。

 やっと大己貴神を祀った⑤の中津磐座まで来ましたよー。手を合わせる私とは対照的にもはやただの限界突破に挑戦!みたいになっているおっちゃんは前だけを見つめている。

 ここで丁度半分ぐらい。

 先に登っていた参拝者さん達が下山してくるのとすれ違う。「こんにちは」と一礼して挨拶を交わす、ハイキングベアと間違われそうなおっちゃん。

 杖を持たずに登っている余り若くない夫婦を見て、4人組のお嬢さん達が、

「杖なくて大丈夫ですか!この先もまだまだ坂キツいですよー 良かったらコレ使って下さい」

と自分達が使っていた杖を差し出してくれる。優しくて別嬪さんのお嬢様方。

「あ、大丈夫です。ありがとうございます」

 愛想良くにこやかに答えるおっちゃん。

 痩せ我慢選手権にも出られそうである。

 本当は全然大丈夫ではないまま登る、登る、登る。フラフラしながらも何とか歩いている。それを見ながら私はというと風を感じていた。台風が近づいていたせいなのか、風が強く吹いていて気持ち良い。雨も降っていたようで帰り道では石が滑って怖かったが、この時は木々に覆われているせいか、全く雨を感じなかった。ただただ清々しく心地良い風が吹いていた。目を閉じて風を感じていても聞こえてくるゼイハァ、ゼイハァ……

 がんばれ、おっちゃん!あともうちょっとだ!多分……ホンマは知らんけど。

 無我夢中のうちにようやく頂上の高宮神社へ到着、いやここは頂上じゃなかった。まだ446.7メートル地点。更にもう少し上にある興津磐座へと向かい本当のゴール。パチパチパチ。

 流石にここではちゃんと手を合わせてお参りしてました、ウチのおっちゃんも。

 降りは早い。しかし私は下山が苦手、ガラスの膝を抱えているから。

 行きはよいよい帰りは怖い。泣き言を言いながら降りる私に、

「転がり落ちんといてよ。担いでよう降りんで」

と冷たく激励するおっちゃん。

 本当に山道って下りがキツいです。膝が悲鳴をあげた後は笑い出した。爆笑する膝とともにおっちゃんの後を追い、登りより半分くらいの時間で降りて来られた。眼下には出発地点の登拝口が!

 あぁ、無事に生還出来たー と安心した時、突然目の前に20センチくらいの大きなカエルが出現!わぁーっと思わず叫ぶ。

 何でこんなとこに!しかもカエル?大物主神ならヘビじゃないのかっ!

 久しぶりにこんな大きなカエルを見たなぁとまじまじと見つめたが、飛んできたら怖いのでちょっと距離を取る。茶色い体につぶらな瞳、よく見れば可愛らしい顔をしている気がする。通り過ぎながらも振り返って見てしまう。カエルもずっとこっちを見ている様な気がした。

 そして無事到着!「三輪山参拝証」の襷を返却し登拝は終了した。直立不動の姿勢をとると膝が勝手に震える、生まれたての子鹿再び。しかし神社巡りはまだまだ終わらない。

 

 狭井神社から次は久延彦神社へ。

 大国主命が初めて少彦名命にあった時、少彦名命が名前を言わないので、「この神様誰?」と大国主命が多迩具久たにぐく(ヒキガエル)に聞くと、「多分、久延毘古くゑひこ(かかし)なら知ってると思います」と答えた。さっそく久延毘古に聞くと、「この方は神産巢日神かみむすひのかみの御子、少名毘古那神すくなひこなのかみです」と教えたという、物知りの案山子さんである。

 久延彦神社のあとは若宮社へ行き、再び大神神社の二の鳥居の前に戻って来た。

 次は天理の石上神宮いそのかみじんぐうへ向かうのだが、何と電車が一時間に一本。次の電車まで50分以上ある。

 朝7時に家を出た私達は空腹のため行き倒れになりそうだった。三輪と言えばそうめん、そしてそのそうめん推しが激しい街だった。取り敢えずにゅうめんを食べたおっちゃんは、店を出てから一言。

「ウチのにゅうめんの方が美味いで」

 正直ちょっと嬉しかったけど(お店の人すいません)、あのね、おっちゃん。ウチのそうめんは三輪そうめん使てまんねん。

 長くなり過ぎたので更に次回に続いてしまいました。すいません。


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