第5話 みちびき
磐座信仰というものがある。
「山や石、岩などを依り代として信仰すること」とWikipediaには書いてある。広辞苑には磐座とは「神の鎮座するところ。神の御座」神道辞典には「そこに神を招いて祭りをした岩石。その存在地は聖域とされた」とある。
兵庫県西宮市にある「越木岩神社」には高さ十メートル、周囲三十メートルの花崗岩「甑岩」が祭られている。
御神体はこの甑岩(甑岩大神)と市杵島姫大神なのだが、千数百年前の延喜式神名帳には「大国主西神社」と記録されている。創建は西暦600年~700年頃、この時代に起きた大地震を機に地鎮を目的として、大地を司る神、大地主大神(おおとこぬしのおおかみ)=大国主命が祀られたそうだ。
またまたお会いしましたね、大国主命様。ホンマにどこにいってもいらっしゃいます。
住宅街の坂道を登っていくと突然現れるこの神社。鳥居をくぐると一瞬にして森の中に迷い込んだような気分になるほど、木が生い茂りアーチのように参道を囲んでいる。何度も参拝しているのだが、最初にひとりで訪れた時には、カラスがお出迎えするかのように石灯籠の上からこちらを見ていた。神秘的で厳かで男性的な神社だ。
巨大な霊岩。触れることも出来る。ひんやりとしていたが、特にビビッと何かを感じる事も無く、あまりベタベタ触るとウザがられるかなぁと、そおっと触れる程度にしておいた。
神社に参拝した後は、近くにある植物園を目指すつもりだった。住宅地だがかなり山を切り崩したところにあるようで、とにかく坂道が多い。急な登りの後に、急な下り。しかも私はあり得ないほどの方向音痴で、大きな商店街では店に入って出てくると、自分がどちらから来たのかわからなくなるほどだ。地図も読めない。進行方向に地図をくるくる回して結果反対方向に自信満々に進んだりする。
そんな私が、ウォーキングガイドなどに載っている大まかな地図で目的地にたどり着くなど奇跡に近い。なのにいつも無謀なチャレンジをしたくなる、やっかいな性質なのだ。
案の定迷いに迷った。どうしてそんなことになるのか謎なのだが、越木岩神社に二回も戻ってしまった。神社から離れるように歩いて居るはずなのに……
今度こそと再度地図を確認して植物園を目指す。途中の道で何百メートルも続く白壁の建物に遭遇した。塀のせいで中がよく見えないが、木々が生い茂っているのはわかる。
これがもしかして植物園なのでは。裏口の門はいつも開いているのでそこからも中に入れるとガイドに書いてあったぞ!見れば少し先に小さな木戸が開いていた。
昔のお屋敷の裏口みたいな作りだ。植物園っぽくないけどなぁと思いながらも中に入ってみた。林のような風景が広がっている。湿った土と大きな木が立ち並んでいる先に建物があった。平屋造りの大きな和風の建物で、ガラス窓から竹箒のようなものが見える。管理小屋みたいな感じかなぁと更に近づくと、小山のように斜面が上に伸びており、民家のような建物が見えた。
え、あれ?ここって私有地?
明らかに植物園ではなさそうだった。
(私、不法侵入?!ヤバっ)
慌ててもと来た道を足音を忍ばせて走った。裏口どこっ?!誰か来たら何て言おう……心臓がバクバクした。
裏口から飛び出して更に走って逃げた。白壁沿いにひたすら進む。何度か角を曲がったが正面の入り口が見当たらない。ずーっと壁。何だか怖くなって壁から離れようと別の道を探して進んだ。自分がどこに向かっているのかは、もはや全くわからなかった。
そしてトータルで2時間以上歩き回ったあげく、目の前には越木岩神社の西域にある「甑不動明王」さまのお姿。またしてもふりだしに戻った。このすごろくは一生ゴールにたどり着けないと諦めた。
最後にもう一度神社に参拝してから、もと来た道で駅まで帰ろう……
神社に戻ってからやっと気がついた。
越木岩神社には「南座・中座・北座」という3つの磐座群があるということに。私はその日、まだ南座にある甑座しか参拝していなかった。
甑岩の右側に枝分かれした道が続いており、その道を進むと北座の磐座へたどり着けるのだが、それに全く気がついておらず、しかも北座の磐座の後ろには中座の磐座という更にもう一つの磐座があったのだ。
あとで調べて知ったことだが、この中座の磐座の前に進んだ際に陽の光が射すと願いが叶うらしい。
あの時陽が射していたのかもう覚えていない。というか、私は何もお願いしていなかった。何しに神社に行っとんねん、という話なのだが。
あらためてお詫びとお参りをさせていただいた。ずっと呼び戻して下さっていたのかも知れない。お手間掛けて申し訳ございません。
帰り道はまたしても無謀魂に火が付いて夙川という川沿いに帰りたいと、来た道とは違う道を探した。
不思議なことに今度は一発で夙川にたどり着き、川沿いを楽しんで帰ることが出来た。
越木岩神社 私の一押しの神社だ。
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